15.魔王と変態魔法少女?
「……何なんだ?この状況は…?」
「頼む!助けてくれ〜!!」
◇◇◇
希星達がラブストーンの導きにより移動している時、月偉に助けを求める念が届いた。テレパシーを活用し、助けを求める場所に行くと…。
海辺の倉庫街。人気のない場所4人目はいた。
目の前には、ザ・魔王と言わんばかりの見た目の男と、その魔王から花束を差し出され、半泣き状態の変質者男の2人がいた。
魔王の顔は美形だ。超美形。艶やかな長い黒髪。見る者を魅了する夕焼けのように美しい瞳。陶器のように滑らかな肌。しかも長身。文句のつけどころのない完璧な外見だ。モテる。この見た目は確実にモテる。きっとモテモテウハウハな人生を送っていただろう。
全身黒ずくめで、黒いマントを羽織り、漫画に出てくるような、いかにも悪役といった風体も雰囲気があってカッコいい。
くそッ!負けた!希星は敗北を感じた。
片や追い詰められている変質者の男は、ピンク色のフリフリの可愛らしい衣装を身につけている。胸元に大きな赤いリボン。肘まで隠れる白い長手袋。パンチラ目的としか思えない短いスカートの裾には白いレースが縫い付けられている。足元にはニーハイソックス。ブーツ。
ピンクがメインカラーで白・赤色の差し色が入った可愛らしい衣装を着ている。魔法少女の衣装といえばわかりやすいだろうか。
その衣装を着ている男は、吊り目がちな目に、空手でもやっているような少しガタイの良い体。180cm程の身長に短髪黒髪の日本人顔の男前だ。
そんな男の服装をじっと見て、それから月偉と櫻子へと顔を向けた。
月偉は残念なものを見るような目で見つめ、櫻子はおぞましいものを目にしているかのような顔で見ていた。
戦闘はあったのだろう。場が乱れている。
しかし、今目の前で起こっているのは、魔法少女変質者男の前に、イケメン魔王が跪き、花を差し出し、告白している。
「素晴らしい!あなたの強さと愛らしさに俺はメロメロです!愛してる。俺のものになってくれ」
「バカかお前は?!この格好見ろよ!このガタイと格好を見て気持ち悪いと思わないのか?!」
「…愛らしい……」
「近寄るな!おい!お前達、助けてくれ!」
あ、自分の魔法少女姿を冷静に見れてる人だった。真性の変態ではなかったようだ。良かった良かった。
だがしかし…
「ねぇ月偉、月偉に助けを求めた人って、3人目のヒロインだって言ってたよね?」
気まずそうに月偉は希星から目を逸らし、一言「そうだ」と言った。
ヒロイン?ヒロイン…?
「ま、まぁヒロインだな」
顔を背けながら「ヒロインだ」と言う月偉。
魔法少女の格好をしたヒロイン?違う。俺が求めていたのとは違う。シュー?シューの言ってた3人の女達って…。希星は絶望した。
「で、あの魔王風の男は何者なんだ?」
1人冷静な櫻子が魔王風の男を見ながら誰に問うでもなく呟いた。
「俺か?俺はハンマー・ハンマー様の刺客の一人、ガルバロスだ。貴様らがラブストーンを持ってる連中だな。ハンマー・ハンマー様の命により死んでもらうぞ」
「そんなハンマー・ハンマーの刺客がここで何をしているんだ?」
「ラブストーンと欲念珠を作ったシグマ博士。その博士から密命を受けた精霊達に選ばれた者達の抹殺だよ。まずは一人目…と思ったが、こんなに素晴らしい人だとは思わず…。貴様らは殺すが、是非、貴方は連れて帰りたい。愛しい方、貴方のお名前を教えてほしい」
「嫌だ!断る!近寄るな!」
「何故、そんな魔法少女変質者男が良いんだ?ほら、こっちを見てみろよ。こんな美女が目の前にいるじゃないか」
櫻子が美女アピールなのか変なポーズをとりながら腰をくねらせている。そんな櫻子を見てガルバロスは…
「あ?何言ってんだ?腐女子が。興味ねーんだよ。引っ込んでろ。鏡見て出直せ」
その一言を聞き、無言で俯いている櫻子に興味がないのか、再び魔王がうっとりとした顔で魔法少女変質者男に近づいていく。
「おい、近づくな……っ」
「その愛らしい声を囀ずる赤い唇……まるで食べてくれと言わんばかりではないか」
「なに言ってんだよ、よく見ろよ、俺のどこが愛らしいんだよ!」
「どこもかしこも全て愛らしいではないか!!」
魔王はカッと目を見開き断言する。
この魔王は美的センスがおかしいのかもしれない。どうみても、男らしさはあるが愛らしさからはかけ離れた男に対して女を口説くようなセリフばかり吐く。
(とにかくこのままでは自分の身が危ない。命ではなくイロイロな意味で身の危険を感じる!)
