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転生令嬢は悪名高い子爵家当主 ~領地運営のための契約結婚、承りました~  作者: 翠川稜
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16 閑話 イライアス・ブレイクリー視点

 


 目の前にいる女は言った。


「ブレイクリー侯爵家にとって、レッドクライブ公は大恩の方です。ヴィンセント様はその血筋の方、本来ならば、陰、日向なく、ヴィンセント様にご助力したいと思われている。にもかかわらず、悪評まみれの得体の知れぬわたしとの婚約です。ブレイクリー卿からみれば、過度な警戒もあるというもの」


 まさしくそのとおりだ。




 ブレイクリー侯爵家の娘――ベアトリス・ブレイクリーは、王族に連なるレッドクライブ家と、自分自身の生家であるブレイクリー家に泥を塗るかのような事をしでかした。


 本人にとってみれば、その恋にすべてをかけただけ――……。


 なんだろうが、とんでもないことだ。

 そして私自身は、ベアトリス・ブレイクリーがレッドクライブ公爵との結婚の数日後に、庭師と手に手をとっての駆け落ちした末にできた子供で、とてもじゃないが、ブレイクリー侯爵家当主の座に治まるような身ではないのは承知している。

 現在こうしてブレイクリー侯爵家当主としていられるのは、偏に、レッドクライブ公の取り計らいによるものだ。

 王都の下町で発見されたわたし自身はまだ赤子で、孤児院に引き取られる。

 院のシスター達はわたしの見た目と、母の形見の指輪が産着の中にくるまれていたことから「どこぞの貴族のご落胤かもしれない」と思っていたようで、その予想は当たり、二日後には身なりのいい執事然とした人物が訪ねてきた。

 わたしを探し当てたのは――レッドクライブ家の使いの者で、駆け落ちしたベアトリスを捜索していたのだという。どうやら王都だけではなく、ベアトリスとその庭師は近郊の領地を点々としていたが、生粋の貴族家の令嬢には、そんな逃避行にその身が持たなかったようだ。

 公爵は祖父母を呼び出した。

 祖父母の前で、生まれて間もない私を、レッドクライブ公は抱き上げていて、意外と閣下は子供が好きなのかと祖父母は思ったそうだ。


「ベアトリスに良く似ている。ああいう結果にはなったが、幸いにしてこの子はブレイクリー家の特徴が濃い子だ……私自身で預かってもいいが……後継にはできない。理由はわかるだろう?」


 祖父母たっての願いで、ベアトリスの子をブレイクリー侯爵家の後継に据える。そういう事にした方が――レッドクライブの血を一滴も受けていない私の為にはいいだろう……。

 王位継承権に関わる立場になれば、いずれはこの見た目から出自を詮索され、ブレイクリー家の名誉にも傷がつく。

 そして、レッドクライブ公はブレイクリー侯爵家の立場だけではなく、私自身も護ってくださった。


 ――イライアスを次期ブレイクリー侯爵として養育するように。


 この銀の髪と翡翠の瞳は、祖父母が大事に育てたベアトリスに瓜二つ。ブレイクリー家の特徴が出ていた事もあって閣下はそう判断されたのだろう。

 これが庭師に似ていたら、どうなっていたか。

 元々、この婚姻の条件に、閣下とベアトリスの子が二人以上いれば、そのうち一人はブレイクリー侯爵家に入ることも含まれていた。

 ベアトリスに似た子供が可愛くて、当主がブレイクリー家に是非にと願った――と、表向きはそういうことになっている。

 それを知らない――親族の中には、レッドクライブ公の御子ならば公の後継になるべきではという意見がことあるごとに持ち上がったが、結局は、祖父母がそれを黙らせた。

 祖父母からこの経緯を聞いて育った私は、ブレイクリー侯爵家とレッドクライブ家には、この身を捧げ、自らを研鑽するしかない。


 ヴィンセントの存在を知ったのもその頃だ。

 レッドクライブ公の庶子ではあるが、あそこまで王族の色を濃く持つ子はいないだろう。

 まだ幼いのに、軍に入っていて、その魔力で軍が注目をしていた。

 子供ながらも、家族に縁がなく孤独な感じが――どこか自分と重なる。

 この子は――この子こそ、大恩あるレッドクライブ公の後継だ。

 軍関連だとブレイクリー家は接点がないが、軍に身を置いている知人の紹介で接触し、友人のポジションになるまで、ずっと弟みたいなヴィンセントを見守って来たのに……。


 ――結婚するよ。相手はグレース・ウィルコックス子爵だ。


 これをヴィンセントから聞いた時の私は「お前、女を見る目がなさすぎだろおおおおお!!」と心の中で絶叫したものだ。


 グレース・ウィルコックス。


 貧乏子爵家の三女に生まれ、父親を追い落とし、自ら爵位を手に入れ、領地を盛り返した女。

 婚約破棄もされ、婚期だってギリギリ。

 ご令嬢達からはあまりいい噂を聞かない女だ。

 結婚するなら、もっといい女がいるだろう?

 ありえない。そんな女との結婚なんて、認められるか。


「イライアス。近々グレースがこのユーバシャールに来るから」

「は!? 社交シーズンだろ!?」

「領地の状態を見たいようでね。この前の――レッドクライブ公の夜会のようにあたらないでくれ」

「本当に、本気なのか?」

「何が?」

「グレース・ウィルコックスとの婚約だ! あの女と、本気で結婚する気なのか!?」

「じゃあ聞くが……どうして反対なんだ?」

「お前は、レッドクライブ公の――王弟の子、何かがあれば、お前が――」


 それ以上は言うなという、強い視線を向けられて黙る。

 だが、内心は叫んでいた。

 国の冠を頂く、王位継承権だってあるんだぞ?


「イライアスに祖父母である先代のブレイクリー侯爵がいたように、グレースには姉妹がいた。噂される悪評も、グレースがウィルコックス家を姉妹達を護るために自ら被ったようなもの。噂とは違うよ……強くて優しい人だ」


 社交シーズンなのに、領地に乗り込んで、あれこれとヴィンセントに自分の考えを述べる。

 ヴィンセントの拝領した領地を、豊かにしようと、その意思ははっきりしてる。

 強いだろう、普通の貴族のご令嬢にはない。私の悪態もスルーするのだから。

 それをお前が御せるのかと思うんだが。

 だが……。

 黄金の瞳を煌めかせて、威風堂々と、その爵位の低さも何するものぞと、ただヴィンセントの為だと。

 あの女は言う。


「ブレイクリー卿、ヴィンセント様はこの悪名高いわたしに心をくださいました。この身は子爵家当主の身ではありますが、わたしの心は伯爵様を護る騎士でありたいのです。その為ならば、どのような悪評でも被りましょう」


 その姿はまるで、何世代か前の騎士のように凛としていた。




と、とりあえず、明日のお昼12時に公開する分は確保できたわ……。

明日もお昼12時にお付き合いください。

(イライアス視点で更新止まるとか、読者は望んでないと思うの、がんばれ、あたし……)


ブクマ、評価ボタン頂けると嬉しいです。


2/9にカドカワBOOKS様よりこちらのお話書籍化されます。よろしくお願いします。m(__)m

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