第10話 聖女
「ただいま」
「お帰り、パメラお姉ちゃん」
「はいこれ」
そう言って私はサーベルウルフを倒した、お金の半分をソフィアちゃんに渡した。
「パメラお姉ちゃん、こ、こんなに」
「そうよ52万の半分だから26万よ」
「パメラ様、そんな大金を頂けません」
お母さんのエリーナさんが、慌てている。
「いいのよ、これを出直す資金にしてね」
「しかし体が治っても、私は肉体労働が苦手で」
「じゃあ、簡単な料理はできる?」
「ええ、もちろん出来ます。主婦ですから」
ドキ!パメラは全くできなかった。
「では教えるから、作ってみてね」
パメラはストレージから、雑貨屋で買ってきた寸胴鍋を出した。
そして海辺で拾ってきた昆布を、ストレージを使い時間を加速させ乾燥させた。
時空間魔法のストレージは、時間を止めるだけではなく加速させることもできる。
普段なら何の役にも立たない能力だけど、料理にはいいわね。
まず寸胴鍋の中に昆布を切って入れた。
その中に水魔法で水を入れ鍋に火を点ける。
しばらくすると気泡が上がり、お湯が沸いて行く。
そしてナイフで赤身魚の燻製を削っておく。
鰹節だ。
そして鰹節を入れる。
沸騰した瞬間、昆布が開き鰹節が鍋の中で舞う。
すぐに火から下ろし、それを別の鍋に濾す。
これで出来上がり。
「これはな~に。パメラお姉ちゃん」
「昆布と鰹ダシよ」
「ダシ?」
「まあ、飲んでみて」
ソフィアちゃんとエリーナさんは、鍋から汁をカップに入れる。
一口飲むと
「美味しい~」
「美味しいわ!」
「これがダシと言うものです」
「こんなもので、こんな美味しいものが作れるなんて」
「材料は海辺で拾ってきた乾燥させた昆布。そして赤身の魚の燻製よ。昆布は無料、赤身の魚の燻製も、需要が無いからとても安いわ」
「そうですね」
「この中にタマネギなどの野菜をスライスして入れたり、原価の安い赤身魚を入れて低価格で販売するのよ。そうすればみんな飛びつくわ」
「そうかもしれませんね。屋台でやって行けるかもしれません」
「この寸胴鍋一式あげるわ。お子さんと2人頑張って生きてね」
「あ、ありがとうございます。パメラ様」
それからエリーナ親子は屋台を出した。
今まで捨てられることも多かった赤身の魚を使い、美味しいスープを作った。
昆布や鰹節産業も拡大し、たくさんの人を呼び町は潤った。
あれから15年。
私は結婚し2児の母に。
あの時、パメラお姉ちゃんに、助けてもらわなければ今の幸せも無かった。
「ねえ、お母さん。聖女様って、本当にいるの?」
下の5歳の男の子が聞いてくる。
「いないよ。そんなの迷信よ」
上の10歳の女の子が言う。
「いいえ、聖女様は居るわ。お母さんは10歳の時に、聖女様に助けられたの。でも聖女様は恥ずかしがり屋だから、自分の事を魔女て呼んでたわ。北の森の魔女てね」
聖女様は『純潔』を失うと能力がなくなる、とそう言われている。
パメラお姉ちゃんは既婚者だった。
でも私にとっては、今でも『聖女様』よ。
「ただいま~ダーリン!」
「お帰りパメラ。今日は遅かったね。どこに行って来たんだい?」
「うん、それはね…」
これからも私とダーリンとの甘い生活は続いて行く。
読んで頂いてありがとうございました。
最終話となります。
またこんな話を書けたら良いなと、思っております。
お付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。