魔法少女男は色恋沙汰が苦手だった。男子校だったため恋愛経験ゼロ。相手が男とはいえ、こんなにも自分に好意を寄せてくる者を対処する方法がわからなかった。
魔王の息がどんどん荒くなっていく。はあはあしながら魔法少女男に近づいてくる。
魔法少女男は生まれて初めて変質者に狙われる気分を味わっていた。喧嘩を挑まれるのは怖くないのに、これは怖い。体は鍛えているのに怖くて、体が竦む。それでも強がって、懸命に虚勢を張る。
「来るんじゃねえ!おい!助けてくれ!頼む!」
「邪魔したら殺しますよ。ん?腐女子、聞こえなかったんですか?その醜い姿で私に近づくんじゃ……」
静かに近づく櫻子の手には空気砲が装備されている。それを魔王に向けたかと思うと、
「てめぇら!男同士でベタベタ乳繰り合ってんじゃねぇ!!!」
ドゴンッ!!!
物凄い爆発音。「イヤァァァァァッ!!!」と叫び声を上げながら、ガルバロスは海へ向かって飛んでいった。
「誰が腐女子だ!ふざけんな!私だってモテモテウハウハになりたいんだ!」
叫ぶ櫻子の目が怖い。
ふるふると、首を振りながら「乳繰り合ってない」と呟く魔法少女男の肩を叩きながら、「今はそっとしておこう。逆らわない方がいい」そう囁きかけ、男3人身を寄せ合い、櫻子の怒りが収まるのを静かに待ったのだった…。
「で、貴方は私達の仲間ですよね?何故そんな格好をしているんですか?」
櫻子が落ち着いたタイミングで、月偉が魔法少女男に声をかけた。
「……ああ、そうだ。お前達が妖精が言ってた奴らだな。こんな格好ですまない。俺は大和だ」
希星、月偉、櫻子がそれぞれ自己紹介を済ます。
「3人ともよろしく。俺がこんな格好してる理由は…」
大和は妖精と出会ってからの事を話し始めた。
◇◇◇
大和は2年前に両親が他界し、兄妹2人で生活していた。
2人が住む街の近くに隕石が落ちた日、兄妹の前に一匹の妖精が現れた。その妖精は、未来を救って欲しいという願いと、未来でハンマー・ハンマーに勇敢に立ち向かった者の先祖である俺達兄妹にしか使えない『魔法少女に変身するブレスレット』を残し、消えていった。
「お願い、お兄ちゃん!!」
妹が、大和の前でぱんっと手を合わせる。
「私、こんな恥ずかしい物使えないから、お兄ちゃんに魔法少女は任せるわ!」
「そりゃ、お前に危ない事はさせられないから、本当に敵が来たら俺が戦う。だが、万が一のためにこれはお前が持ってろ。防御力向上と、ステッキから魔法が出るんだろ?俺はそんな道具なんてなくてもこの拳で戦えるからな」
(そもそも『魔法少女』だぞ。少女だ。俺には無理だろ)
「ん〜…でも、お兄ちゃん持ってて。私、戦わないし」
「そうか?そうだな。俺もお前に戦わせる気はないし、こんな怪しい物を持たせておくのも怖いな」
そう言って魔法少女変身ブレスレットは大和のポケットへと収まった。
そんなある日、大和達と同年代の者達が行方不明になる事件が多発した。これはひょっとして、妖精が言ってたハンマー・ハンマーの刺客の仕業か?大和はそう考え始めた。
そんな日、妹が消えた。
机の上には一通の手紙が置かれていた。
『ごめんね、お兄ちゃん。私、東京で生活するわ。華やかな街で青春エンジョイするの諦めきれなかったの。お兄ちゃんに言ったら、また反対されるだろうから黙って行くわ。落ち着いたら手紙書くね。世界平和は任せた!魔法少女、頑張ってね。てへっ⭐︎』
「んな……!」
妹の家出か?!くそっ!すぐに追いかけて止めないと!
