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第11話 なんちゃって裁判と思惑②

 彼女たちの理論は論理的じゃない。でも、人間は論理だけじゃ動かないという。


「いっさいの交流を禁止するべきよ」

「ないの三原則! みないの、きかないの、いわないの」

「私はどうでもよい! 晴翔殿、頑張ってこの〝なんちゃって裁判〟をおさめるのだッ!」


 当初の目論見を達成できるかどうか。不安になってきた。


 氷空(ひそら)ちゃんと冴海(さえみ)ちゃんのゴリ押しによって、俺の気持ちは揺さぶられつつある。


 冴海ちゃんが牽制(けんせい)してくるので、こちらから強く出ることは不可能だ。それに引き換え、ふたりの勢いは増すばかり。


 俺はいま、圧倒的に不利な立場にいるというわけだ。唯一の救いとして、縁菜(えんな)が中立をとっていることにある。


 いまは二体一だが、縁菜を引き込んで二体二に持っていければ、勝機はある。


「冴海はともかく。そもそも、俺の人間関係を制限するって発想自体おかしくないか」

「こんなの冬が寒いのと同じくらい常識的なことじゃない?」

「冗談きついな」

「晴翔じゃなかったらこんなことやらないわよ。それに理不尽なことをした方が私としては面白いの」

「氷空の娯楽のために、みすみす優里亜さんを見逃せというのか?」

「あーもう、ユキナだかユリアンだかしらないけれど、その女の名前を口に出さないでちょうだい」


 さすがに限度ってものがあるだろうよ。俺だって人間なんだぜ。


「……縁菜、氷空に掣肘(せいちゅう)を加えてもいいかな?」

「いや、その必要はない。代わりに私がやろう。縁菜、覚悟はいいか。私はとっくにできている」

「晴翔、あの変態を止めなさい」

「やだね」

「な、なによ。子供じゃないんだから真面目に答えて」

「その提案は賛同しかねます。これでいいな」

「よくないわよ、だって……」


 いまや、縁菜は鎖から解放された肉食獣である。俺が掣肘(せいちゅう)という名目で、()()()()をしていいと、暗に認めたのだ。


「嗚呼、両手が疼く……我が聖なる体に宿りし衝動が、いまにも解き放たれんとし

 ている……三代欲求の、食欲と睡眠欲を除いた欲求ともいいかえられる……」


 縁菜は厨二病的ワードセンスから紡がれた言葉に、しみじみと酔いしれていた。天を仰ぎ、目はここではないどこかに焦点をあわせている。


「だめよ、封印されし欲求を解放しては駄目」

「もう諦めるがいい。こちらもそろそろ限界なのだよ」

「待って。縁菜、これは同性だからオッケーって問題ではないでしょう?」

「同性だから、ではない。氷空殿だからだ。氷空殿が晴翔殿におっしゃるようにな」

「くっ……あとで締めてやる……」

「私に勝った覚えはあるのか?」

「うーん、ないわね」

「じゃあ、もうよいな? いざ!」


 理性という(かせ)から、縁菜は解き放たれる。



「────らめええええええええええええ!!」

「やはり氷空殿の双丘は素晴らしい。いくら揉みしだいても、飽きがこない。むしろ、揉めば揉むほどクセになる……」

「やめて、くすぐったい。それに、変な感じがする。ンッ……。こんなんで気持ち良くなるなんて変態みたいで嫌ッ……」

「残念ながら氷空殿は変態であろう。類は友を呼ぶ、同類愛憐れむ、変態同士は惹かれあう……似た者同士で惹かれ合うのが世の常なのだよ」

「わかったから、揉むのをやめて! これ以上は駄目……ンッ!」


 圧巻の光景だった。


 これ以上は語らずともわかるだろう。いうまでもない、百合的シチュエーションは素晴らしいのだ。ここに俺はいるべきでないと思い、少し拝んでからそっと部屋を出た。


 あわよくば逃げようとしたところ、いつの間にか冴海ちゃんに進路を妨害されていたので駄目だった。


 ようやく戻ってきたタイミングで、「らめええええ」とかいってたんで驚いちまった。さすがにやりすぎたかな。


「もう、昔の私には戻れない気がするわ」


 ごっそり気力を奪われ、陰鬱になりつつある氷空には、いたたまれなくなった。俺のせいだと思うとより一層。


「氷空、俺と優里亜さんとの関係を認めるか」

「どうでもいいわよ、そんなの。勝手にしなさい」

「……これでよいか、晴翔殿。言質はとれましたぞ」


 縁菜は携帯電話の画面を俺に見せつける。録音アプリが立ち上げられていた。彼女は氷空ちゃんを揉みしごけてご満悦であるから、あっさり我が手に落ちていたのだ。


「ああ。縁菜、俺を最低野郎と呼んでもらってかまわない。こんなやり方を持ってしてまで、優里亜さんと接点を持ちたいと思った俺は、傲慢(ごうまん)な気がする」

「やり方はともかく、接点を持つくらいはよいと思うのだがな……私は関わりすぎに気をつけろ、と思っているだけだからよいもののな」


 ともかく、俺の主張は通ったに等しいだろう。


「冴海殿は────いうまでもなかったか」

「俺は接点があるのかないのかが重要だったからな」


 冴海のヤンデレっぷりからして、この場で完全に納得させることは不可能に近い。


 四人中三人が関係を容認した(若干一名なかば無理矢理)ので、俺の勝利と見なしていいはず。


 どのくらい優里亜さんと関われるかは、日頃のおこないと冴海ちゃんの裁量次第となるだろう。


「こうなれば冴海も断固拒否の立場から引かざるを得ないの。でも、完全に許したわけじゃないから気をつけるの」

「もちろんさ」


 茶番劇はこれにて終わった。首謀者である氷空は放心状態、結論も出たのでこれ以上〝なんちゃって裁判〟を続ける理由もなくなったのだ。


 まずは一時休戦といったところだ。よって、まだ気を緩めるわけにはいかない。


 ここから、女友達からの猛烈な妨害が予想される。


 それでも、俺はめげない。


 誓いを胸に、氷空家を後にした。

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