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俺にヒロインは訪れない  作者: 流風
11/25

10.屍肉の恐怖

残虐な描写があります。

コメディを目指しているけど、ホラー話になります。

 トンネルトラブルを抜け出し、次の町に着いた時はすでに昼前になっていた。


「……つかれた」


 希星すばる月偉るいも満身創痍の状態だ。とりあえず朝食を食べてのんびりしたい。そう思いながら街へと入ったが…。


「誰もいないな」


 住民の姿がない。


「まだ街の外れだからな。中心街に行くといるんじゃないか?あ、見てみろよ。ここ、駒ヶ宮って言うみたいだぜ」


 標識から、ここは駒ヶ宮市と判明した。そこから少し走ると、ふらふらと歩く1人の男の後ろ姿があった。その男の先に小規模なスーパーが見えた。


「スーパーがあるぜ。あそこで何か買おう。俺、喉乾いた」


「そうだな。ついでにトイレ休憩にしよう」


 スーパーの駐車場に車を停め外に出る。希星すばるは大きく伸びをした。それを見て月偉るいも体を動かしている。


「関節がパキパキいってる」


「俺も。それにしても客がいないスーパーだな」


 さっきの男性以外、人影がない。時刻は昼前。スーパーなら主婦が買い出しに来ていそうな時間だが…。

 不思議に思いながら店に向かって歩き始めた。そんな時、不意に背後から「……あ…あ…あぁぁ」という声が聞こえてきた。振り返ると先程の中年のスーツを着た男が、こちらを見ていた。


(まずい!)


 そう思った瞬間、よだれを垂らしながら、顔を歪めて飛びかかってきたのだ。

 狂犬病にそっくりだった。希星すばるは男を慌てて蹴り飛ばし、そばにあった鉢植えを投げつけて、月偉るいの手を掴みスーパーへと逃げ込んだ。男は追いかけてきて、スーパーのガラス扉をガンガン叩き始めた。その姿を見て希星すばるは震えながら月偉るいの手を強く握った。


「どうやらドアを開ける知性はないみたいだな」


 月偉るいが言う通り、男は焦点の合わない目、涎を垂らし、呻きながらドアを叩いている姿は異常だ。知性は感じられない。


「もしかして、あれってゾンビなんじゃないか?」


 希星すばるは怪談話で聞いたことのあるゾンビの話を思い出した。


「ゾンビって…マジか。そんなもんいるわけ………ちっ…欲念珠か」


「欲念珠って……そうか。そうだよな、月偉るい。こんな変な現象が起きるのはそれしかないよな」


「とにかく逃げよう。あの勢いだと、ドアを開ける前にガラス叩き割るぞ」


 スーパーの奥、裏口から脱出しよう。そう話し走り出した瞬間、それは視界に入り、希星すばる月偉るいは固まった。五、六人のゾンビが一斉に、こちらを振り向いたのだ。振り向いたゾンビの口元には血が滴っていた。ゾンビ達の足元を見ると、原型をとどめていない血みどろの人間が横たわっていた。その隣には赤ん坊と思われる小さな遺体もある。


「ひっ……」


 月偉るいが小さく悲鳴を漏らす。

 希星すばるは、全身に鳥肌がたつのを感じた。


(ゾンビに喰われるのか)


「逃げっ……!」


 月偉るいの手を引き慌てて戻る。後ろから、猛烈な足音が近づいてきた。


「早くっ!」


 転げるように、出口に向かって走る。希星すばるは後ろをたびたび振り返りながら、月偉るいを前へと追い立てた。

 後ろから近づく姿に、希星すばるは悲鳴をあげる。


「ゾンビって遅いんじゃねーのかよ!」


 走る速度は、ほとんど人間と変わらない。手を振らないで、下半身だけの不格好な走り方をするため、一歩ごとに体がかしいでいる。それが余計に恐怖を増幅させる。


「外に!早く外に逃げろ!」


 忘れていた。

 出口のドアには希星すばる達を追いかけていたスーツ男がいる。よく見るとそのスーツゾンビの後ろに、希星すばる達同様外部から来たであろう2人の男女が呑気に近づいてくる。


「あの、どうし………」


 男が外のゾンビに声を掛けたと同時にのしかかられる。


「あぐぁっ……」


 外から奇妙な声が響いた。

 その声に…もしくは血の匂いに導かれるように、店内にいたゾンビ達も外へと出て行った。外開きのガラス扉は、店内のゾンビ達には容易に開く事ができた。


 外での…その光景に、希星すばるはゴミ捨ての日の早く出しすぎた生ゴミに群がる、カラスの群れを連想した。

 あるいは、倒れた人を介抱しようと集まる、人の群れか。

 だが、


「だずっ……げ」


 グチャ、ビチャ、という粘着質な音と、群がるゾンビたちの間で飛び跳ねる赤いものが、そのどちらでもないことを知らせていた。


「逃げるぞ!」


 月偉るいが小声で急かすように言ってきた。その声に弾かれるように希星すばるも走る。出入り口がゾンビで塞がれているため、店内の目の前にあった階段を目指す。

 一段飛ばし、二段飛ばしで駆け上がる。

 2階はどうやら倉庫がわりに使っていたようで、ダンボール箱が積まれている。


 階段下から呻き声が近づいてきている。


月偉るい、この窓から外に逃げよう」


 窓の外には足場となる軒先があり、飛び降りれそうだ。このままスーパーに立て篭っていても詰まる。

 月偉るいと2人、スーパーから飛び出し、駐車場の車は諦めて走って逃げ出した。




「なんだよ…あれ…」


 ゾンビを振り切り、住民がいなくなった荒らされた駄菓子屋の店舗へと逃げ込んだ。申し訳ないと思いながらも店内の物を物色する。希星すばるは煽るように飲んだジュースが体に染み渡るのを感じた。


