14.眠り姫
【眠り姫】
むかしむかしある王国に、可愛い女の赤ちゃんが生まれました。
お祝いの席にはその国に住む12人の魔女が招かれました。
12人の魔女は、お姫様にやさしい心や美しさなどを贈りました。
するとその時、お祝いに呼ばれなかった13人目の魔女がやってきて「15歳の時につむに刺されて死ぬ」という呪いをかけました。
他の魔女には呪いを解くことができませんでしたが、12番目の魔女が「死ぬのではなく100年眠りにつくだけです」と言いました。
王様は国中のつむを燃やすように命令しました。
お姫様はすくすくと成長し、15歳になりました。
ある日、お姫様がひとりで塔を登ると奥でおばあさんがつむを使って糸を紡いでいました。
つむを見たことがなかったお姫様がおばあさんに近づくと、つむがお姫様の指を刺し、魔女の呪い通りそのまま深い眠りにつきました。
この呪いで眠ったのはお姫様だけでなく、王様もお妃様も家来も全て眠ってしまいました。
国中の人々はお姫様を眠りから覚まそうとお城に行きましたが、お城を覆ういばらに行く手をはばまれ、お姫様に近づくことができませんでした。
そんなある日、王子様が眠っているお姫様を訪ねてきました。王子様が進むと、これまで行く手をはばんできたいばらが自然に道をあけ、お城の中へ入ることができました。
王子様はお姫様のそばへ行き、そっとお姫様にキスをしました。
するとお姫様が目を覚ましたのです。目を覚ましたお姫様と王子様が部屋から出ると、王様とお妃様も目を覚ましました。
眠りから覚ましてくれたことを喜び、王子様とお姫様は結婚し幸せに暮らしました。
◇◇◇
「という話は知っているか?」
「童話の眠り姫だろ?知ってるよ」
「…何が言いたいんだ。嫌な予感しかしないが」
櫻子、希星、月偉の順での会話。童話を語った櫻子はキラキラと輝くような笑顔だ。それに反して月偉はしかめっ面をしている。
「この眠り姫、ま、いばら姫とも言うが、別の話もあってな、眠っているお姫様に隣国の王様が『ピー』して『ピー』になって……」
「ゔわぁぁぁぁ!なんだよそれ!女の子の口からそんな単語聞きたくない!清楚さのカケラもない」
「確かに清楚さはないが、成人男性がこの程度の単語に狼狽える希星もどうかと思うぞ」
完全に希星をからかって遊んでいる櫻子。年の離れた弟ができたような気分だった。2歳しか違わないが…。
「その裏話は置いといて…つまり、この眠り姫にキッスしたら目覚めるんじゃないか?と言う話だ。行け!希星!!」
「いやだよ!眠り姫って王子様のキスで目覚めるんだろ?だったら王子様顔の月偉がするべきだ」
「ふざけるなよ!なんで俺がおっさんにキスしないといけないんだ!男が相手なんだから櫻子が行けばいいだろ!」
どうしてこんな話になっているかと言うと、4つ目の欲念珠を探して次の街へと訪れたのだが…。
ラブストーンが指し示したのは、一軒のツタに覆われた小さな日本家屋だった。
街で特に事件が起こった気配もない。
しかし、今までの事を考えると、何が起こるかわからない。慎重に…警戒しながら…襲撃に備えて…3人がツタの家に侵入していく。不法侵入と言わないでくれよ。世界のためだから。
侵入した家で見たものは…100キロは優に超えているであろう巨体の男がいびきをかきながら眠っている姿だった。
ラブストーンは男の体の下を指している。
つまり、この男をどけないと欲念珠が回収できない。
3人は何とか回収しようと頑張った。
《方法その一》
3人で押す。ひたすら押す。寝ている巨体を3人がかりでベッドから落とそう…いや、寝返りを打たせようと頑張った。しかし、びくともしない。
《方法そのニ》
大きな音を出す。あまり激しい音はご近所さんから通報されたらいけないため、耳元で『起きて〜!』と叫んだが、これも意味をなさない。
