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第22話 会議と疑念

 青江羽衣に対しての関心が深まったのは、俺にとって、ごく自然なことだといえるであろう。


 文化祭委員になった日のことを思い返してみる。そういえば、役職決めの話し合いの際に青江羽衣が発言することはほとんどなかった。


 彼女が声を出したのは就任の挨拶のときだけであった。声が小さくてうまくききとれなかったのを覚えている。


 やや慣れない司会に苦戦した記憶も蘇る。自分でいうのもなんだが、孤軍奮闘であった。


 青江羽衣。やはり、なぜ委員に立候補をしたのかが掴みがたい人物である。



 翌日の放課後、つまり優里亜さんと名前談義をした次の日、俺は特別教室にいかねばならなかった。


 朝のホームルームのときに「文化祭委員は会議があるので特別教室に集まるように」と担任から伝えられていた。


 もちろん、青江羽衣も一緒だ。


 俺は、きょう一日を通して、青江羽衣バレないよう気をつけつつ、の様子をうかがっていた。


 人形のように虚ろというべきか、感情が読みにくい。


 人と話す様子が見受けられないとなると、外見から内面を観察しようという、難易度の高すぎる方法をとらざるをえなかった。


 結果が散々であったのはいうまでもないだろう。


「青江さ……」


 青江羽衣の席まで足を運び、声をかけんとする。


 俺の存在に気づいた彼女は、さっと立ち上がった。


 返事もせず、目的地にむかって歩き出す。


 無愛想というのにもほどがある。これじゃあ、優里亜さんの推測が外れたも同然だ。


「青江さん、きいています?」


 教室の扉を通り過ぎ、颯爽と歩き去っていく彼女の前に立ち、たずねる。


「……きいてた。無視したつもりはない」

「そ、そっか」


 冷徹な瞳と、刺すような口調。近づきがたい雰囲気は、鋭利な刃物を想起させる。


「なんだよこいつ、とか思ったでしょ」

「いや、そんなことないよ」


 嘘である。本当になんなんだこいつ? 態度が悪いにもほどがある。申し訳ないが、彼女の人間関係を色々お察ししてしまう。


「そう」


 それだけいうと、俺の横をさっと抜けた。


 数歩いってから、青江羽衣は振り返る。


「いくよ、会議」


 早足でいってしまった。ため息をつかざるをえなかった。俺は青江羽衣の背中を追った。



 会議は滞りなくおこなわれた。第一回ということもあり、深いことまではやらなかった。やったことといえば、自己紹介と役職決めくらいだ。


 会議の自己紹介でも、青江羽衣は自分らしさを貫いていた。


「二年、青江羽衣。よろしく」


 と、早口でつまらなそうにいうものだから、苦笑いとまばらな拍手でむかえられた。


 他クラスの文化祭委員というのは、いわゆるウェイな方々がすくなくない。容姿から振る舞い、喋り方までも、陽のオーラに満ちあふれたような方々ばかりだ。


 その中に青江羽衣をぶちこめば、異様さが際立つのは当然であり、本人でもないのに、俺は気まずくて仕方なかったものである。


「お疲れ様、青江さん。きょうはどうだった?」

「ふつう」

「ふつうか、ふつうね……」


 会話が続かない。俺のコミュニケーション能力不足というのもあるが、どうも青江羽衣はやりずらい。


 後輩――冴海と比べてみよう。冴海も受け答えは短いが、ガツガツ話すヤンデレということで、面倒だが断然やりやすい。


 縁菜、氷空も考えればわかる。あいつらも話しやすいことには話しやすい。


 青江羽衣のようなタイプはあまり関わったことがなく、どう接すればいいのか悩ましい。


「じゃあ、私帰るから」

「あっ……」


 何もきけぬまま、青江羽衣はいってしまった。


 きょう一日を通じて、青江羽衣に対する好感度は落下の一途をたどり、謎は深まるばかりだった。


 ミステリアスといえばきこえはいいが、自己主張がないといえばそれまでだ。


 髪とメガネで隠れてしまって、顔もまだまともに見れていない。


 これから、文化祭委員としてともに活動していけるのだろうか。このような疑問は、これからしばらく抱き続けるのであろう。


 根気強く、青江羽衣という人物をつかんでいくほかない。そう考えがまとまったころには、我が家についていた。



「ただいま……って、誰もいないか」


 ここ最近、部屋に誰かがいて当然、という日々が続いていたせいか、ひとり暮らしであることを忘れかけていた。


 くつろげる状態になってからスマホを開く。


 メッセージが届いたようだ。優里亜さんからである。


『優里亜:


 晴翔君! きょうはレポートが大変で帰るのが遅くなりそうだから、君の部屋に寄れない! 


 寂しくなったら、連絡してね……といいたいけど、たぶんスマホの電源を落としちゃうから、返信はできないと思う! ごめんね! 


 明日も同じ感じかも? そういうわけだからよろしくね!』


 そのあとには、かわいらしい動物が添えられていた。


「優里亜さん、いないのか……」


 そもそも彼女は隣人である。半同棲状態であるからこれもまた感覚が麻痺しているのだが。


「モヤモヤするな……」


 むろん、青江羽衣のことだ。


 こういう日こそ、気分転換でもして考えるのをやめればいいのだが、なにをしても気が紛れることはなかった。


 考えないようにしようとすればするほど、ますます考えてしまう。忘れたいのに忘れられない。


 なにをしてもうまくいかないことを確認した俺は、珍しく早い時間帯から眠ることにした。

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