「はぁ…はぁ…」


「大丈夫か?月偉るい


 体力、身体能力は希星すばるの方が格段に上だ。月偉るいは体力の限界だった。


「少し…休ませてくれ…」


 街中を逃亡しながら確認した所、ゾンビはどうやらスーパーや学校など、人が多く集まる場所に多くたむろしている。そりゃそうだ。人を喰うのなら、人が集まる場所に行くのが一番だからな。


「シューの話を…もっと軽く考えてたんだ。人の欲を増幅させても大した事ないだろうと。最初は動物園の『自由』に対する欲、次は『美と金』に対する欲。人が死んだりしなかった。なんだかどんどん規模が拡大してるというか…怖かった」


「はっ、なんだよ…その感想。でも、確かに怖かったな。初めてだ、あんなの…。もしも、欲念珠を持つ時間が長くなればなるほど範囲が広がるとかあるのなら、早く回収しないとな」


「なあ月偉るい、そもそも、街中がゾンビ化する欲ってなんなんだ?本当に欲念珠の効果なのか?」


「それ以外に、この非現実は説明つかないだろ?誰がどんな欲を持ってるかなんて、俺にはわからん」


 とりあえず、今日はここで休ませてもらい翌日の朝から再び欲念珠探しに繰り出す事とした。


 翌日朝。


「おはよう、月偉るい。眠れたか?」


「……ぉはよ。眠れん」


 昼も夜も関係なく、ゾンビの呻き声が聞こえた。その不気味さに2人ともなかなか眠る事ができなかった。簡単に朝食を済ませ、2人は再びゾンビの世界へと足を踏み出した。




 希星すばる月偉るいは、役場を目指して隠れながら移動した。緊急事態が発生した際、人が避難するのは学校・体育館・役場だと考えたからだ。生きている人間が居れば話が聞きたい。

 学校は昨日、横目で確認しただけでもダメだと判断した。だから役場に無事な人達が避難してないか見に来たのだ。

 役場近くまで来てそっと様子を伺う。

 2階建ての建物を見上げ、希星すばる月偉るいもため息をついた。


「駄目そうだなあ……」


 遠目から見ても、すでに建物内をゾンビがうろついている。

 外周を探索してみたが、生存者のいる気配はない。

 役場内の机や椅子は片側に寄せられ、バリケードを作ったであろう気配はある。

 多くの人間がここにいた痕跡はある。しかし、今はゾンビしかいない。彼らの年齢、性別は様々で、おそらく避難民だったのだろう。

 建物のところどころに、乾いた赤黒い染みがあった。割れた窓の様子からも、ここでの混乱ぶりが伺える。


「せめて綺麗な女の子のゾンビばかりだったら良かったのになぁ」


「ゾンビに綺麗さ求めるなよ」


 さてこれからどうするか。希星すばる月偉るいが思案しているその時、目の前に不思議な女の子が現れた。役場の駐車場でゾンビとセーラー服の少女が何かやりとりしている。


「おい、あの女…ゾンビと会話してないか?襲われないのか?ゾンビか?人間か?」


「本当だ…。え?ゾンビって会話できるの?あの子、ゾンビじゃないよね?喰われないの?月偉るい、試しにゾンビと会話してきて」


「お前がいけ」


 希星すばる月偉るいがくだらない会話をしているうちに用事が終わったようで、少女は役場から出て何処かへ移動し始めた。


「よし、後をつけよう。あの女が生者だろうがゾンビだろうが他と違うのには変わりない。欲念珠に憑かれた人間の可能性が高いな」


「後ろ姿だとすっごい美少女だな。ぜひ、前から見たい」


「前から見たら血みどろだったりして」


月偉るい、夢を見させろよ」


 少女をつけて行くと、商業ビルの前に着いた。上に3階、下に地下1階の建物。少女はどうやら地下へと入って行ったようだ。細い階段が下に伸び、『喫茶エリー』と書かれた、一部が割れた看板が薄暗い通路の先に佇んでいた。


「おい、希星すばる、さっきの女、この下に降りて行ったよな?」


「たぶん。角度的にはっきり見えなかったけど、ここに入ったと思うよ」


「……行くか」


 正直不気味だ。地下に伸びる薄暗い階段。あの喫茶店のドアを開けるとゾンビの巣窟だったと言われても納得がいく。それほど雰囲気がある。


 希星すばるを先頭にゆっくり階段を降りて行く。希星すばるは茶色い古めかしいドアノブに手をかけ、「開けるぞ」と月偉るいに声をかけた。ゆっくりドアを開け中を覗くと、天井付近に細い明かり取りの窓があるだけの薄暗い店内だった。ゾンビの気配はない。

 ゆっくり、音を立てないように店内に入る。


「……誰もいない?」


「隠れているだけかもしれないが…それにしても気配がないな」


 少し前に閉店したであろう喫茶店の中は、机の上に椅子が乗せられ、埃っぽいものの片付けられていた。


「……いないな」


 その時、視線を感じ振り返ると、青白い顔をしたセーラー服の少女が立っていた。そして、入り口のドアがバタンッと閉まり、ガチャガチャッと音がした。


「まずい!」


 月偉るいの慌てた声が静かだった室内に響く。急いでドアまで行ったが、鍵がかけられ閉じ込められてしまった。


「やられた」




読んでいただいてありがとうございます。感想など頂けたら嬉しいです。

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