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第19話 友人と祝福②

 本日の食事はなにか――餃子である。


 皮に包んで焼く手作りのものであり、四人で分担して作らねばならなかった。


 ホットプレートの上で焼いていただく。


「やっぱり料理は手作りに限るわね。やっぱり、人の思いを直で感じられちゃうから好きなの」

「晴翔の手が触れたものが体に吸収されると思うと、胃液が逆流しそうだわ」

「考えずに食べるのをおすすめするよ」


 氷空はたとえメンバーが誰であろうと余計な暴言がないとやっていけないらしい。


 暴言というものは、慣れると心の痛みを感じなくなるが、それでも傷がつくことには変わりない。いつ堪忍袋の緒が切れてもおかしくない。たとえ変態であろうと、暴言はうれしくないのである。


「そうね。食材の品質がいいのにもったいないわね。私が選んだだけあると思う」

「空ちゃん、半分以上は冴海ちゃんの食材じゃない?」

「ユリアひと言余計ぃ〜」


 そのまま君に同じ言葉を送りたい。


 半分以上が、今回の食事に参加していない冴海ちゃんから差し出されたものであるというのは、いささか奇妙な事態だ。


 優里亜さんのことをヒモだと考えてしまったが、かなり俺も冴海ちゃんのヒモと化している部分がある。特に食材。


「氷空にも年上の知り合いができてお兄ちゃんうれしいよ……晴翔経由で知り合ったのはやや思うところがあるけどな」

「おい」

「こんないい人とも晴翔がお近づきになれただなんて、やっぱりついてるやつだよ」


 こういった内容の言葉を、何度もかけられている。いわゆる嫉妬である。


「いい人だなんて……そんなことないない。そうでしょ、晴翔君?」

「そんな謙遜しないでください。優里亜さんは自分を貶める必要のない人なんですから」


 いうと、氷空と勝利からの視線が刺さる。


「ふーん、いつも俺たちの前で見せる顔じゃねえな。しっくりこねえ」

「僕だなんていうんだ。うぇー、こんな晴翔知りたくなかった……いつも以上に気持ち悪い」

「めちゃくちゃいうじゃん、兄と妹そろって」


 この人選は明らかにミスだったかと思われる。


 兄妹の片方ならまだしも、両方きてしまえば、阿吽の呼吸で繰り広げられることは予想しえた。


 俺に対するマイナスの面における暴露がおこなわれてもおかしくないわけである。


「そういえばさ。この前だっけ、晴翔が私の胸をガンm……ウゴッ!」


 それ以上の発言は許可できない。誤解を招く発言をされてよいことなんてないのだ。物理的に発言権を取り上げた。


 同時に、勝利の方も発言権を奪おうと思ったのだが。


「妹の胸をガン見して『美しい……』だなんて悦に浸ってたんだよなー?」

「おいおいお、なにいってんだよっ!」

「へぇ……」


 さすがの優里亜さんも、軽蔑の意がこもった相槌を打たざるをえなかったらしい。目を心なしか逸らされた。


「でも、晴翔君は変態だからいつも通りか。そうだよね、きっとそうだよね。うんうん」

「納得されたのに傷つくのはなぜ?」


 騙し騙し自身を説得させんと試みる優里亜さんを見ていると、自分の使用のなさというか、変態だとみなされるのに思うところもでてくる。


 理解はできたが納得はできていないようなものだといえばいいんだろうか。


 いずれにせよ、「美しい……」発言は、優里亜さんに若干ひかれる要素としての役割を十全に果たしえてしまったわけだ。


「さっそく信用貯金が失われているな。しめしめ」

「お隣さんには隠し事はしない方がいいでしょう? 私たち兄妹って、その面では優しいといえるんじゃない?」

「それが(かご)の家系における優しさか」

「親友に対して適応される特別ルールだとさ」


 つまるところ、あいつらは俺と優里亜さんとの間に繰り広げられるであろうハッピーライフを邪魔しようってことだ。


 隠したいことも、こいつらがその気になればあっという間に知られてしまう。今後、こいつらの前で問題発言をすることは許されないだろう。


 そういや、籠ってのは、氷空と勝利の苗字だ。下の名前ばっかで呼んじまうからつい忘れちまう。


「大変ユニークな家柄らしいね」

「否定はしないよ……そろそろ焼けたかな?」


 じっくり焦げるのを待ち、しゃべって時間を潰していた一同であった。


 金属ヘラでささっと裏返す。まあまあ焦げてる。食えなくはない仕上がりだが、積極的に食べたいと思ぬ感じだ。


「晴翔のせいね」

「晴翔のせいだな」

「……じゃあ、晴翔君のせい?」

「ついには優里亜さんまでそちら側に!?」


 最終的に、若干焦げてしまった餃子は俺の担当となった。苦さがやや口に残ったが、そこを考慮しなければ……サクサクでおいしかった。


 四人で食べたはずだが、食材がたんまりあってなかなか食べ尽くせなかった。


 途中から、なぜか我が家の冷蔵庫の具材もホットプレートで焼かれてゆき、何でもありの意趣格闘技状態のホットプレートと化していた。野菜の焼きバナナ焼いてたりしてたんだ。




「ごちそうさま。お兄ちゃん、片付け終えたらすぐ帰るわ」

「行きは化粧ばかりして遅刻した氷空がよくいうよ」

「楽しかったけど疲れたの。さっさと帰って寝たい」

「……泊まるか?」

「それは生理的に無理」


 勝利と氷空の会話である。


 片付けを終えると、風のように、あいつらは去っていた。ありゃただの風じゃねえ。台風だった。甚大な被害をもたらした、とりわけ暴れん坊のやつだ。


 他にもいくつか暴露されたことがある。思い出したくねえ。


「さようなら」

「ああ、また今度」

「……はい」


 心なしか距離があった。


 悔やむなら籠兄妹ではないのだ。過去の自分である。


 挽回のチャンスがあることを信じて強く生きるしかない。


 そんなとんとん拍子で進むもんでもないのだから。

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