そう思って外に出た時に、ハンマー・ハンマーの刺客に襲われた。
刺客は想像以上に強く、大和は埠頭の倉庫へと追い詰められた。
できれば使いたくなかった。
できれば一人で部屋に閉じ籠ってこっそり変身して見た目を確認したかったが、そんな時間はない。
嫌な予感がするが大和はブレスレットをはめた左腕を頭上に掲げる。そして、妖精に言われたセリフを唱える。
「ま、魔法少女になーれ」
誰なんだ?!こんなクソ恥ずかしいセリフ考えたのは!俺の子孫か…くそッ!心の中で羞恥に悶えながら、大和はその恥ずかしいセリフを口にした。
ブレスレットからキラキラと光の鱗粉が舞い落ちる。キラキラ、キラキラと輝く小さな光の粒が大和の全身に降りかかった。すると、あら不思議。大和の着ていたTシャツジーパンが魔法少女のコスチュームへと変化した。
ピンク色のフリフリの可愛らしい衣装。胸元に大きなリボン。肘まで隠れる長手袋。パンチラ目的としか思えない短いスカート。ニーハイソックス。ブーツ。可愛い色で統一された可愛い衣装。
自分の服装をじっと見下ろして激しく後悔した。元に戻りたい。しかし解除の方法がわからないのだ。
ガラスに薄っすら映った自分の姿を見て思わず呟く。
「似合わねー」
大和と違い小柄な妹なら似合ったのだろう。
せめて…せめて美少年ならまだよかったのだが、決してその部類には入れない自分がこんなコスチュームを身に付けているのかと思うとゾッとする。
短い髪にはカチューシャのようにピンク色のリボンが巻かれている。スカートなんてはじめて穿くので、下半身もスースーして落ち着かない。
まずい。これはマズイ。
敵と戦うどころか、敵の前に出ることすらできない。
大和は身動きが取れなくなった。
「…………ん?」
下半身に意識を向けて、漸く違和感に気づいた。
大和はそっとスカートを捲って中を確認する。
「な、なんでパンツまで変わってるんだ!?」
大和が身に付けていたのは、ピンク色のレースの女性モノパンツだった。もちろん大和が穿いていたものではない。魔法少女に変身したときにパンツも変化したのだ。
大和は絶望した。
「どういうことだ!これも魔法少女の衣装なのか?!パンツ込みで!? しかもこんな破廉恥なやつが!?」
誰だよ!こんなの作った奴!あ、子孫か…俺の子孫か…。本当に俺と血の繋がりあるのか?こんな変態思想の奴が…。
現状、唯一の救いは人気のない場所という事だけだ。
このまま隠れて変身が解けるのを待とう。
そう思っていた時に見つかってしまった。見た目ゴブリンのハンマー・ハンマーの刺客達に。
仕方ない。
大和は覚悟を決めて戦う事にした。
「ラ…ラブリーアイスハート!」
ステッキからキラキラと氷魔法が発動する。刺客の雑魚はこれで一掃した。この衣装も防御力が高く、魔法も思ったより強力だ。
素晴らしい。素晴らしいが…。どうしてこのくそ恥ずかしい呪文が発動条件なのだ。
強力なステッキの魔法。刺客の雑魚は数が多くてもステッキさえあれば苦戦することはない。
けれど呪文を唱えるたびにかなりの精神的ダメージが大和に襲いかかった。
「ラブリーアイスハート!」
ステッキから魔法が出なくなった。一度の使用回数の上限に達したのだろう。
体力的には全然疲れていないはずなのに、精神的ダメージが大きすぎてくらくらした。早く帰って休みたい。その前に、さっさとこの衣装を脱ぎたい。
敵の姿も無くなったので、何とか変身が解けないか、大和はステッキを頭上に掲げたり振り回したり色々試していた。
そのとき、ステッキを持った手をなにかに弾かれた。手から離れたステッキが、床に落ちる。
「あっ……!」
慌ててステッキを拾おうとするが、その前に後ろから伸びてきた何かが体に巻きついてきた。動きを封じるように、巻きついたものは鞭だった。
「くっくっくっ……いい様だな、魔法少女よ」
背後から声が聞こえた。
声がした方を振り向くと、黒いマントを羽織った美青年が鞭を片手に立っていた。その姿を見て大和は目を見開いた。
「お前が……刺客の親玉か!」
そこにいたのはハンマー・ハンマーの刺客の親玉、ガルバロスだった。
ガルバロスは雑魚達と違い、黒髪の美青年だった。全身黒ずくめで、黒いマントを羽織り、いかにも悪役といった服装だ。綺麗な顔立ちにその服装は迫力を増し、魔王感が溢れている。
