6.待ってて!美人占い師さん!
希星は美祈町の近くまでやってきた。
しかし、まだ町へは入っていない。
何故なら、白いローブの人間がたくさん見えたから。
(マジかぁ…。これ、住民全員白ローブなんじゃね?俺が入ったら目立つな)
しかし、逆に白ローブさえ手に入れば、身を隠し侵入する事は容易となる。さて…どうするか…。
希星は作戦を考えながら街道から離れた場所へと移動していた。水の流れる音が聞こえるから、少し涼もうと思ったのだ。
徐々に水音が大きくなる。その音と一緒に人の話し声が聞こえてくる。
藪の隙間からそっと様子を伺うと、川で魚を獲っている人が見えた。
(1…2…3…。3人か。あの木の枝にかけてるのは白ローブだよな?3人の目を盗んでローブを奪う事は可能…かな)
希星は白ローブを盗む事にした。
そっとローブをかけている木に近づく。そして3人の様子をじっと見つめる。
3人が川底へと視線が向いた瞬間、
(いまだ!!!)
「おい、こっちに…」
ミス!希星は再び身を隠した。
(くそ〜!あいつが振り向かなかったら、奪えたのに…)
上流で魚が跳ねた。3人の視線が上流に向く。
(いまだ!!!)
「おい、今のすげぇデカくなかったか?」
ミス!希星は再び身を隠した。
(くそ〜!難しいな)
辛抱強く機会を伺う。すると、木の影から一羽の大きな鳥が羽ばたき飛び出した。全員の視線が鳥へと固定される。
(いまだ!!!)
希星は物音をたてないようにしながらも、素早くローブに近づき、一枚だけ奪って再び身を隠した。
「今の鳥、丸々してたなぁ。美味そうだな」
「弓矢持ってくるんだったな」
「逃げたモンをいつまでも見ててもしょうがないだろ。とっとと魚獲るぞ。祈りの時間になる」
(やった!ローブ、ゲットだぜ!!)
希星は白ローブを手に入れた。
3人組がローブ紛失で騒ぎ始める前に、町へと入ってしまおう。希星はローブを身につけ、町へと侵入した。
ローブを手に入れるのに手間取ってしまい、時刻は昼を過ぎてしまっていた。町の中はやはり白ローブの人しか居らず、ローブを奪わず侵入してもすぐに身バレしただろう状態だった。
とりあえず、町の中をウロウロ彷徨いてみる。すると、白ローブの集団が一定方向に向かって歩いているのに気づいた。その集団について行くと、大きな建物が見えてきた。
徐々に建物に近づいていくと、その大きさと派手さに、希星は圧倒された。
(うっわぁ…。すっげぇ派手。こんな色んな色使った建物初めて見た)
希星はそのまま集団の最後尾について行き、金糸で彩られた白ローブを身に纏った、この建物の係りの人に誘導されて建物の中に入った。
中はまだ真新しく、白木の好い匂いがしていた。
至る所に賽銭箱があり、信者が金を投げ入れているのが目立つ。全部の賽銭箱に金を入れて回る気なんだろうか。
巨大な玄関で靴を脱ぎ、横にある受付で名前を書かされ、そして、荷物を預けるように言われた。
玄関から正面の部屋に入ると、そこは何百畳もありそうな大広間だった。
思わず物珍しげに辺りを見渡してしまう。天井が異常に高く、思わず感嘆の声が出てしまった。
遥か向こうの突き当たりに巨大な神棚がある。
前の方まで歩かされて、神棚の前で皆と一緒に畳にじかに座った。
しばらくすると教祖らしい人が出て来て、挨拶と説教をはじめた。
羽織袴に肩下までの髪を後ろで一つに結び、整った顔立ちの青年だが、何故か顔色が悪かった。
「この世に生を受けたならば、美しさを極める義務があります。皆さん、美しさがすべて。この中には若い方も年齢を重ねた方もいらっしゃいます。若さは美しさを際立たせてくれる。しかし、若さだけではなく、朽ちていくものにも美を感じる、そんな生き方を、感性をみにつけて………」
意識が遠くなる…。
うとうと…うとうと…
希星が夢の世界に旅立とうとしたその時、「寝るな」と、隣から囁きかけてくる男がいた。
「目立ちたくない。頼むから寝るな」
男に言われ、希星は恥ずかしさに赤面してしまった。そこからは真面目に起きる事にしたが…。そっと隣の男を伺うと、周りの信者らしき人達とは雰囲気が違う。そして、かなりのイケメンだ。イケメンは睨みつけるように目の前の男を、見つめていた。その表情から、信者ではなく行方不明者の関係者か何かかな?そう思いながら横目で見つめていると、相手も希星が信者と違う雰囲気だと気づいたのだろう。何か聞きたそうにチラ見している。
気にはなる。しかし、とてもじゃないが、質問や話をするような雰囲気ではない。仕方ないな。これが終わったら話をするか。
それから、教祖様の指示でお祈りがはじまった。
両手の平を前に向けるやり方だった。
希星も見よう見まねで真似をしながら、この先どうしようかと考えていた。
「ビューティホー ビューティホー 美しいことはすばらしい ビューティホー ビューティホー…」
帰りたい…。
なんだこの祈りの言葉は。恥ずかしい…。
希星は 100のダメージをうけた
必死に口パクで誤魔化しながら「早く終われ!」と念じ続けた。そのまま30分。希星が無の境地に陥りそうになった頃、ようやく祈りの儀式は終わった。
さて帰ろうか。そう思っていると突然、右の襖を開けて男の人が入ってきた。
「皆さん、祈りの時間は終わりました。次はこちらへ移動お願いします」
まだ何かあるのか?そうか。よし、逃亡しよう。
うんざりしながら見ていると、大勢の人が一気に押し寄せてきた。
「うぉ?!あ〜れ〜」
希星は人波みに流されてしまい、そのまま次の部屋へと移動してしまった。
祈りの間の隣の部屋も大きな部屋だった。目の前には3つの扉が並んでいる。その部屋で何組かの列を作り、「右の扉へ。あなたは真ん中の扉へ」と、順番に割り振られていく。
仕方なく列に並んでいると、さっきのイケメンが希星のそばに来て小声で話しかけてきた。
「おい、あんた信者じゃないだろ?」
「あぁ。そう言うあんたも?」
「ああ。実は俺は、恋人を探しに来たんだ。知り合いに誘われてこの施設に行くと言って出掛けたきり、戻って来ないんだ」
「え!?実は俺も、最近、谷向こうの都市で発生してる神隠しを調べててここに来たんだ。行方不明になる直前、白ローブの人といたと言う情報があってね……」
「なるほど。この宗教団体は入信して行方不明になった人が続出していると噂だ。そのうち、マスコミも嗅ぎ付けるんじゃないかな?」
「……そうだったのか。ならとりあえず、何とかここから出ないと……。俺達まで捕まったらマズイな。建物奥まで連れてこられたな」
「この状態で出るのは困難だろうな。もう少し様子をみてみるか」
「そうだな」
そんな話をしてる間に、希星の番になった。
「あなたは左の扉へ」
希星は左の扉に誘導された。イケメンは真ん中の扉だ。離れ離れになるのに少し不安になったが、希星は道に沿って歩いた。すると入り口へ辿り着き、預けた荷物も返してもらい、無事に外へと脱出することに成功した。
「あれ?」
ちょっと拍子抜けしてしまった。
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