11.現実逃避の末
人によっては嫌な表現があります。
「完全に閉じ込められたね」
希星がドアを開けようと頑張るが、鍵がかけられている。
「この部屋にゾンビはいないみたいだな。それだけが救いだな」
「怖い事言うなよ!……本当にいないよな?」
2人で室内を調べたが、誰もいないようだ。それに関しては安心したが………。
ぐ〜
「月偉…お腹減った」
「走り回ったからな。俺も喉が渇いた」
閉店してしばらく経つ店舗には、飲み物や食料は見当たらない。蛇口を捻れど水道も止めているようで水は出なかった。地下のため、細い換気や明かり取りのためであろう窓があるだけの部屋には脱出できそうな所もなく、お手上げの状況だ。
「目的が何かはわからないが、このまま閉じ込められているだけでもマズイな」
明かり取りの窓から僅かに差し込む光が、徐々に小さくなっていく。もう少ししたら、完全な暗闇の中、水も食料もない状態で過ごさなくてはならない。2人は話し合った結果、2人目の仲間へとテレパシーで助けを求める事にした。
「上手くいくかな?」
「わからん。相性の良し悪しと相手との距離も関わってくるからな。上手くいくといいが…」
「へぇ。じゃ、月偉と俺は相性バツグンってことか」
「アホ」
月偉は触れる程度の小突きを希星にし、2人目へとテレパシーを送るべく集中し始めた。
その月偉を見ながら希星はくすぐったいような恥ずかしい様な喜びを1人噛み締めていた。
希星は龍太との関係があったため、友達が出来なかった。こんなに冗談を言ったり旅をしたりする相手はいなかった。だから、こんな状況でも内心は嬉しくて…楽しくて仕方なかった。
(不謹慎だって怒られそうだから言わないけど、俺の人生の中で今が一番、正しく生きてる気がする)
そんな事を考えてる間に、月偉はテレパシーを送り終えたようだ。溜息を吐きながら疲労の色が顔に浮かんでいる。
「なぁ月偉。2人目のヒロインが、か弱い女の子だったら、ここまで来れないんじゃないか?」
「………大丈夫だろ」
(か弱いだけの奴を2人目にしないだろ)
「でも、女の子なんだよ?危なくないかな?あ〜、心配になってきた」
「…………大丈夫だろ」
(こいつ、1人目が男の俺だった事完全に忘れてるな)
「ヒロインちゃんが来たら、絶対に俺よりも月偉に夢中になるだろうな。いいなぁ、美形は」
「あまり考えなくていいと思うぞ」
(絶対に希星がイメージしてる奴は来ないだろうな。ま、面倒くさいから伝えないが)
そんな会話をして気を紛らわし時間を潰した。しかし、いつまでも会話を楽しむ事はできない。
「のど、かわいたね」
「あぁ。今、何時くらいかな。あれからだいぶ時間が経ったな」
部屋の中は真っ暗だった。左肩に触れる月偉の体温だけが、自分は1人じゃないと安心させてくれる。
「助けは…来るのかな?」
希星が呟いたその時、
ドゴンッ!!!!! ブワッ! ガンッ!!!!
ドアがひしゃげながら、物凄い勢いで飛んできて希星の右側の壁へと激しくぶち当たった。そのドアを見つめながら希星と月偉は青褪め固まってしまった。
「おお!雑魚ども!生きてるか?!助けに来たぞ!」
ベリーベリーショートの髪型、グレーのツナギを着て何やらドラ○もんの秘密道具『空気砲』の様な物を持っている20代らしき女性が入口に立っていた。
「………え?あの……味方?…敵?」
「希星、たぶんアレが2人目のヒロインだ」
「……え?」
狼狽える希星。こうなるだろうなと予測し希星を慰めようとそっと希星の肩に手を乗せる月偉。
そんな2人に気づかず、2人目のヒロインは話を続けた。
「見ろ見ろ!雑魚ども!これがお前達を助けた私の大発明品、その名も『空気砲』だ!凄いだろ!」
そのまんまだな!その大発明品、未来の猫型ロボットが持ってますよ!
嬉しそうに手に持った物を撫でている女性を見つめ、希星はボソッと呟いた。
「清楚系美少女…?」
「だから、大丈夫だと言っただろ?それよりも大きな音を出したからな。ここから早く逃げた方が良い」
「おい!お前達!私の発明品の素晴らしさを…」
「うるさい。騒ぐな。希星、ゾンビが集まってくる。場所を変えるぞ」
いくぞ。月偉のその一言で3人は急いで逃げ出した。
3人は再び駄菓子屋へと逃げ込んだ。喉を潤し落ち着いた所で希星と月偉は自己紹介をした。
「希星と月偉か。よろしくな!私は櫻子、発明家だ。ちなみに好みのタイプは引き締まった細身に筋肉が美しく、凍てつく様な眼差しを持ちつつも知性が感じられる高身長イケメンだ。メガネが似合えばなお良し。いたら教えてくれ」
「「………はい」」
希星と月偉はお眼鏡にかなわなかったようだ。希星は「あれ?なんか俺の予定と違うぞ」と思いながら首を捻り、そんな希星を横目に見ながら月偉は缶コーヒーを飲んで体力回復に努めた。
「いいか、この『空気砲』は、ここから物凄い空気の衝撃波を放つ。このまま使うと自分の体にも反動で衝撃がくるから衝撃吸収のために…」
発明にしか興味がない櫻子。櫻子がひたすら語る発明品の話を聞き流しながら一晩3人で過ごし、休憩もかねて情報交換・交流を深めていった。
翌日、疲れが癒えたとは言えないが、ゆっくり休めた希星と月偉。昨日の出来事について、さっそく検証を始めた。
「この街はどうしてゾンビだらけなんだ?欲念珠の効果とはいえゾンビだらけになる欲ってなんだ?」
希星はずっとわからなかった謎をボソッと呟いた。なぜ、わざわざホラーな街を作ったんだ?
「ん?人生が嫌になったからじゃないのか?」
「は?」
当たり前のように言ってくる櫻子に、希星はキョトンとした顔を向けた。
「若い頃、嫌な事があると考えてるんじゃないか?『異世界に転生しないかな』『世界が滅べば良いのに』『目が覚めたら世界が一変してないか』とか。周りを巻き込み自分の状況をガラリと変えてやろうって。その延長線上の発想じゃないか?自己中な奴の破滅的発想だな。現実逃避、ヤケになった、復讐心、何かはわからんが、ドロドロとした負の感情には間違いないな」
なるほど。言われてみればそんな事も考えた時期もあったっけ?現実には起きないから、普通は考えるだけで終わるが、そんな歪んだ思いも実現させるのが欲念珠か。
「私は機械工学が専門だから詳しくはわからんが、欲念珠が新種のウイルスの類のものだとすると、ゾンビと化している者はすでに死んでる可能性は高いな」
「そうか…」
この状況を見て、欲望の元となった人はどんな気持ちなんだろうか。
「さて、親玉の所にある欲念珠を回収に行くんだろ?さっそく行こうぜ」
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