《方法その三》
色仕掛け。耳元で櫻子が甘く優しく『ねぇ、おきてぇ〜』と囁きかける。鬱陶しそうに手で払われて終わった。そりゃそうだ。
キレた櫻子がケリを入れていたが、それでも起きない。
《方法その四》
鼻と口を塞ぐ。生存本能で目覚めるのではとなったが、脂ギッシュなおっさんの鼻と口に全員が触れるのを拒絶し作戦失敗。
そして、冒頭にいたる。
「今回は『睡眠欲』に取り憑かれた男かぁ。寝てるだけだから平和だなぁ。希星が、チュッてしただけで問題解決するしぃ〜」
楽しそうに話す櫻子。
「平和なのは良いよ。ただ男の人が寝てるだけだから。でも、この人を起こすためにキスするのはダメだ!俺には次に会うヒロインちゃんが待ってるんだ!理想のシチュエーションもあるのに、こんな所でキスできない!」
必死に拒絶する希星。
月偉と櫻子は気づいてしまった。希星はまだ、ファーストキスを済ませていないと。
そして少女漫画のような、現実には起こり得ないシチュエーションを夢見ている。
赤面しながら訴える姿はお姉様方には可愛いと思うかもしれないが、櫻子は…月偉は…
「キモイ…」
「…まぁ頑張れ」
(「なぁ月偉、どうして希星はヒロイン、ヒロインって言ってるんだ?3人目は男だろ?」)
(「どうやら仲間は全員女だと思ってたみたいだ。それで運命の出会い?みたいなのを信じてるようだな」)
(「なるほどね。3人目の事、まだ言ってないのか?」)
(「言ってない。言いづらくてな」)
(「よっし!黙っとこうぜ!」)
「? 2人で何ブツブツ言ってるんだ?」
「「いや、何でもない」」
これだけ騒いでいるのに『眠り姫?』は起きる気配はない。
「櫻子の冗談は置いといて…どうする?キスがダメならどうやって起こす?」
「やっぱり希星のキッスだろ。よし、特別サービスで私で練習させてやろう。良かったな、こんな美人がファーストキスの相手で」
「だ・か・ら!どうして櫻子はそんなこと言うの!」
「す〜ば〜る、観念しなさい〜」
「キャーッ!やめて!櫻子〜!」
襲う櫻子、逃げ惑う希星。襲い来る櫻子相手に、おっさんが使っていた掛け布団を盾にしようと奮闘している。
掛け布団を巻き込むようにして寝ていたおっさんの体が動いた。
呆れた目で2人を見ていた月偉は、おっさんの体が動いたのを見てふと閃いた。
「おい、待て。このシーツ引っ張り上げて下に転がせばいいんじゃないか?」
月偉の一言で、希星と櫻子の戯れ合いをストップし、《方法その五》を試す事とした。
「よ〜し!引っ張るぞ。せーの」
グイッ!
3人掛でシーツを持ち上げる。おっさんの体が少し揺れるが動かない。シーツを持ったまま、おっさんの体をまたぎ、シーツを巻き込むようにして反対側から全体重をかけて引っ張る。それでも、まるで魔法がかかっているかのように動かない。
「嘘だろ?こんなに動かないなんて…。これも欲念珠の力なのか?」
ベッドの上でへたり込んでしまった希星。その希星に向かっておっさんの大きな腕が振り下ろされた。
「へ?」
腕は見事に希星の体の上へと振り下ろされた。眠っているからと油断していた希星は逃げるのが遅れてしまった。
「しまった!」
「「希星!」」
不意打ちの攻撃。希星はおっさんの腕の中へと閉じ込められた。そう、おっさんは寝返りを打ったのだ。
「タスケテ!タスケテ!嫌だ!汗が…鼻息が…イビキが…助けて〜!!!」
希星が悲鳴のような声を上げる。
「………あ、欲念珠だ」
寝返りを打った事により、体の下にあった欲念珠が回収できた。
「たすけてよ〜!……シクシク( ; ; )」
泣き出した希星を何とか引っ張り出し、泣怒りする希星に背中を叩かれながら3人は4つ目の欲念珠の場所を後にしたのだった。




