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不道徳教育のすゝめ  作者: 山内
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幸せの定義を確立のすゝめ

 私は頭が悪くて不細工です。異性からも相手にされないですし友達だって居りません。有り体に申しますと、私は中卒で彼女居ない歴が年齢(御歳48歳)の、チビデブハゲの三拍子をフルコンプリートしている男で御座います。


 普段はコンビニのアルバイトで生計を立てておりまして、毎日のように客から怒鳴られ、同じアルバイトの高校生達からは馬鹿にされております。唯一の趣味はポルノ鑑賞で、一日に二回以上は陰部摩擦に励んでおりますが、この歳になっても女性と目合いの経験は御座いません。


 最近の悩みは右奥歯の激痛にうなされている事で御座いますが、保険証とお金を持っておりませんので、ロキソニンとウヰスキーを飲んで耐え忍んでおります。いっそのこと歯をペンチか何かでむしりとってやろうかと企てておりますが、そんな勇気もありませんので、虫歯菌という意味不明な菌を憎みながら、半額弁当を左奥歯だけで咀嚼して過ごす日々です。


 上記の事柄は私が悲観的になって書いているのではなく、現実的に自己を形容しているだけで御座いまして、別に不幸を自慢している訳ではありません。全ては事実や現状を書いただけであり、過剰にも過少にも表現しておりませんし、私のような中年男性は特段珍しい訳でもないかと思われます。何もせずに様々な事象から逃げてきた男にありがちな境遇で御座いますし、そもそも私は自分を不幸などと思いません。何故かと申しますと、私は明確な幸せの定義を持ち合わせているからであります。件の定義に当てはめて鑑みるに、私は幸福な人間であると考察できます。


「幸せは主観的であって不幸は客観的である」


 私を客観的に見れば不幸な人間に分類されるかもしれませんが、それは誰かと比較するからであります。誰が何を言おうと、私は自己を幸福な人間だと疑う気は御座いません。昔は自分の事を世界で一番不幸な人間だと勘違いしていた時期も御座いましたが、今になって思い返してみますと、それは中途半端な自己嫌悪と希死念慮に甘んじていただけであり、不幸に溺れる自分に酔っていただけです。


「客観的な幸せは偽りであり、主観的な不幸はナルシズムである」


 比較対象が存在するから不幸に陥ると仮定した上で、客観的な幸福の裏側を見極める事が肝要で御座います。昨今は自己の幸福を不特定多数に発信する輩が多いですが、彼ら彼女らが本当に幸せだとは到底思えません。有象無象に放たれる可視化された幸福の裏側には、不幸を隠そうとする魂胆が滲み出ており、自己完結出来ていない姿は、幸せを押し付ける不幸な人間に思えてしまいます。

 自分が幸せかどうかは他人に決められないし、自分が不幸かだって他人には決められないので御座います。幸せという概念は相対的に浮かび上がるものではなく、自己の内側から捻り出す感情であるかと愚考致します。即ち絶対的な幸せは自分で作り上げるもので御座います。もしかすると絶対的な不幸だって自分で作っているだけなのかもしれませんが、そういった負の感情については考えないように生きているので、そちらの方を突き詰めるのは自己責任でお願い致します。不幸について書き連ねるのは、私には荷が重いので差し控えさせて頂きます。



 仲良くもない他人に振られただけで不幸になり、死んでしまおうかと考える人間もいれば、インスタントラーメンに卵を入れるだけで幸せになり、まだまだ死ねないなと考えられる人間もおります。この違いは幸せの定義を確立しているか否かの違いで御座いまして、読者諸賢の皆々様には後者の人間になって頂きたく思います。


 幸せの定義は低ければ低いほど良いのであります。皆様が当たり前だと思っている事象を幸せの定義に制定して、それを満たす内は何があっても幸せだと思い込むのです。絶対的な大枠の幸福を手にしていればこそ、日々の小さな出来事にも幸せを感じるのであります。


 具体例を挙げさせて頂くと、私の場合は「五体満足なら幸せ」だという定義を掲げております。五体満足を当然と思えるのは紛う事なき幸せで御座いますので、それを念頭に置いて日々の小さな不幸に向き合っていくのであります。大枠の絶対的な幸福と共に、日々の小さな幸せを増幅させていく様は、幸福の連鎖作用と形容できるで御座いましょう。



 私はお金がなくても五体満足なので幸せで御座いますし、どれだけ知能指数が低くとも五体満足なので幸せであります。お腹が空いていようとも、右の奥歯が痛くとも、顔面が不細工であろうとも、五体満足なので幸せで御座います。さすれば毎日が楽しいとは言えなくとも、常に幸せを感じる事は可能です。


 趣味がなくとも、奥歯が死ぬほど痛くとも、楽しい事なんてなくとも、友達が居なくとも、童貞であろうとも、とにかく奥歯が痛くとも、孤独であろうとも、借金が三桁近くあろうとも、右上の奥歯が本当に痛くとも、エトセトラエトセトラ、私は間違いなく幸せだ。幸せだから辛くは無い。幸せだから奥歯も痛くない筈だ。



 誰か私を殺してくれぇええええええええ!!

 幸せな私を殺してくれぇええええ!!

 マジで奥歯を何とかしてくれぇえええええ!!



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