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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第3章 図書室、メガネ、そしてサッカー部
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第23話 吉野涼子の独白②

 私たちは雨がシトシトと降る中、足元に気をつけながらゆっくりと公園を歩いた。



「『氷菓』はどうだった?」


 歩き始めてしばらくしてから興津くんが尋ねる。


「うん、おもしろいわ。最初からすぐに夢中になっちゃった」


「いいね。俺もまた『氷菓』から読み直そうかな」


「興津くんも結構、本を読むの?」


「読むよ。気に入った本を何度も読むタイプだから、あまり量は読んでないけどね」


「へえ、そうなんだ」



 てっきり勉強ばかりしている人だと思っていた。



「――あ、ちょっとごめん」


 興津くんがジーパンのポケットからスマホを取りだして電話に出る。


「もしもし……ああ、今日の試合はどうだった?」


 相手は渡良瀬くんらしい。


 昨日のことに関して、私は梨華ちゃんにしか報告していない。

 本当はそのあと裕子ちゃんと渡良瀬くんにも昨日のお礼と顛末を報告するつもりだったけど、梨華ちゃんが気をつかって私の代わりに伝えてくれることになっている。



「そうか……残念だったな、お疲れ。でも新人戦は選手として出れそうなんだろ? そこで雪辱だな、頑張って」


 しばらく話していると、興津くんの声のトーンが変わった。


「――え? うん……うん。そうか。わかった。わざわざありがとう。じゃあ」


 最後、興津くんは顔をしかめて電話の話を聞いていたが、やがて電話を切ると私の顔を見た。



「……どうかしたの?」


 なんだか只ならぬ雰囲気だったので、思わず人の電話の内容について尋ねてしまった。



「うん。渡良瀬からの電話だったんだけどさ。まずはインハイの予選、負けたって報告」



 今日、渡良瀬くんが所属するバスケ部がインハイに出場できるかの試合だったと聞いていたけど負けちゃったのか。

 悔しかっただろうな。



「で、その試合中にサッカー部の友だちからLINEが入ってたらしくて」



 サッカー部。

 北上くんの部だ。

 渡良瀬くんはそこにいる同中だった友達から、北上くんの噂を仕入れてきてくれた。

 残念ながら噂は本当だったけど。



「北上のヤツ、昨日の夜に大怪我したんだって」


「ええ⁉ どういうこと?」


「本人も詳しく言わないらしいんだけど、今朝、ボコボコの顔で部活に来て、これからバイトして金稼がなきゃいけないから部をやめるって言ってたらしい」


「昨日の夜、何があったの?」


「さあ……。あのイケメンが見る影もなくボコボコになってたらしいよ」


 興津くんはスマホをジーパンにしまいながら、


「『操作』をかけた覚えもないし、あの口調じゃリリィが何かしたって感じじゃないけど……」


よくわからない事をブツブツ言っていた。



 やがて考えるのをやめたように顔を上げると、


「――で、吉野さん、どう? 北上クズに天罰が降りてスッキリした?」


興津くんが私の顔を見て尋ねてきた。


「えぇ……。別に天罰が降りてほしいとは思ってなかったけど……」


 私は少し考えて、



「でも、正直、ちょっとざまあみろって思っちゃった」



私の言葉に興津くんが弾かれたように笑った。



「そうだよな。非暴力主義もいいけど、本音はそうこなくっちゃ」


 興津くんの笑顔を見て、私も思わず笑ってしまった。



◇ ◇ ◇



「じゃあ、私はこっちだから」


 公園の出口で興津くんに告げる。

 本当はもう少し並んで歩いていてもよかったけど、これ以上、昨日に続いて今日まで彼の勉強の邪魔をする訳にはいかない。



 私が帰ろうとすると、


「吉野さん」


興津くんが私を呼びとめたので私は振り返る。



「俺も、ぼっちだよ」



 ……え?

 急に、なに?



「ああ、違うな。なんて言えばいいんだろ……」



 彼は頭をかいて悩んでいる。

 どうしたのかしら。



「……まあ、いいや。思ってること、そのままに言うね」


「はい」


 なんだか緊張する。


「まず吉野さんは眼鏡をかけている方が素敵だと思う」


「え……」


「眼鏡をかけていない吉野さんは目付きがちょっと怖く見えたからさ。最初は取っつきにくい人なのかなと思ったんだ」



 実は家族にもそれを言われていた。

 家で眼鏡をかけずに料理をしていると、物が見えにくくてずっと目を凝らしているから人相が悪く見えるよと言われたのだ。



「だから眼鏡をかけた吉野さんを見たとき、眼鏡の方が全然素敵だと思ったよ」


「眼鏡をかけた私?」



 興津くんの前で眼鏡をかけているのって、今日が初めてのはずだけど。



「しまった、あれはリリィのタブレットか……う、うん、そう! 今朝、図書館で会った時に、ね。そう思ったんだ」


「ありがとう……」


「それと、図書室は俺も一人になれるから好きだよ。梨華はマンガ喫茶やカラオケの方が楽しいっていうけどさ。あと、俺は今日みたく図書館へ誰かと出掛けるのもいいなって思う。帰りにこんな感じでちょっと散歩して帰るとか」


 興津くんは赤くなりながら必死に言葉を紡ぐ。



 私も、こういうデートは憧れていた。

 まさか北上くんではなく興津くんとするなんて昨日まで思っていなかったけど。



「そういう男もいるからさ」


「うん」



「だから今度は、心()()()()()()()()さ。北上みたいなヤツじゃなくて、もっとイイ男見つけなよ」



 え…………。



 興津くんの言葉に思考が停止したあと、思わず吹き出してしまった。


「ちょっ……なあに、それ? うまいこと言ったつもり?」



 笑いが止まらない。

 あんなに恥ずかしそうにしながら、こんなクサいセリフを考えていたの?



「吉野さんと違って国語のセンスがないんだよ……」


 憮然とした顔で興津くんが言う。


「それにしても励まし方がヘタ過ぎない?」


「それだけは吉野さんに言われたくない」



 それもそうか。

 励まし方がヘタなのは私も同じだった。



「ありがとう。おかげで元気出たわ」


 興津くんの気遣いのおかげで、私は笑顔が出るようになった。



「また学校で。期末試験、頑張ってね」


 私は興津くんに再び手を振る。


「こちらこそ本、ありがとう。ベストを尽くすよ」


 興津くんも手を振った。


 私は振り向いて静かな雨の中を歩く。

 きっと、私の姿が見えなくなるまで興津くんは私を見送ってくれている。

 その確信と見守ってもらっている安心感があった。

 それが温かかった。



 さあ、勉強頑張ろう。



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