17.下着泥棒と露出狂
「わっ!」「うおっ!」
曲がり角で派手に衝突し、二人は互いに尻餅をついた。
驚きのあまり見つめあう二人。
青春モノ漫画でよくある「美少女女学生とイケメン男子の曲がり角でぶつかって恋が始まります⭐︎」なんて綺麗でキュンキュンするものではなく、上下黒ジャージと黒のリュックを背負った男と薄茶色のトレンチコートの男の「路地の角でぶつかっちゃった⭐︎」である。
何故か、二人は互いに一目見たときから相手が自分と同じ種類の男であることを察した。
黒ジャージの男は片手にパンツを握りしめていて、トレンチコートの男はコート下に何故かTシャツしか着ておらず、下は何も履いていないらしく白い太ももや大事な部分がチラリと見えている。
「どこにいった!?」
「くそっ!見失ったか?!」
すぐ近くから警察と思われる男の声が聞こえる。
二人は慌てて近くの垣根の裏に飛び込み、仲良く息を潜めた。
「……あなたも追われていたんですか?」
先に口を開いたのはトレンチコートの男だ。その口調はいかにも「できる男」なのだが、いかんせん下半身は露出している。
そんなトレンチコートの男を横目に見てジャージの男は落ち着かない様子で道の先を見ながら小さくうなずいた。
「ああ。庭に忍び込んでパンツを物色中に巡回してた警官に見つかってな。あんたは……露出狂ってとこか」
「ええ。さっきコートの中を見せた中学生が通報したらしくて、僕も追われる身なのです。外はまだ警官が彷徨いているはずだ、ここは共同戦線と行きましょう」
「そうだな。二人でいれば怪しまれる可能性も低い。しばらくはここに潜んでどこかに移動しよう」
そして15分程たっただろうか。二人は無言で頷き合い、連れ立って公園へと歩いて行った。
こうして会ったばかりの変態二人は公園のベンチに仲良く並び語り合うこととなった。
しかしお互い性癖を晒し合っている身。あまりプライベートなことは話したくないし聞きたくもない。
かといって日が沈んだばかりの公園で無言もなんだか気まずい。少なくともあと一時間は近所を警戒されていると思われるのだから。ずっとダンマリでいるのはやはり変だ。
そこで話は自然と変態談義になった。何故なら二人の語れる共通の話題はこれしかないのだから。
「その……昔から思ってたんですけど、女性の下着でそんなに興奮できるものですか?」
最初に口を開いたのは露出狂だ。
なかなかストレートな質問にたじろぎながらも、下着泥棒は丁寧に答える。
「そうだな。こればっかりは癖だからあんまり理解はされないと思うんだけど……スリルと興奮が警察に捕まるリスクを犯す価値はあるよ」
「なるほど、まぁそれは私も同じですけどね」
「俺は露出狂こそよく分からないな。見て楽しむのは分かるんだけど、見せて楽しむってのがどうも。どの辺に興奮してるの?」
「私を見る女性のあの眼に興奮するんですよ。怯えたような眼も良いし、嘲るような眼もたまりませんね。レアなんですが、薄汚い物を見る目で見ながら罵ってくる女性が現れた時……特にアレがゾクゾクしますよ」
露出狂は遠くを見ながらうっとりした表情を浮かべる。その様子はまるで娘に恋した少年のようだ。
下着泥棒も納得したように頷いた。
「眼、かぁ。なるほどね。俺も女の子の反応が見たくなって色々とやったことがあるよ」
「へぇ、どんなことです?」
興味津々とばかりに身を乗り出す露出狂。
下着泥棒は得意げにニヤつく。
「下着を盗んでいる時に持ち主に見つかった場合、そのパンツを舐め回すんだ。へへ、自分のパンツを見知らぬ男に舐め回されているのを見た時の女の顔が最高にそそるんだ」
「他人の使用済パンツを舐め回す気持ちはわかりませんが、女性の目はぜひ見てみたいです」
「まぁそれも良いんだがな。逆にイロイロ楽しんだ後、きちんと洗って下着を返すのも興奮するんだよ。たくさんの洗濯物の中に紛れ込ませると意外に気付かれない。まさか盗んで返すなんて思わないからな。俺が汚したパンツを女が履いてると思うと、もうゾクゾクがたまらねぇんだ」
しかしこれにはあまり喰い付かなかった。露出狂は渋い顔をしながら首を振る。
「私にその気持ちはちょっと分からないですねぇ……。人の物を使うなんて気持ち悪いです」
「気持ち悪い?潔癖症みたいなこと言うな。変態のくせに」
