0.未来
残虐な表現がありますが、基本コメディを目指してます。
2X X X年。
たくさんの緑と、青い海に囲まれ、資源に乏しい島国ながらも技術躍進を果たし、応用技術で高い世界地位を確立する先進国。高い建物とたくさんの機械、科学技術により生まれた新たな生命達。
その国が…街が…首都が…………無残な火の海となっていた。
誰かッ! だれ……か…………助け……っ…………
崩れたビルの瓦礫に埋もれた男が、悲痛な呻き声を上げ、虚空に掲げた手を静かに地面へ落とし、事切れる。
ーーーあははははっ
恐怖で気が狂ったのか、辛うじて残っているビルの屋上から、笑いながら踊るように身を投げる女性。
あまりにも哀れで残酷で無慈悲な死。だが、それを止める者も止める術もない、仕方ない状況だった。
何故なら周りには、この人達と同じ様に報われぬ救いの懇願の末、哀れな骸を晒す者がそれこそ星の数ほどいた。
返事のない助けを呼ぶ声は、あっさりとかき消されてしまう。
状況は皆同じ。国も、自衛隊も、警察も、誰一人……他人を助ける余裕など無かったのだ。
ママぁぁぁぁッッ!! ママぁぁッ!! …………あ。
ぬいぐるみを引きずりながら泣きじゃくっている女の子の上に…疲れて歩き回る事もできず、ただひたすら泣きじゃくる事しかできない少年の上に…崩れたビルの残骸が無慈悲な鉄槌となって落ちる。
風の速さで駆け付け、絶妙なタイミングで瓦礫を受け止めて幼子の危機を救う正義のヒーローはいない。
生き残りたければ、静かに身を隠し逃げ延びるしかない。
どこまでも残酷な破滅の現実。
老若男女を問わない死屍累々の惨状。
まともに形を残した建物は無く、無数の黒煙が空を焦がす。
ひっくり返り炎上する車。道路に散乱する数々の瓦礫。もはや動く事のない装甲車。頭から地面に突っ込み半分に折れた飛行機。
ただただ地獄。
だが、これは天災ではなく、ある集団によって引き起こされた暴虐。
しかし、この惨劇を生み出した者達も……ここまで無意味な虐殺をする気は無かった。
人間誰しも負の感情はある。そんな負の感情を持っていたとしても、元はもっと大人しい者達だった。
最初はちょっとした興味本位で起こした行動が原因だった。
「く、くそぉ……よ、よくもぉ……ハンマー・ハンマー共めぇ……」
捲れ上がり突き上げられたアスファルトの舗装路。
その裂け目に血の滝を彩る一人の男が倒れていた。
血と埃で汚れきった白衣を着た男。
眼鏡は割れ顔面は鮮血に染まり、その命は風前の灯火なのが容易に伺える。
「くそぉ……み、みんなぁ……勇希……すまない…………」
男は流血に涙を混ぜる。
白衣の男の側には、長い髪を地面に広げて横たわる白衣の女性。女性に抱き抱えられた一人の少年が倒れていた。
2人ともすでにピクリとも動かず、完全に絶命している。
そんな彼らが、この世界の最後の希望だったのに…。
この惨状に終止符を打てる唯一の人間だったのに…。
その人間の命が、今、尽きようとしていた。
しかし、彼等は一つの希望を残した。
その希望は白衣の男の願いを叶えるため、既に過去へと旅立っていた。
「………妖精達……頼む…頼んだ………ぞ………」