第1話 北の森の魔女
ミディアム大陸南、ウェルダン国の更に南東。
港町レアーナは、この世界の大陸の一番南に位置する小さな町である。
小型船を巧みに操り、漁師達は毎日、漁に出る。
市場には朝早くから、新鮮な取れたての魚介類が並ぶ。
そして街から北側には、未開の大きな森が広がっていた。
はあ、はあ、はあ、はあ
お、追い付かれる~。
サーベルウルフの群れが追ってくる。
獲物を追い込んで猟をするとは聞いていたけど~。
子供の私でも知っているのに。
まさか薬草を森に採りに来て、サーベルウルフの群れに出会うなんて。
あっ、痛い。
草に足を取られた…。
もう駄目ね。
ごめんね、お母さん。
薬草を持って帰れなくて…。
「「「 ガォ~~~!! 」」」
数十匹はいる、サーベルウルフが私に飛びかかってくる。
終わったわ。
あ、あまり痛くしないでね。
「 ウインド サークル! 」
シュゥ!!
え、?
私の周りに見えない空気の壁が出来た様に見えた。
キャゥン! キャゥン! キャゥン!
キャゥン! キャゥン! キャゥン!
その空気の壁に当たったサーベルウルフが吹き飛んだ。
黒い服を着た人が立っている。
「 エアガン! 」
更にそう言ったように聞こえた。
「「 パン、パン、パン、パン! 」」
「「 パン、パン、パン、パン! 」」
「「 パン、パン、パン、パン! 」」
「「 パン、パン、パン、パン! 」」
凄い!
親指と人指し指を立てているだけなのに。
残ったサーベルウルフ達がまるで、何かに撃ち抜かれたように倒れて行く。
キャゥン! キャゥン! キャゥン!
キャゥン! キャゥン! キャゥン!
キャゥン! キャゥン! キャゥン!
キャゥン! キャゥン! キャゥン!
そして私を包む、空気の壁が無くなっていく。
周りを見渡すと、数十匹のサーベルウルフが倒れていた。
これは…。
「もう大丈夫よ~、怪我はない?」
声を掛けられた方を見ると、そこには女の人が立っていた。
でも服装が変。
季節は8月。
この炎天下の中、黒いローブに黒い尖がり帽子。
右手首に布を巻き、左目に黒い眼帯をした白銀色の長い髪の女性。
普段だったら絶対に、関わりたくない。
誰?
この港町レアーナは小さな町だから。
ここに住んでいる人なら、大概の人なら知っているけど。
見たことのない女性だわ。
それに暑くないのかしら?
「ちょっと、あなた~。聞いてる?」
間の抜けた話し方で聞いてくる。
早く答えないと。
「あ、はい、大丈夫です。助けて頂いてありがとうございました」
「立てる?」
「はい」
そう返事をして立ち上がろうとしたけど、転んだ時に擦りむいた膝が痛くて…。
「い、痛い」
「まあ、怪我をしているのね~」
その女性は屈み込み、私の膝に手を添えた。
「 痛いの痛いの飛んでけ~ 」
呪文の詠唱と共に女性の体が水色に光る。
右手に光りが集まり、みるみる傷が治って行く。
「さあ、これで大丈夫よ。他に痛いところは無い?」
私は思わず両手を胸の前で組み跪いた。
「聖女様!」
「あ、違うのよ~」
すると、その女性は困ったような顔をして私を見たの。
「私は既婚者だから聖女ではないの。なぜ既婚者だと聖女ではなのかと言う話は、あなたの年齢にはまだ早いんだけど…」
女性は言い淀んでいる。
何が言いたいのかな?
それが北の森の魔女様との出会いだった。