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「すごいね、これ、口当たりがスルッとしていて、柔らかくて優しい味だ」


 わー、洋風茶碗蒸し、成功!!

 シイタケの代わりにマッシュルームとか、あとダーク・クロコダイルの肉をひとかけとか、トマトを小さく切ったりして作ったの。


「美味しい、グレースは料理上手だね」

「お口に合って、良かったです」


 わたしも、肩の力が抜けて、洋風茶碗蒸しを掬って口の中に入れる。うん。大丈夫、悪くない。


「これ、また作って」


 リクエストもされた。良かった。

 そうそう、こういう感じ、やってみたかったのよー。

 二人で食事して、わたしの料理褒めてもらったりとか。

 だけど、伯爵様はわたしが何を作っても褒めてくれそう……。


「それでグレース、パーシバル君の手紙はなんだった?」

「はい、そろそろ王都に戻らないとなりません。ジェシカとパーシバルの挙式が予定通りの日程で行われることになりました」


 この時期――社交シーズン終盤の挙式はけっこう駆け込みがある。そしてたまにだけど、寄付金でごり押しして高位貴族のねじ込みとかもある。なので、資金に余裕があって、ちゃんと結婚式したい家は押さえてるのよ、もう一つの教会を。

 まあ、今回ねじ込みはさすがにないとは思っていたけど……。新郎のパーシバルはメイフィールド伯爵家(子爵家から伯爵家になったのよ)の弟君だし、ウィルコックス子爵家当主になるんだもの。

 他の下位貴族とは違いますよ。でも、一応ね。何がおきるかわからないから、わりとギリギリにまで確定ができなかったけど、今回の挙式はねじ込みとかなくて、無事に式が挙げられることが決まったという知らせだった。


「そうか、じゃあ、戻らないとね」

「大丈夫なのですか?」

「うん。部下に任せても大丈夫。この地に慣れてきたようだし、直接王都に行って、上にも報告をあげないと。それに、俺とグレースの挙式の話も詰めていかないとね」


 やっぱり出来る人の部下は出来るのね。任せても大丈夫なのかぁ。

 そしてわたしと伯爵様の結婚式か……ピンとこないわぁ……。

 伯爵様はわたしでいいのかな?


「グレースは結婚したくない?」

「はい⁉」

「結婚の準備には消極的だからね」

「いえ、あの、それは――辺境領の開拓の方が早急に必要かと思っているだけです」

「嫌われてるかと思った」


 貴方を嫌う女性が、この国にいるんですかね!?

 例外なくわたしも大好きですけど?


「名前で呼んでくれないし」


 そこ、こだわる!?

 敬意を表して伯爵様呼びなんですが、ダメなの!?

 でも、伯爵様のこれまでを考えてみたら、そうよねえ、家族から名前で呼ばれた記憶とかなさそう。きっと亡くなられたお母様ぐらいで、それすらも、記憶としては薄れてるかもだし。

 じゃあ、はい、名前呼び~とか、照れるんですよ!


「義弟になるパーシバル君がちょっと羨ましいね、グレース達に名前呼びされてる」

「あの子は本当に弟枠なので……パトリシアお姉様もアビゲイルお姉様もそう思ってます。今でこそウィルコックス家、次期当主として落ち着いてきましたが……まあ、彼にもやんちゃな頃がありました」


 伯爵様は小首を傾げる。

 そうよね、年の割には落ち着いて、ジェシカ大好きなパーシバルしか見たことないものね。


「あの子が――わたし達の中で弟枠……まるで本当の弟のように接するのは彼が、学園で決闘騒ぎを起こしたことがあって」

「決闘騒ぎ?」

「はい。その理由が、『ジェシカに想いをよせてるけど、姉であるグレース・ウィルコックスにも気があるんじゃないか』と揶揄されましてね」

「……そんなことが……」

「相手が男爵家の次男坊だったのもあるのですが、パーシバルが、手袋投げつけたんですよ」


 ――貴様、その薄汚い口を閉じろ! 僕のジェシカへの愛を汚すなど、万死に値する!! 僕は、ジェシカの為ならば、命をも張る覚悟はとうにできている!!


 そう宣言したのよね。

 この話を聞いて、パトリシアお姉様もアビゲイルお姉様もわたしも――「よし、よく言った!」と快哉を叫んだものよ。

 当時、お父様は存命だったけれど、もう、これはお父様のご意向を聞くよりも、わたし達でまとめちゃおうって、特に結婚するまでにいろいろあったパトリシアお姉様が率先して、調えるように、わたしに指示を出したのよ。


「それはすごいね」

「その時のあの子は、本当はメイフィールド家の次男だから軍に入るかと進路を考えていたようです。ですが、わたしの傍につかせて、ウィルコックス家の領地運営を手伝わせました。わたしになにかあれば、ジェシカがウィルコックス家を背負うことになる」


 前世のわたしみたいに、若くてもぽっくり逝くこともあるからね。

 今世の両親は頼りにならないし、ジェシカをしっかり守ると宣言できるその気概、ゆくゆくはウィルコックス家を継がせてもいいだろうと姉二人とわたしの間でそういう結論がでたわけ。

 パーシバルの進路を変えてしまうけれど、ジェシカを傍で守るには、軍に入ればジェシカと今みたいに一緒にはいられないよと、あの子の進路希望を領地経営コースに変更させて、わたしの傍に置いて、従僕……いや、ほとんど秘書代わりのように仕事を振ってきたのよね。

 当時のわたしの婚約者であるクロード・オートレッドよりもよほど頼りになるし、勤勉だった。

 わたしの、元婚約者は――なんていうか、わたしを当時から気に入らなかったみたいだし。

 それはいいんだけどさ。


「それで、パーシバルにウィルコックス領に関していろいろと教えるというか……手伝わせることにおいて、また、同様にそれを揶揄する同級生がいたのですが……。彼はことごとく手袋を投げつけて決闘を申し込むことに……」

「なるほど……」

「だから、レッドクライブ公の夜会で、ブレイクリー卿から最初に難癖付けられた時に、伯爵様も同じようにされようとしたので、ちょっと驚きました」

「グレースは止めたよね」

「止めてよかったです。だってヴィンセント様のお兄様ですもの」


 伯爵様はグレースには敵わないなと言って、かすかに笑っていた。

 それはわたしのセリフなんですよ、伯爵様。



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