正夢男
「君は正夢っていうのは見たことがあるかい?」
私が部屋に入るなり、彼はそう問いかけてきた。
返答に詰まる私を見て、彼は小さく笑った。
「はは、すまない。突然すぎたかな。まぁそこに腰掛けてくれ。」
私が困惑気味に、椅子に座るのを見ると、彼は話を続けた。
「さっきも聞いたが、君は正夢を見たことがあるかい?あるいは信じているかい?」
授業終わりに、いきなり放送で呼び出され、心当たりがなかったので、何の用かと思ったが、その疑問は彼の質問を聞いたあとでも解決しなかった。私は今何を問われているのだろうか。
「正夢...ですか?いや、見たことはないですけど。まぁそういうのもあるんじゃないですかね。」
私の返答を聞くと彼はにっこりと笑った。
「そうかそうか。それは良かった。それなら、納得してもらえるだろう。私もね、勿論正夢を信じている。なんせ何回も見たことがあるからね。」
「例えば、何年も病床に伏せっていた、祖母がとうとう亡くなる夢を見た翌日に、本当に祖母が亡くなってしまったりだとか、愛犬のリクが亡くなる夢を見た次の日にやっぱり本当に亡くなってしまったりだとか。そういう夢をね、僕は何度も見ているんだよ。もう回数は多すぎて数えてないけどね。ははは!」
そう言って1人で笑う彼に対してうつべき適当な相槌が分からず、私は当惑するしか無かった。
「ああ。それで本題なんだけどね。」
と、彼は突然真剣な顔つきになった。
「私が見る正夢は決まって誰かが死ぬ夢なんだよ。祖父や、同僚の教師、私の生徒。今まで何人もの人が死ぬ夢を見て、そうしてみんな死んで行った。」
「まぁ一種の超能力みたいなものだと僕は思ってる。僕の夢が外れたことがないからね。僕の夢の中で死んだ人は、本当にそっくりそのままの死に方で、死んでしまう。」
私は彼の言いたいことが全く分からず、当惑した。
彼が人が死ぬ夢を見た時は、決まってその人が実際に死んでしまう。それについてはわかったが、そのことを私に話して何になるというのだろうか、相談なら、別の人にした方が良いに決まっているのに。
それに、彼の言っていることはかなり不謹慎だ。私は彼の異常性を感じ取り、全身の血液が少し冷えるのがわかった。
私の考えていることを、私の表情から読み取ったのだろう。彼は表情を弛緩させた。
「はは、何を言っているか分からないよね。いや、すまない。つまりね、僕は昨日君が亡くなる夢を見たんだ。」
「僕に殺されてね。」