ステッキから魔法はもう出ない。
肉弾戦で挑むしかないが…雑魚達にも手こずったのに、親玉に勝てるのだろうか。
絶体絶命のピンチだった。
大和は目の前の魔王を睨み付けた。
「俺をどうするつもりだ……!」
「くっくっくっ……どうするだと? そんなの………………ん?」
魔王はまじまじと大和を凝視していたかと思うと、目を見開いて大和を見つめた。
「な、き、貴様……っ」
なにやら動揺しているようだ。
そりゃそうだと大和は思った。自分のようなガタイの良い男が、こんなフリフリのコスチュームで、魔法少女なんてやっているのだ。こんな敵だと驚きもするだろう。
「な、な、なな、な、な」
魔王は驚きすぎて「な」しか言えていない。
さすがに大袈裟ではないだろうか。似合ってないのは自分でもよくわかっている。しかしここまで驚かれると腹も立つ。あまりにも失礼ではないか。
あまりの恥ずかしさに大和は唇を尖らせ、プイッと顔を背ける。するといつの間にか側にきていた魔王に頬を両手で挟まれ、無理やり魔王の方へ向けられた。
爛々と輝く魔王の目が大和を見下ろしていた。
「なんて愛らしいんだ……!」
「…………はあ?」
大和は耳を疑った。とんでもないことを言われた気がする。
「気の強そうな吊り目、整った鼻、艶かしい唇、そしてこの筋肉……」
魔王の指に顔を撫でられ、大和は悲鳴を上げる。
「ちょ、やめっ……離せよ!」
「離せるわけがないだろう!」
逆ギレされて、大和は口を噤む。
「私はこんな愛らしい生き物を見たことがない! なんて罪深い生き物なんだ! この私を誘惑するなど……!」
冗談としか思えないのに、魔王の表情が本気だと語っている。
ギラギラと獲物を狙う肉食獣のような双眸。頬は紅潮していて、相手の興奮が伝わってくる。
大和は焦った。別の意味で危機感を覚えた。
「あの、ちょっと、落ち着いて……」
「貴様、名前はなんというのだ?」
「は?名前……?」
「言え、名前を教えろ」
「ひぃっ」
気持ち悪い。なんだこれは?!大和の精神疲労はピークだった。殴り合いならまだ頑張れると思っていたのに精神攻撃を受けている。この服装になった時点で心はもう限界だったのに。
「なんなんだよ!こんな格好の俺に愛らしいなんて何考えてんだ?どんな作戦だよ!気持ち悪い!や、やめろやめろっ!近づくな!」
「さあ、名前を言ってみろ。その愛らしい唇で、貴様の名を私に言うのだ」
男子校で空手に青春を注ぎ込んだ大和には、こんな迫り方をしてこられた経験がない。対処法がわからず、困り果てた。
「大和!俺の名前は大和だ!」
「ヤマト……ヤマトか。可愛い名だ」
魔王は満足そうに大和の名前を繰り返す。
魔王の浮かべる極上の笑顔は、こんな状況でなければ見惚れるほどに美しかった。
「も、もういいだろ……帰してくれよ」
「帰せるわけないだろう。貴様は連れて帰る」
「はあ?何なんだよ……俺をどうするつもりなんだよ……」
「くくっ……その泣きそうな表情、堪らないな」
魔王のうっとりとした顔が近づいてくる。
「や、顔、近づけんな……っ」
「服の隙間から見えるその腹筋………強気な瞳に浮かぶ怯えた色……なんて愛らしいんだ」
「なに言ってんだよ、よく見ろよ、俺のどこが愛らしいんだよ!」
「どこもかしこも全て愛らしいではないか!!」
真顔でカッと目を見開き『愛らしい』と断言する。
ヤバい!こいつは変態だ!本気でヤバい!
「は、離せっ!俺に何かしてみろ!絶対にお前のこと許さないからな!」
怒鳴りつけるように言った。けれど魔王には通じない。大和の声は聞こえているが聞いていない。
「はあ……震えながら虚勢を張る声も愛らしい……。もう我慢できない……そのうまそうな唇を目の前にして、我慢などできるはずがない……!」
「うわっ、何だよ!?来るな!近づくなー!」
◇◇◇
「って状況だったんだ。そんな時、3人が来てくれたんだ」
疲れ切った顔で遠くを見つめる大和。そんな大和に同情し、希星と月偉は優しく無言で肩を叩いた。そんな3人の側で大爆笑している櫻子。
その後、時間が経過したのか変身は解けた。
大和が新しく仲間に加わり、4人で欲念珠に向かって旅立ったのだった。




