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ユーバシャール村、めっちゃ賑わってきた~。
前回の視察よりも人口多いから余計にそう感じるわ。
防壁の建築も順調。これはリスト山脈麓の採掘現場から運んだセメントを使用している。防壁材として強度を研究しつつ実際に使用してるのよ。
これを見た、スカイウォーク社とネイル社は、目の色変えて伯爵様に是非当社にも卸してくれと詰め寄ったらしい。
やっぱ現物見せるとそうなるよねえ。
スカイウォーク社なんて「交易路整備なんでしょ? これは採掘現場の村にさっそくつなげましょうよ」なんて言い出して、ブレイクリー卿を始め、何人かが採掘現場の村に足を運んで現状を見たら「え、こんな原始的な採掘? 資源いっぱいあるし、魔石魔鉱石だって採掘すんのにコレなの? 王家直轄領だったよね?」ってわたしが初めて視察した時と同じ印象を持ったみたいだ。
そんな現状を見て、ブレイクリー卿は魔獣対策の為にユーバシャール村を拠点にしている伯爵様に詰め寄った。
「ヴィンセント! あの採掘所、もっとなんとかしろ! もったいない!」
ブレイクリー卿の言葉を聞いた伯爵様は、その場にいたわたしに視線を向けた。きっと「グレースと同じことを言ってる……」と思ったに違いない。
こういうことを伯爵様に直接進言するとか、この人、自分の事の様に、伯爵様の領地を気にかけてない?
自分の領地にしようとかそう言う感じかな? と思っていたこともあったけど、どうやらそうじゃなさそうだし。
わたしが事前に準備していた採掘現場のトロッコ導入の計画書を伯爵様にお渡ししたら、伯爵様は書類に視線を落として、それをブレイクリー卿に渡す。
ブレイクリー卿は、その書類に視線を落として、「そうだよ、コレだよ!」と小さい声でぶつぶつ呟いて、はっとしたらしい。
「……これ、ヴィンセントが考えたわけじゃないだろ?」
ブレイクリー卿が伯爵様とわたしに交互に視線を送る。
「グレースが考えた」
伯爵様があっさりと伝えると、ブレイクリー卿は眉間に寄った皺を伸ばすように、指先を当てている。
「おい。腹黒女、お前……何をどこまで考えてる……」
腹黒女はやめてもらいたい。貴方に言われたくないわ。
ここは嫌な女全開で「やだー、伯爵様ーブレイクリー卿がこわーい」って伯爵様の影に隠れちゃおうかな。
そういうキャラじゃないのはわかってますけど。
なんか、ちょいちょいディスられるの、ムカっとくるからね。一遍やってみたい、やっちゃうか?
なんて考えていたら左側からなんかヒヤリと空気が冷えていく。
「ブレイクリー卿。……いや、イライアス、俺の婚約者に対しての物言いを改めろ」
伯爵様の声が、いつもより低くて、冷たさを帯びていた。
この人、こんな声出すのか……ってぐらいちょっと驚いた。
いつも穏やかで、にこにこして、大人で、時々素直で可愛い――そんな伯爵様の別の一面、いままで見たことのない一面を、初めて見た気がする……。
「おい、まさか、本気とか言わないだろうな?」
「何が?」
「この女に本気で入れ込んでるとか!? お前、自分の立場わかってるのか⁉ 父親の爵位をぶんどって、自ら爵位を継ぐ女だぞ!? しかも、子爵!? 侯爵家の娘だってお前なら――」
ブレイクリー卿は伯爵様につかみかかる。ブレイクリー卿の伸ばした手首を伯爵様は掴む。伯爵様はやっぱり軍籍に身を置いているから、パワーあるんだな……ブレイクリー卿は生粋の貴族っぽいもんね。
「グレースはそうしなければならない理由があった」
伯爵様はご理解くださってる……嬉しいな。
わたしはブレイクリー卿を見る。ブレイクリー卿が伯爵様を見る目はどこか悲し気だ。
この人――絶対、伯爵様のこと、好きでしょ。
いや、BL脳が発動したとかじゃないわよ? 多分、この人は伯爵様のことを大事なんだろうなって。
わたしがパトリシアお姉様やアビゲイルお姉様やジェシカを思うのと同じなんじゃないかなって。
なんかね、パトリシアお姉様の結婚の時の、ラッセルズ商会の若旦那に釘を刺した時のアビゲイルお姉様っぽいんだよなあ~雰囲気が。
だからブレイクリー卿がわたしに面と向かって悪態ついても、ガチでバトる気にならなかったというか。
伯爵様は伯爵様で、ブレイクリー卿のそんな気持ちに全然気づいてなさそうなんだもん。
レッドクライブ公の事とかも、いい例でしょ。
伯爵様、レッドクライブ公は職場の社長ぐらいの節度なんじゃない? わたしのウィルコックス家の姉妹みたいな感じは絶対ないから。多分、「お父さん」とか言ったこともないんじゃないのかなー?
それだけ伯爵様が、ご家族にご縁がなかったってことなんだけどさ……。
ていうか、伯爵様、カトラリーより重い物持ったことなさそうなブレイクリー卿の手首を解放して差し上げて……。
「ヴィンセント様」
わたしが伯爵様の名前で呼びかけると、伯爵様はわたしを見る。
「お手を放してあげてください」
「寛大だなグレース。だが、俺は婚約者を面と向かって悪し様に言われて許すことはない」
「ブレイクリー卿は、ヴィンセント様を案じておいでなのです」
伯爵様はわかってると思う。
ブレイクリー卿が、こんな風に、魔獣の危険があるユーバシャールまでわざわざ足を運んであれこれとスカイウォーク社に指示を出すなんて……ユーバシャールを自分の領地になんて考えてるわけがないってことも。
だから初対面の時の夜会で、あれだけわたしに暴言吐いたブレイクリー卿を入札にも呼んだんでしょう。
彼の労力が――伯爵様の為だってことは……伯爵様は、わかってると思うんだ。
伯爵様は、わたしの言葉で、イライアス様につかみかかっていた手を緩める。
「ブレイクリー侯爵家にとって、レッドクライブ公は大恩の方です。ヴィンセント様はその血筋の方、本来ならば、陰、日向なく、ヴィンセント様にご助力したいと思われている。にもかかわらず、悪評まみれの得体の知れぬわたしとの婚約です。ブレイクリー卿からみれば、過度な警戒もあるというもの」
わかるけどさ、でも、こっちだって初めてだったのよ。
好きだと言われたのは。
嬉しかった、心の底では、舞い上がるほどに嬉しかった。
前世でも今世でも言われたことがなかったから。
わたしを認めて、理解してくれて、好きだなんて言ってくれる人、もう、絶対現れないと思っていただけに。
どうせわたしの悪名はこのラズライト王国社交界において、知らない者はいない。どんな悪評でもどんとこいよ。
隣にいる伯爵様をお護りする為なら――。
「ブレイクリー卿、ヴィンセント様はこの悪名高いわたしに心をくださいました。この身は子爵家当主の身ではありますが、わたしの心は伯爵様を護る騎士でありたいのです。その為ならば、どのような悪評でも被りましょう」
……明日で連投おしまいになるっっ! スマンッ!!
2/9 カドカワBOOKSさんからこちらの書籍化した作品
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書影、活動報告にあげてますので、もし、書店や電子ストアなんかでみかけたら、
お迎えしていただけると嬉しいです。加筆もしてあって、イラストも素敵です。
ブックマークと評価ボタンなんかもしていただけると、作者モニタの前でむせび泣きますm(__)m。