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第5話 気にすることはないわ

「黒髪美少女キターーーーーーーー!」



 多摩先生がテンションも高く大声で騒ぎだした。

 走って俺の後ろにやってきて、美幸の顔を覗き込む。



「ちょっ、なんなんですか、急に⁉」


「『|ぬぁんぬぁんどぇすくぁ《なんなんですか》?』じゃないわよ、このクソ童貞! ダレよ、このお人形さんみたいにカワイイ子はぁ!?」



 この人、酒豪と思ってたけど十分酔ってるな、こりゃ。

 あと美幸の前で俺のこと、童貞って呼ばないで。



「ここの大家の娘ですよ。枳高校うちの特進科の2年生です」


「特進2年1組の大井美幸です。えっと、たしか女子サッカー部の顧問の多摩先生と……あっちで泣きながらチヂミ食べてる人はひょっとして……」


「美味しぃいぃいい! このチヂミ、モッチモチで美味しいよ! 彼にも食べさせてあげたい!」


「物理の藁科先生」


「やっぱり⁉ な、なんだか学校と全然雰囲気が違うんだけど……」


「安心しろ。俺もビビってる」


「ちょっと、ちょっと、二人で何をイチャイチャ話してるの! 富士くん、アンタ、なに!? ウチのクラスの矢作さんを射止めておきながら、こんなカワイイ子を家に連れ込んで! 童貞のくせに二股かけてるの⁉ いやらしい!」


「しょうちゃん、矢作さんってダレ? 射止めたってなに?」


「いやいや。矢作はただのクラスメートで別に射止めてねぇ。あと美幸を連れ込んでるワケでもねぇ」


「たまには連れ込んでくれてもいいんだよ?」


「はあ? なに言ってんだ、お前」


「無限ブロッコリーは粉チーズかけても美味しいわねぇええぇ!」


「まあ、いいや。おかず、ありがとう。でもこのままじゃ、この地獄に巻き込まれるだけだから早く逃げろ。美智子さんが心配するぞ」


「お母さん、夜勤でさっき出勤したもん。お父さんも出張だし」


「え! 大井さん、今日はご両親いないの⁉ ちょっとアンタ、聞いた⁉ 脱童貞のチャンスよ!」


「先生たちの前で何させる気だよ⁉」


「気にすることないわ。私たちのことは路傍の石だと思いなさい」


「英語教師とは思えないワードチョイスだな」


「そういえばしょうちゃん、ウチのクラスの吉野さんとも知り合いなんだよね? 彼女とはどういう関係なの?」


「吉野さん? ああ、そういえば吉野さんは今年から美幸とクラスメートになってるのか。どういう関係って、まあ、普通の友達だよ」


「向こうはそうは思ってないみたいだけど? どうするつもり?」


「そうは思ってないって何の話だ?」


「なに、なに、なに⁉ ひょっとしてこの童貞、童貞の分際で三角関係どころか四角関係なの⁉ その吉野さんって子について先生にもっと詳しく!」


「叩き胡瓜もピリッとしていい箸休めになるわね! お酒が進むわ! 美郷、私も白ワイン呑みたい!」


「ちょっと待って! 今、面白いとこだから!」


「ふん、知らない! 私からは言いたくない!」


「富士くん、コレ、3品ともレシピ教えて! 彼に作ってあげたい! あと美郷! 早く白ワイン!」




「お 前 ら、 全 員、 落 ち 着 け‼‼‼」



◇ ◇ ◇



 堪忍袋の緒が切れた俺の一喝で、女性陣たちは一旦落ち着いてくれた。


 しかし、状況は女3対男1の図式のまま。

 いまだに圧倒的に俺の居場所はない。

 女三人寄ればかしましい。

 昔の人はよく言ったものだ。



「いや~、ホントにカワイイわね、大井さん。ウチの部の一年にも一人、すごく人気のカワイイ子がいるんだけど、その子に引けを取らないわ」


「あ、ありがとうございます」



 美幸もしれっと家に上がり込んだな。

 まあ、あのグチャグチャな呑み会に一人で取り残されること考えたら、いてくれるのは助かるけど。



「そこの童貞! アンタも、こんな可愛い子を振り回しちゃダメよ!」


 そんなことを考えていると、多摩先生が急に叫んだ。


「いや、別に振り回してるつもりはないですよ」


 どちらかというと最近の俺は色々なことに振りまわされすぎだと思う。


「これだよ、この男は。気づいちゃいねぇ」


「わかってくれますか、先生!」


「わかる、わかる。いつだっていい女は待ってるだけしかできないものよ。さ、呑みなさい」


「はい、いただきます!」


「ダメーーーー! それだけはダメーーーーーー!」


 俺は美幸が多摩先生から受け取った缶チューハイを素早く没収する。


「お酒は二十歳になってから。俺の家で法律違反はさせません」



 梨華のときのように、俺の知らないうちに呑まれるならまだしも、俺の目の前で法律違反はさせん。

 なぜなら俺は品行方正な特待生だからな。



「なによ、しょうちゃんのケチ!」


「そうよそうよ! ケチ臭い男とイカ臭い男はモテないわよ!」


「下ネタ、エグいな。教師のクセに」


「教師である前に一人の大人の女性です」


「大人の女性になるとこんなに下ネタを言うようになるのか。恐ろしい……」


 俺は缶ビールを冷蔵庫に戻す。


「いいわ、大井さん。人生の先輩である私に何でも聞きなさい。アナタ、悩んでいるんでしょう? あんな朴念仁を相手にして」


「先生! 聞いてくれますか!?」


 多摩先生と美幸がガッツリと話し始めた。



 いいか、美幸。

 その先生はいい教師だが、恋愛面では全くアテにならないと思うぞ。



「ねぇ、富士くん。早くこっちに来て教えてよ♡」


 一方、キッチンからはなまめかしい声で藁科先生が俺を誘う。

 なんだかエロい雰囲気だが、実際は簡単おつまみレシピを教えろという話である。

 やれやれ、色気がない。


「簡単レシピだから大したものではないですよ? あと藁科先生、酔ってて危ないから包丁使わないレシピにしましょう」


「はーい♡」



 まあ、いつもは物理を教わってる恩があるからな。

 こんなことでいいならお手伝いしましょう。



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