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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第3章 図書室、メガネ、そしてサッカー部
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第16話 行ってきます

 デートへと出かける吉野さんを見送ったあと、梨華たちはしばらく俺の家で喋っていたが、


「じゃ、俺、そろそろ部活いくわ」


という渡良瀬の言葉を皮切りにお開きとなった。

 このあと梨華はモデルの仕事、長尾は家の美容院の手伝いに向かう。


「部活にお手伝いに仕事、三人とも頑張ってな」


 玄関先で俺が三人にそう言うと、渡良瀬が妙な顔をした。


「どうした?」


「……いや。ひと月前は富士からそんなことを言われるようになるなんて思ってもいなかったから」


 そういって渡良瀬が苦笑いをする。


「たしかにそうだな」


 俺も笑うしかない。

 言った俺だって思ってなかった。


「悪いことじゃないからイイでしょ?」


 梨華の感想は単純明快だ。

 長尾もうなずいている。


「じゃ、行ってきます、お母さん」


 そして梨華が笑いながら言った。


「それはやめろ」


 思わずツッコんだ。



◇ ◇ ◇



 さて、そのあとの俺はさぞ試験勉強がはかどったであろうと思われるかもしれないが――



「いらっしゃいませ! そちらのお席へどうぞ」


 なぜか『飛行艇』でアルバイトに勤しんでいた。




 本来、俺は試験前の土曜はバイトを入れない。

 だが梨華たちが家を出てから一時間ほどしたころ、マスターから電話があった。


「富士くん! 試験前というのはわかってるんだけど助けてくれないか⁉」


 電話先のマスターの悲痛な声に慌てて『飛行艇』に駆け付けると、マスターが一人でたくさんのお客を捌いているではないか。


「ど、どうしたんですか? 神田さんは?」


 家から持ってきたエプロンとバンダナを取り出しつつマスターに尋ねる。


 神田さんとは、俺と同時期にマスターの奥さんの出産里帰り中の臨時パートで採用されたシングルマザーだ。

 俺が学校でシフトに入れない平日のランチタイムや、今日のような試験前の土曜にパートに入っている。

 ちなみに『飛行艇』は土曜はランチのみ、日曜は定休だ。


「お子さんが熱を出したんで休ませてくれって今朝になって連絡があったんだ。明日は休みで仕込みがムダになっちゃうから一人で店を開けたけど、こんなに忙しくなると思ってなくて」


 ナポリタンの入ったフライパンをふるいながらマスターは言った。


「悪かったね。試験前なのに」


「大丈夫ですよ。明日もありますし」


 何度もあっては困るけど、マスターからこんなヘルプの電話が入るなんて初めてだったし、いつもお世話になってるからたまには恩返ししないといけない。


 そんなワケで俺は日中の試験勉強は諦め、ガッツリとバイトをしているのだ。



◇ ◇ ◇



 いま席に案内したお客様の肩口を目の端でチェックする。

 お客様の肩がだいぶ濡れていた。

 窓の外を見ると、忙しくて気付かなかったが雨が降り始めている。


「マスター、雨降ってきました。お客様、もう少し入ってくるかもしれません」


『飛行艇』は中央公園の近くにあるので、公園で遊んでいた親子連れがランチや休憩に利用することが多い。

 しかも、晴れてた後に雨が降ったりすると雨宿りがてら駆け込んでくるお客様が増えるのだ。


「富士くんがいてくれるから大丈夫。仕込みはしてあるしね」


「じゃ、せっかくの稼ぎどきだから頑張りましょう。今のうちにグラス拭いておきます」


 カウンターに入って、洗って水を切っていたグラスを拭いていく。

 案の定、そこからはお客様がまた増えて大忙しとなった。




 結局、来店の波が落ち着いたのは午後三時を回ったころだった。

 雨は相変わらず降り続いているから、これからの時間はそれほど忙しくなることはないだろう。


「いやー、本当に富士くんが来てくれて助かったよ。僕ひとりだったらとっくに臨時休業の看板を出してただろうね」


 お客のいない店内で、マスターが淹れたコーヒーを二人で飲みながら話す。


「今日のバイト代は色を付けておくからね」


「え? いや、正規のバイト代でいいですよ。ただでさえ相場より頂いているのに」


「大丈夫。富士くんもだいぶ手際がよくなってくれたから、お客の回転も速くなってきたし。それより試験前に悪かったね。今日はもう大丈夫だよ」



 土曜はランチ営業のみだから、あとは喫茶のお客が多少来るかどうかというところだろう。

 たしかにそろそろ俺はいなくてもマスターだけで回せそうな雰囲気だ。 



「そうですか。じゃ、上がらせてもらいますね」


 言いつつバンダナとエプロンを取ってトートバックにしまう。


「うん、お疲れ様。試験頑張って。ああ、よければ傘立ての傘を使っていいよ」


「ありがとうございます。助かります」


 マスターにお礼を言いながら俺は『飛行艇』を後にした。



 これから晩飯までの時間なら数Ⅰの勉強かな。

 晩飯の後は古文の勉強をして……。



 勉強のスケジュールを考えながら中央公園に入る。

 俺はここ最近、家までの近道である中央公園を横切ることなく、わざと遠回りして帰っている。

 梨華のことがあって、なんとなく中央公園を通るとトラブルに巻き込まれるようなイメージになってしまったのだ。


 しかし今日は雨も降っていたし、帰って早く試験勉強をしたいという気持ちの焦りもあったから久しぶりに公園の敷地内に入った。



 そして俺は何の気なしに公園の一番見晴らしのいい広場に目を向けた。



「……ウソだろ?」



 思わずつぶやいたあと、俺は慌てて広場の奥へ走った。


 広場の奥には中央公園の見どころの一つである、大きな花時計がある。

 その花時計の前は中央公園の中でも一番メジャーな待ち合わせスポットだ。

 そこに俺は()()()()()()()()を見つけてしまった。



「よ、吉野さん⁉」



 花時計の前には雨に濡れてビショビショになった吉野さんが立っていたのだ。




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