第9話 当たり前でしょ
「では、君が生き返る前にやってもらうことがある。リリィ、アレを持ってきてくれ」
「はーい」
死神の言葉でリリィが霧の方へ向かった。
「いったい何をすればいいんですか?」
リリィのほぼ丸裸のお尻から慌てて目線を外し、俺は死神に尋ねる。
「君には今から『ガチャ』を引いてもらう」
「はあ? ガ、『ガチャ』ですか?」
死神からの命令の割に、ずいぶんポップな言葉が出てきて驚いた。
『ガチャ』ってスマホゲームの、あの?
「そう、その『ガチャ』。でも、死神さまが『ガチャ』って言いたいだけだから気にしなくていいよ。実際は、この抽選箱を引くだけなんだから」
リリィが横から口を挟みながら、大きな箱を一箱、両手で抱えて帰ってきた。
「『抽選箱』などと古臭い言い方をしたくないのだ。本当はこんな箱ではなく、タブレットのルーレットで引かせたいぐらいなのに」
「その骸骨の姿でガジェット好きとか似合わないからやめてください。さ、翔悟くんに説明を」
「くっ……。さ、さて、富士翔悟。この中には、死神が持つ能力の刻まれた玉がいくつか入っている。この中から君に一つ引いてもらって、引いた能力を君に分け与える」
「え? 何ですか、それ」
「君が三途の川で見たり聞いたりしたことを、現世に戻ったあと、人に漏らさないと約束してもらうための交換条件だな。万全であるべき死のスケジュールに巻き込んでしまった、我々死神チームからのお詫びとでも思ってくれ。君にとって不利益になるような力は入っていないから安心していい」
「生き返らせてくれるだけでなく、そんなものまで貰えるんですか?」
俺は驚いた。
どちらかといえば、迷惑しかかけてないような気がしているからだ。
かといって、お詫びのしようもないけど。
「うむ。死神界の恥を晒すようだが、実はここ数年、イレギュラーな死が頻発していてね。そのために、こういうルールが正式に決まっているんだ。私たちのチームで、このルールが適用されるのは初めてだが」
死神の言葉にリリィが付け足す。
「さっきボクが言った『楽しんでこの仕事をしてる死神チーム』のヤツらが、そういうイレギュラーをよく起こすんだよ。あいつら、ボクたちと違って仕事が雑なんだ。一つの魂のために数人、数十人単位の死者が出かねない事故とか、平気で起こすんだから」
怖。
そんな大事故を起こしたんじゃあ、スケジュールに無関係な死者も出るだろうな。
「ところで貰える死神の力って俺の心を読んでる力とか、そういう力のことですか?」
「そうだ。人の心を読める『読心』は当然入っている。ほかには、望んだ場所へ瞬時に移動できる『転移』や、どれだけ重い物でも自在に浮かせる『浮遊』などがある」
「そりゃスゴい! 貰えるものなら貰っておきます!」
「よろしい。ではコレを引きたまえ」
死神の言葉に合わせて、さっきから抱えていた黒い箱をリリィが俺の前に差し出した。
箱の上部には、ちょうど片腕を突っ込める程度の穴が開いている。
「なんだか緊張するな……」
俺は緊張隠しにヘラヘラと笑いながら、恐る恐る右手を箱に突っ込んだ。
死神が言った通り、箱の中にはゴムボール程度の大きさの玉がいくつか入っているようだ。
「では、中の玉の一つを選びなさい」
死神に言われて、俺は玉を一つ箱から取り出す。
俺の手の中にある玉は、箱から出た瞬間、黄緑色に発光し始めた。
「ふむ、黄緑の玉は『操作』の力だな。おめでとう、SSRだ」
「『操作』……ですか?」
「『操作』は人心操作能力だ。とても強力な催眠術とでも思えばいい。条件さえ揃えば、思い通りに人の心を操ることができる」
「人の心を操るってなんか怖いですね……。条件はどんな条件ですか?」
「一つ。操作したい相手と目を合わせること。二つ。指を鳴らすでも、手を叩くでもいいから、自分の身体のどこかで鳴らした音を聴かせること。この二つだ」
『目を合わせて』、『身体で音を鳴らす』、か。
……これって、ぼっちの俺には結構ハードルが高いんじゃないか?
今日だって、まともに人と目を合わせてないのに。
「死神さまの力を人間が使おうとするんだから、多少、条件が厳しいのは仕方ないよ。ボクだって『操作』は使えないんだよ?」
「リリィも使えない能力なのか?」
「ボクが『操作』を使えたなら、今回だってキミを道路に飛び出さないように『操作』してからスケジュールを発動させているよ」
それもそうか。
俺は、こうして『操作』とかいう能力を手に入れた。