動き出す"ヒロイン"
私が、前世を思い出してから一週間がたった。なるべく両親に会わないように心がけながら、周りからの情報収集を行った。両親は、私がどこに出掛けようが、基本気にしないから近所の人とかとも顔見知りだから、この町はどこなのかとか、冒険者なんかはあるのかとかをきいてみた。そしたら、結構な情報が集まった。
まず、ここはガーネット男爵領の端にある、ある程度大きな町だそうだ。隣は公爵領。これを聞いて、とりあえずは公爵領を目指すことにした。また、冒険者ギルドもあるそうで、本登録は10歳からだが、見習いとしてなら8歳から出来るらしい。今まで、気にしていなかったけど、このまちにもギルドはある。でも、回りの大人に近付くなって言われちゃったから、公爵領に入ってから登録しようと思う。
ーーーガチャッ
「っ!!」
音に驚いてばっと扉の方を向くと、母が、帰ってきたみたい。
やっちゃったな…。最近、母は帰ってきてなかったから油断していた。
「ん…??あぁお前か。」
「お、お帰りなさい。お母さん」
両親は基本的に私の名前を呼ばない。あんたとか、お前とか、おいが基本だ。私が自分の名前を知ったのは、近所の人がそう呼んだから。だから、ほんとにこの名前なのかはわからないけど、この名前は気に入ってる。
「何度言ったらわかるんだ??私はあんたの母じゃない」
これは母の口癖。ただ、他の呼び方がわからないからこう呼ぶしかない。両親の名前を聞いたことがないから。
「ご、ごめん、なさい」
ちなみに、前世を思い出してからも両親に従順な振りを続けている。逃げ出すときに、その方が都合がいいから。前までは、怯えがあったけど、今では、演技力を磨くような感じで楽しくやってる。ただ、まだ条件反射的な感じで、びっくりしてしまう。
「あんたなんて-----」
ーーーコンコン
『リブちゃーん??』
母がなにか言いかけたときノックがなり、扉の外から知らない男の人の声が聞こえた。リブはたぶん母の偽名。毎回違う名前で呼ばれてるから。
「あっ、は~い。今いくねぇ」
無駄に媚を売ったような母の声に気持ち悪くなりなる。
「おい、家が汚い。掃除しろ」
「…はい」
そういって母は扉を開けて出ていった。
「ふぅ」
母が出ていって、一息つく。うん、一言でいって疲れる。けれど、少しずつ準備が整ってきている。蔑ろにされている割には、食費はしっかり貰っているので、食べる量を減らして、節約もして貯めた。もともとあまり食べる方ではないため、前々から結構な金額が貯まっていた。
そのお金はそのままとっといて、一週間でためたお金で必要品を買った。携帯食とか、ナイフとか、、一通りは揃えられた。でも、ナイフなんて使ったことないから、ちょっとずつ独学でおぼえていこう。
決行の日付は二日後。その日は、二人揃って出掛けるので家にはいない。決行するにはうってつけだと思う。
「…うぅ、、お前か」
っ!!今度は父か…。今日は厄日かも。父は部屋から唸りながら、這い出てくる。今日の朝帰ってきてから、部屋に籠りっきりだったから、今日はもう出てこないと思ってた。
「お、お父さん。おはよう、ございます??」
今は夜だけど、起きてきた人にはおはようで正しいかな?ふらついているから、支えるべきか迷いながら少し父に近付く。
「酒だ。酒を出せ」
「っ!は、はい…」
叩かれた。フラフラだから力は弱いけど、父はすぐに暴力を振るう。別に叩かれなくてもお酒は出すのに。表面上は怯えながら、心のなかでため息をつく。私結構、疲れが貯まってるのかも。
私が出したお酒をもって、また部屋に戻っていった。これはもういつも通り。疑問に思うこともない。
「今日はもう、疲れちゃった」
明後日のために、少し早いけどもう寝ようかな。
部屋に戻ってベッドに入る。結構しっかりしたベッドだなぁと、改めて思う。
丸くなって今後を思い浮かべる。幸せがあるようにと願いながら。