9.ベタなホラーに御用心
希星と月偉は町を出てしばらく車で走っていた。
運転は月偉。必然的に助手席に座りラブストーンを持ち地図を持っている希星がナビ担当だ。
この時代、カーナビなど存在しない。だから助手席の道案内が大事になる。
「宗教団体に拉致されてた人達は無事に保護されたらしいぞ」
「そっかぁ…それはよかった。あの地下牢には俺と月偉しかいなかったから気になってたんだよね」
「俺だけは欲念珠の影響を受けなくて操れなかったから、牢に入れられてたんだよな。それと、あの教祖様、見目良く生まれたが、家庭環境が悪かったみたいだ。親がギャンブルに負けてあいつは売りに出されたらしい。その売られた先では見た目の良さでのしあがったらしいが…ま、苦労はしたんだろうな」
「そっかぁ。美意識過剰の変態野郎もたくさん悩んだのかな」
ちょっと同情しちゃうな。
「あいつの言ってた美しさなんて、自分の美しさの基準以外は認めませんって事だろ?自分の価値観をゴリ押しするだけじゃダメだろ。価値観は他の価値観と比べて、色んな考え方がある事を認めて初めて価値観と言えるんだ。あんな狭い世界の考え方で暴走するやつに同情なんてするな」
「うわぁ。何言ってるかよくわからないけど、月偉、カッコいい」
「当たり前だ」
そんな雑談をしながら走行していた。時刻は夜。繊月の夜。月明かりもあまりなく暗い夜道を走っている。
「おい、本当にこの道で合ってるのか?」
「…たぶん。地図で見る限り合ってる」
道はある。しかし、周りには民家の明かりはおろか街灯すらない。もう街へ着いても良いくらい車は走らせているのだが…。
ポツ…ポツ……シトシト……ザー
「ちっ。雨か」
ワイパーをかけながらヘッドライトで視界の悪い道を照らす。すると目の前にトンネルが見えてきた。
「あれ?トンネルなんて地図にないけど」
「じゃあ、完全に道に迷ってるな。ラブストーンはこの先を照らしてるんだろ?道はあるし進んでみるか」
トンネルに入った瞬間に、それは起きた。
トンネル内の両サイドに雨だれの染みがあり、それがなんとなく人影に見え気味悪いと思った瞬間、月偉が静かに口を開いた。
「希星…落ち着いて聞いてくれ」
「ん?なんだ?」
「バックミラーで後部座席を見ると、女が座ってる」
え?やだなぁ。こんな場所でそんな冗談。そう思いながら希星もそっとバックミラーを除いた。鏡の中には赤いワンピースを着た黒髪ロングの女が座っていた。そして、髪の隙間から『ニタァ』と口角が上がるのが見え、希星は静かに視線を前に戻した。
「そんなベタな」
思わず呟いた希星の一言に、「やっぱり気のせいじゃなかったか」と月偉が返した。
「もう一度、せーので見てみようか」
せーの。小声の合図に合わせて静かにバックミラーを見る。女の姿は消えていた。
2人で静かに視線を前に戻し、月偉が再び静かに言った。
「なぁ、このトンネル、長くないか?」
希星もずっと気になっていた。ずっと先に出口の明かりは小さく見えている。しかし、近づく気配がない。対向車も後続車もない。
ヘッドライトで照らしたトンネルの両端にはゴミと人形が捨てられているのが見える。それがさらに不気味に見えた。そんな時、
バンッ!!!!
バンッ!!バンッ!!バンッバンッ!!!バンッ!
走行している車の外側からバンバン叩く音が車内に響き渡る。
「ウギャァァァ!!!なんてベタな怪奇現象なんだよ!!」
叫ぶ希星。ふと気付いた。隣の月偉がやけに静かだ。月偉を見ようとしたその時、
バンッ!!!!
ボンネットに赤ワンピの女が降ってきて、こっちを覗くように見てきたかと思うと『ニタァ』と笑いかけてきた。
「ギャァァァァ!」
叫ぶ希星。希星はすっかり忘れていた。ハンマー・ハンマーの刺客に狙われている事を。そして気づけなかった。この女が刺客であることに。そして知らなかった。月偉が短気である事を。
「ふふっ…ふふっ…」
ふいに不気味に笑い出す月偉に希星は恐怖した。
「てめぇ!俺の車に何してくれてんだ!」
一気にアクセス全開。からの……急ブレーキからの再び急発進。女を振り落とし車でダメージを与え、月偉は走り去った。
「幽霊の癖に生意気だ!」
希星は思った。月偉は怒らせないでおこうと。そのまま無事にトンネルを抜け出す事ができ、2人は街へとむかうことができたのだった。
結局、刺客の存在に気付く事なく倒すことに成功した2人だった。
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