「変態と潔癖症は関係ないでしょう!私がもし女の子の立場だったら……と思うとゾッとしちゃって興奮なんかできませんよ」
「ふうん、人それぞれってやつか。そうだ!今日の獲物を見せてやろう、見ればきっと魅力に気付くぞ」
そう言って下着泥棒はリュックから色とりどりの下着を取り出す。
「盗りたて新鮮だぞ」
「ちょっと!こんなところで出さないでください!」
露出狂は慌てて下着泥棒を止めようとするも下着泥棒は余裕の表情だ。
「大丈夫だよ、周りに誰もいないし。ほら見てみろよこれ。すげーだろ?」
下着泥棒は白いシンプルなパンツを掴み、おもむろに顔をうずめて深呼吸する。夜の暗闇でわかりにくかったが、気づけばジャージ男の目は赤く血走り、とても正気とは思えなかった。
「ちょっと!」
「いやーやっぱいいわ。この下着の娘さぁ、そこの宿に泊まってた子なんだけどね、ロングヘアのスッゲェ美人でさ。Wデートっての?カップル2組で泊まってたのが気になるが…そんな部屋に堂々と下着干してたんだぜ?清楚系美人なのにこんなシンプルな下着履いてるしさ、妙に警戒心も薄くて。そのギャップ?それがたまらないんだよな!ずっとスーハーできる!お前もやっとくか?!」
「嫌ですよ!どんな美人だろうと人が履いた下着なんて触りたくないどころか見たくも――」
その時、露出狂は下着泥棒の背後を見て体を硬直させた。
様子の変わった露出狂に、下着泥棒は首をかしげる。
「どうした?」
「……いや、背後…背後に……」
「背後?」
ジャージ男の背後には、鬼の形相の櫻子と、汚物を見るような月偉複雑な表情の希星と大和が立っていた。ラブストーンの反応によりここまで来たが、何やら語り合っている2人の様子を見ようと、そっと近寄って行ったのだ。
「……欲念珠で増福したのが下着泥棒の欲望……?」
「なんで連続して変態がでてくるんだ?」
「人間ってそんな生き物なんだよ。単純なんだよ。男の浪漫なんだよ」
「おい、連続して変態ってまさか俺も含めてるのか?俺は仕方なくだからな!一緒にするな!ってか、男の浪漫ってなんだよ?!」
櫻子、月偉、希星、大和の順の発言。
「えっ!?ま、まさかあんた、あの宿に泊まってた娘?!このパンツの持ち主?」
下着泥棒は真っ青な顔で口元を押え、小さく震えだした。そして、手に持っている白のシンプルなパンツを手に再びスーハーし始めた。
「本人を前に……興奮する……」
興奮が抑えられないと月偉を見つめながら挙動不審になっていく下着泥棒に、呆気にとられながらそれを見つめる露出狂。そして、怒りに肩を振るわせる櫻子。そんな露出狂に対し、何故か嗚咽をあげながら希星は告白した。
「それは……櫻子の下着だよ」
希星は櫻子を指差しながら下着泥棒へと告げた。
「あんたは月偉の下着だと思ってるようだが、こっちの櫻子の下着だ!しかも、月偉は女じゃねえ!男だ!」
「は?」
何言ってんの?こいつ。そんな目で希星を見ていた変態に男らしい声が届く。
「俺の下着じゃないが、俺を見つめながら興奮されんの、マジ、キメーよ」
汚物を見るような目。下着泥棒と露出狂のドM心にクリーンヒットするが……本来ならするが……美女と思っていた相手の男らしい声に、変態二人は酸欠の金魚のように口をパクパクさせる。
ようやく出た声は、蚊の鳴くようなか細いモノであった。
「じゃ、じゃあ……この下着は?」
「私のだ!返せよ!数少ない私のパンツ!風に飛ばされたかと思ったらここにあったのか!」
清楚さのかけらもない櫻子。自身の見た目に頓着しない櫻子の現在の見た目は……いつ洗濯したのかと聞きたくなる白衣とボサボサの頭。見かねた月偉が櫻子のパンツを洗ったほどだ。
変態のおもちゃとなった自身のパンツに嫌悪感を見せず、ただただ数が足りなくなるから返せと騒ぐ櫻子は変態二人のツボには入らなかった。
全力のスーハーと舐め舐め。俺のタイプの女の子の下着じゃ…ない……
「……ウボエエェェェェ」
下着泥棒はたまらず嘔吐した。そしてなぜかそんな下着泥棒を見て露出狂は咽び泣いた。ダメージを受けダウンする2人の隙に希星は欲念珠を回収した。
「吐いてんじゃねーよ!汚ねーな!」
騒ぐ櫻子の声に気付いた警戒中の警察により二人は逮捕されたが、なぜ嘔吐したのか、なぜ泣いたのか。「なんでなんだよ!」と騒ぐ櫻子に男達は俯き誰も何も語らなかった。




