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不道徳教育のすゝめ  作者: 山内
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記憶削除のすゝめ


 嫌な事と良い事のどちらが多かったのかと、ふと自分の人生を振り返って考えてみるに、私は良い事の方が多かったように思えたのですが、よくよく考えてみると決してそんな訳がありません。よくよく考えてみた結果は、よくよく考えなくても嫌な事だらけで御座いますが、具体的に嫌な事が何だったのかと思い出そうとしても、これまたいまいち解らないのであります。とどのつまり、私は嫌な事は忘れる性格なので御座います。過去の記憶があやふやなのはそういう事で御座いますし、記憶力が悪いのもそのせいかと思われます。そして何より恐ろしいのが、悪い事だけではなく、良い事も思い出せないのが今の私で御座います。


 私には壮絶な過去なんてありませんし、波瀾万丈な人生を歩んできた訳でも御座いませんので、ここで形容している嫌な事というのは、日常の些細なストレスという意味であります。借金だとか恋愛だとか仕事だとか病気だとか、そういった類の悩みは生きていく上で尽きる事はないのですが、それらを全て忘れる術があるので御座います。


 私も昔は人に言われた事をいちいち気にしたり、何かしらの出来事を引き摺ったり、むしろ嫌な事を咀嚼して飲み込む事が出来ずに反芻する人間だったので御座いますが、今では口にしたものを平気で吐き出して、何も残さないように出来る人間になりました。


 苦虫は噛まなければ苦くない。

 飲み込まなくても吐き出せばいい。

 そして、飲み込んだものも全て吐き出してやればいいので御座います。


 人間の適応能力というものは素晴らしく、嫌な事が日常になれば慣れてしまうものでして、それらに即した形で進化を遂げるので御座います。人から馬鹿にされたり怒られたりするのも、数をこなせば何も感じなくなりますし、更に慣れてしまえば、それらの事象を覚えておく事すら出来なくなります。毎日食べる晩御飯を覚えていられないように、毎日起きる嫌な事だって覚えていられなくなるのでありましょう。それを利用すれば大きな不幸にも対応出来るかと思われますが、今のところ私に降りかかるのは些細な事ばかりで御座います。いや、もしかすると何かしらあったのかもしれませんが、今の私には思い出す事が全く出来ません。常日頃から何かしらを忘れているような気がしますし、それはとても大切な事なのかもしれませんが、思い出せないのならば致し方ない。私はストレスフリーと引き換えに、記憶というものを捧げたのであります。だから何度も同じミスをしますし、人間としての成長も出来ておりません。それでも、ストレスフリーは快適で御座います。今の私は嫌な事を忘れようとするのではなく、嫌な事を覚えるつもりがありません。忘れることよりも覚えておくことの方が難しいのは、何事にでも当てはまるのではないかと愚考致します。


 読者諸賢の皆々様も嫌な事は忘れてしまえば良いのです。中には朝起きるのが嫌な人間だっていらっしゃるでしょう。寝れないから起きているし、死ねないから生きているような、生きながら死んで、死にながら生きている方も、とりあえずは今日という一日を適当に過ごしましょう。


 そして、一日の最後には嫌な事を全て忘れれば良いのです。

 生きるのが嫌なのならば、生きているという事を忘れてしまいましょう。

 今の私は自分が生きているのか死んでいるのかも判然としません。

 全てを忘れてしまいましょう。



 私は毎朝起きて思います。ここは何処だ私は誰だ、と。



 さて、忘れろ忘れろと再三申しておりますが、どうやって物事を簡単に忘れるのだと、そろそろ文句を付けたくなる方もいらっしゃるかもしれません。私もその方法を読者諸賢の皆々様に伝授したい所では御座いますが、実の所を申しますと忘れてしまいました。本当に申し訳御座いません。今の私は本当に何も覚えていないし、何も思い出せそうにないので御座います。また明日の朝にでも思い出したら追記致します。



追記「マルハチヒトフタ現在」

 ここは何処だ!?

 私は誰だ!?

 部屋が缶や瓶で散らかっているしトイレが酷く汚れているぞ!!

 何かを思い出せそうだが、頭が痛くて上手くいかない……


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