5話 プリクラを家族で撮ってみた
プリクラ内に家族で入るとそれなりにぎゅうぎゅうな状態になっていた。
『撮りたいコースを選んでね』
プリクラの液晶に”うるふわ”と”さらふわ”二つのコースが提示される。
「どっちがいい?」
「んーわかんない」
「俺もわからん」
違いがいまいちわかんない。
根っからの女の子の氷彗でも分かんないんなら、俺たちが分かる訳もなく。
「どっちでもいいんじゃない?」
母さんが後ろから優しい声で喋った。
「じゃあ、どちらにしようかな天の神様の言う通り! こっち!」
氷彗は”さらふわ”を選択した。
『好きな背景を選んでね』
次の指示でいくつもの背景が表示される。
「んー」
氷彗はメニューバーを幾度も切り替え、良さげな物を吟味している。
にしても、これは多いな。
柄物から景色、CGから単色。
幅広い背景に氷彗は唸る様に選ぶ。
「ちなみにあきにぃはどんなのがいいの?」
「えっ……。んー」
そう言われてもなぁ。
家族で撮るんだし……。
「普通な単色のノーマルのやつがいいんじゃない?」
「んー。でもなぁ」
氷彗は俺の意見を聞くも、未だ悩んでいる感じだった。
そんな俺たち二人の様子を見かねてか、母さんが口を開いた。
「せっかくなんだし、クリスマス仕様のこれなんかどう?」
それは赤背景に手前角にリースとツリーがプリントされているものだった。
「あーいいんじゃない」
俺は母さんの意見に賛同すると氷彗も。
「そうだね、これにする」
氷彗はクリスマス仕様のデザインをタップした。
『撮影するよ、ポーズを取ってね』
画面は切り替わり、液晶には友達同志やカップルでの参考例の画像が映し出された。
「ポーズどうする?」
氷彗は俺に問う。
「ぴ、ピースとか?」
「えー普通すぎだよ」
と言われてもなぁ。
氷彗は少しむくれる様子で俺を見てきた。
「じゃああきにぃは私とハート作ろ」
「カップルか!」
氷彗は片手を俺の横に差し出し、それを見た俺は頬を赤らめながら声を荒げた。
しかし、
「いいじゃない、二人とも可愛いんだし」
と、母さんが。
「そうだな」
と、父さんが。
「ぐっ……」
これはハートで決定なのでは?
俺は少しだけ尻込むも、後ろに立つ両親を見る。
「じゃあ、父さんと母さんも二人でハート作るんだよね」
「そうね」「まぁ、そうだな」
「……えぇ」
あまりの即答に俺は少し引き気味でジト目を向けた。
両親は少し照れている様子を見せるが、満更でもない雰囲気だった。
仲が良いのは良いけど、流石に両親のハートと一緒に撮るのは気恥ずかしいんだが。
「じゃ決まりね!」
「ちょ、待って」
俺の考えもつゆ知らず、氷彗はタッチパネルの”スタート”を押す。
『撮影するよ、カメラを見てね』
プリクラ機は10秒前からのカウントダウンを始めた。
「ほら、あきにぃ早く」
「わかった、わかったから」
俺は片手を差し出す氷彗と合わせ鏡になる様に手を合わせた。
後ろでは母さんはニコニコと、父さんは照れ笑いを浮かべながらポーズをとっていた。
そしてシャッターが切られる。
『もう一度撮影するよ』
「次はどうするの?」
「スマホだして! あきにぃ」
「えっ、まだ箱から出してないよ?」
氷彗は”あっ”と思い出したかのように、俺の手に握られる袋を揺さぶった。
「クリスマスもそうだけど、私のスマホ記念でもあるんだから!」
「わかった、ちょ、ちょっとまって」
「早く!」
カウントダウンは止まることなく、刻一刻と刻まれていく。
キッズスマホが入った袋は丁寧にテープが貼られており、なかなか取り出せずにいる俺。
「ちょ、ちょっと待って、急かさないで」
「あと、5秒だよ」
「いやもう無理」
非力になってしまった俺は半分諦めながらも、テープで止められている箇所を強引に引っ張りなんとかしてスマホの入った箱を取り出した。
しかし、その瞬間に――…
「あっ」
シャッターが切られてしまった。
「もうあきにぃ!」
「いや、ごめんて」
隣で氷彗は少しむくれていた。
「まぁ、いいんじゃない。これも思い出よ」
氷彗を宥める様に頭を撫でる母さん。
『目の大きさと明るさを選んでね』
ムッとしている氷彗を無視するかの様に、無機質な機械音声が狭い部屋に響いた。
「ほ、ほら氷彗の好きなように選んでいいんだよ」
俺は誤魔化すように液晶パネルを指差す。
しかし氷彗は特にいじることなく次に進ませた。
そして、
『文字を入力しよう』
と、液晶が切り替わると氷彗は付属されているペンを握り書き殴り始めた。
ゲーセンを後にした私たち家族はついさっき撮ったばかりのプリクラを眺めながら歩いていた。
「ねぇ、疲れたからそろそろどっかで座りたいんだけどー」
少し前を歩くあきにぃを見て、そして手元にあるプリへとまた視線を落とした。
半分はあきにぃと私が、パパとママがハートを作る可愛い写真。
へへ、あきにぃ耳まで赤い。
パパも照れてる。
ぎこちなくもしっかりと手を合わせて、ハートを作ってくれた。
そんな写真には“私”、“あきにぃ”、“パパ”、“ママ”と手書きをして、雪だるまを書き足した。
そしてもう半分は問題の写真である。
せっかく私の初めてのスマホ記念だったのにぁ。
その写真はパパとママが後ろで苦笑いを浮かべ、私はあきにぃに急かすように片手にスマホを持ちながら袋をゆすり、あきにぃはやっとの思いで取り出したキッズスマホの箱を持ってはいるけど明後日の方向を向いている。
こんなに焦っているあきにぃに私は手書きで汗や髭をかきたし、『バカにぃ』と勢いで書いてしまった。
でもなぜだか、こっちの写真の方がハートの写真よりもあきにぃは自然に撮れており、私はなんとなく気に入っていた。
「ひーちゃん、帰ったらにしなさい? 歩きながらは危ないから」
「うん」
隣を歩くママからプリばっかりを見る私に注意が入った。
そして続け様に、
「次の目的地は3階かな?」
と、ママが。
「えー次? 次って何?」
少し気だるげに振り返るあきにぃ。
そんなあきにぃに私は。
「次はあきにぃの買い物だよ!」
そう言って笑顔を飛ばした。