13.美味しい朝食
「うわぁ…すげぇ…」
櫻子の家へと移動した。外見はおしゃれな西洋風の建物。中は大掛かりな機械を置いた研究室が大半を占めていた。希星も月偉も初めて見るものばかりだった。
「これは…何か作っているのか?」
「おお!そうなんだよ!聞いてくれるか?!」
櫻子のスイッチが入ってしまった。月偉は後悔したがもう遅い。
「お前達は夢見た事ないか?箒で空を飛んで宅急便屋を開業したり、凧で空を飛んだり…。不思議な石で空からゆっくり降ってきて、呪文一つで可哀想なロボットを操ったり…夢見たことはないのか?!私は今、この真っ白な凧で空を飛べないか研究中なんだ」
アニメの世界への憧れ。櫻子はジブリっ子か?櫻子の原動力はそれなのか?飛んでみたいなーとは思った事あるが、まさか自力で実現しようとするとは…。キラキラした目で語る櫻子がなんだか可愛く見えてきた。
「そういえば、家族とかいないのか?まさかこんな大きな家に一人暮らし?」
「一人っ子だから兄弟はいない。両親は私を成人するまで育てた後、『もう少し世界を見て研究したい』と言って旅に出た。定期的に連絡がくるから無事なのはわかっている」
「親が一緒にいないって、寂しくないの?」
「自分の人生なんだから、したいことをすればいいさ。私を育ててくれて親の責務は全うしてるし、私にこの部屋を譲ってくれたし感謝もしてる。私は満足してるぞ」
「そっかぁ」
櫻子は良い生き方をしているんだろう。とても良い顔だ。
「それに、両親がいないからこそできる。私の理想の婿開発。ここの設備を使って私の理想を全て詰め込んだ理想の男を………グフッグフッ」
変な笑い声を出しながら変な事を言っている。忘れていた。櫻子は変態だった。
「……おい、その話はもういいから、少し休ませてくれ」
「そうだったな。客間は一部屋しかないから、この部屋を使ってくれ。ベッドも一つしかないけど、キングサイズだから2人で寝れるだろ?風呂とトイレはそこ。台所も好きに使ってくれ。研究室以外は自由に使って良いぞ」
櫻子に礼を言い、風呂に入り希星も月偉も疲れが溜まっていたのかすぐに眠ってしまった。
◇◇◇
(…………みそしる…?)
ふわり、と鼻を擽る食欲を誘う優しい香り。
半覚醒の意識を戻されるような美味しそうな匂いに、月偉は寝ぼけながらも半身を起こした。
(……希星がいない?)
隣で眠っていたはずの希星がいない。もぬけの殻のベッドを放置してリビングへと、台所に立つ希星が居た。一瞬で目が覚めた。
「………何してるんだ?」
「おはよう、月偉。見ての通り朝食作ってるんだよ。月偉は朝はコーヒー?」
「あ、ああ」
「ちょい待って」
恐ろしく鮮やかな手つきで朝食作りの合間にコーヒーメーカーをセットすると、ものの五分でコーヒーが出た。
「あ…ありがと」
コーヒーを啜っていると、あれよあれよという間に焼鮭、味噌汁、卵焼き、おひたし、白いご飯が出てきた。なんだこのフルコース。しかも白いご飯ツヤッツヤで焼鮭は死ぬほど旨そうだ。
「う、うまそうだな…」
「ほれ、食べようぜ。俺も食う」
「「いただきまーす」」
一口、焼鮭を口に放り込むと、塩気と鮭の油の絶妙なバランスの味が口に広がった。慌てて白いご飯を口に放り込むと、その味が緩和されて見事にほどける。しっかり芯もあるのに噛めば噛むほど甘いご飯に目眩がする。
ひとことで言うと死ぬほど、旨い。
卵焼きも一口に切って口に入れる。と、一瞬で崩れた。びっくりして断面に目をやると、半熟の卵が溢れ出ていた。なるほどな、固い外の部分を破るととろとろの中が溢れるのか。出汁の優しい風味と卵本来の風味が堪らない。
味噌汁はワカメと玉ねぎ、豆腐に油揚げの味噌汁だ。美味しそうな香りの元凶なだけあって、その味は絶品だった。しっかりついた出汁の味が味噌の塩気を引き立て、油揚げから溶け出した油が旨味を倍増させている。汁と共に口に入れた具材も文句なし。
感動で月偉はふるふると震えた。
「う、旨い……!」
「よかった。ありがと」
嬉しそうに微笑みながら卵焼きを食べている希星に尊敬の眼差しを向ける。凄いな希星、料理人顔負けだ。
がっついて食べる月偉を微笑ましげに見ながら、希星は話し出す。
「うち貧乏だったからなぁ。親も仕事でいなかったし、家事全般できるよ。月偉の口にあって良かった。これから料理はまかせてくれ」
物凄く魅力的な提案に月偉は目を輝かせて食いついた。月偉は家事が苦手だ。だから食事も外でずっと済ませてたが…。これからはこんな食事を普通に食べれる、だと…!?
「マジで!?」
「家事は一通りは出来るから安心してくれ。…買い物とかは付き合ってもらうけどね」
「よっし!すげぇ助かる!!正直家事は苦手なんだ」
「…うん。なんとなく気づいてた。山師をしてたから、猪の解体や、採取も得意だから、いざという時、野宿でも大丈夫だよ」
「おい待て。野宿ありえるのか!?おれ、ベッドがないと寝れない」
「ゾンビの時だって、あやうく野宿だったじゃないか。これから何が起きるかわからないし…」
「………仕方ないな。美味いものよろしく」
「了解!まかせてくれ」
希星と月偉がほのぼのとした空気を漂わせながら朝食を食べていると、櫻子も起きてきた。
「………なんなんだよ…お前ら…夫婦か?夫婦なのか?」
「……誰が夫婦だ」
「おはよう、櫻子。台所勝手に使ったよ。朝食食べる?」
「食べる。そうか。希星が奥さんか。良妻だな」
「そうだな。こんな料理上手な奥さんほしいな」
「誰が奥さんだ!誰が!」
「だから希星が」
「よっくわかった。とりあえず櫻子は飯いらないんだな」
「ごめんなさい。私が悪かったです。ご飯ください」
今日は休憩。3人でおしゃべりして、食事して、まったりとした平和な時間を満喫した。
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