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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第3章 図書室、メガネ、そしてサッカー部
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第9話 まあね

 翌日の休憩時間。

 リリィが見せたタブレットに映っていた張本人に真偽のほどを確かめてみる。



「なあ。昨日の図書室にいた図書委員の吉野さんって知り合い?」


 俺の質問に、


「ん……まあね。家がすぐ近所で幼なじみなの」


俺の向かいに座った()()()()は少し歯切れ悪く答えた。



 そう。

 リリィのタブレットに吉野涼子の友人として表示されていたのは、俺の目の前にいる梨華だったのだ。



「え、マジで?」


 自分から聞いておきながら、俺は思わず言ってしまう。


 リリィの持つ死神のタブレットに誤情報などあるワケがないことはわかっている。

 だがそれでも、昨日の図書室での梨華の剣呑な雰囲気を思い出すと、俺は梨華の答えに少し違和感を感じざるをえなかった。



 すると、俺の疑うような表情に気付いたのか、梨華は俺が尋ねていないことまで話し始める。


「中学までは涼子ちゃんがリカに勉強を教えてくれたり、リカは涼子ちゃんに服を貸してあげたりもしたよ」


「へえ、そうなんだ」


「子供のころは、よくリカの手を引いて遊びに連れて行ってくれたの。パパとママが家にいないときは、涼子ちゃんの家にお泊りさせてもらったり」


 今は俺たちの周りに長尾や渡良瀬がいないので、梨華も両親のことを気楽にパパ・ママ呼びだ。


「まるでお姉さんみたいだな」


「うん。すごく優しかったよ」


 当時を思い出したのか、梨華が少し微笑む。

 かわいい。


「でも、ここ一年はほとんど話してないの。去年、涼子ちゃんが枳高校カラコー生になって会う機会がだいぶ減ったしね。リカもモデルにスカウトされてからは忙しくて、余計、疎遠になった感じ」



 向こうが学年は一個上になるワケだからな。

 高校生と中学生では接点も少なくなって疎遠になるのも仕方ないか。

 吉野さんと去年、疎遠にならなければ、梨華も両親がいないときに寂しい想いをしなくて済んだのかもな。



「……昨日の向こうのあの口調じゃ、涼子ちゃんはリカのことなんてもう忘れちゃったんじゃない?」


 梨華が下を見ながら言った。



 その言い草は昨日の図書室での強い言い方と同じだった。

 この言葉だけを聞くと、一見、梨華は吉野さんに対して怒っているように見える。



 だが俺は、梨華が下を見ながら物を言うのは、自分の中の寂しい気持ちを押し隠しているときの癖だということを知っている。

 先月のあの夜、仲違いしていた両親の話を俺にした時も、梨華は終始こんな態度だった。


 つまり梨華は怒っているのではない。

 自分のことを忘れたかのように冷たく注意した吉野さんに対して傷ついているのだ。

 だからそれに反発するように、こんな言い方をしているのだろう。

 簡単に言うと梨華は、自分のことを忘れてしまった吉野さんに対して拗ねているだけと俺は見ていた。



「梨華は吉野さんのこと気付いていたのか?」


 俺が尋ねる。


「当たり前じゃん。メガネはしてなかったけどリカはすぐにわかったよ。だから席から涼子ちゃんに手を振ったのに、向こうは全然無視するんだもん。何度か、こっちも見ていたのに」



 おいおい。

 一応、君も俺と一緒に勉強するって言って付いてきたはずなのに、人が勉強してる間にそんなことしてたのか。

 気付かなかったぞ。



 おっと、今はそれどころではない。

 昨日、シミュレーションした会話通りに進めばいいんだけど――。



「そうか。吉野さんは幼なじみの梨華を無視したのか。そりゃヒドいな」


 俺は腕を組んで眉をしかめると、何度もうなずいた。


「うん、そうだね……」


 梨華が俺に賛同するが、その声は小さくか細い。

 俺は言葉をつづけた。


「いくらしばらく疎遠にしてたからといったって、たかだか一年だろ? それなのに無視はないよなぁ」


「そうよね……」


 口ではそう言う梨華だが、何やら言いたげな表情になってきていた。


 もう一押しってところか?

 俺は横を向いて、梨華の複雑な表情に気付かない振りをしながら最後のセリフを言う。


「まあ、そんな冷たい人とは縁が切れてよかったじゃん。梨華もあまり気にするなよ」



 ここまで言ってみたが、さあ、どうだ?



 

「……涼子ちゃんは、そんなヒドい子じゃないよ」


梨華が俯いたまま口を開く。



 ――よし、きた。



「え、なにが?」


 梨華の言いたいことはわかっているものの、俺は次の言葉をを引き出すために聞き返した。


「涼子ちゃんって昔からすごく目が悪いから。きっとリカに気付かなかっただけだと思う」


 顔を上げた梨華の顔に、先ほどまでの拗ねた表情はない。

 すでに梨華は、すっかり吉野さんの味方側になっていた。


「昨日はメガネしてなかったから、高校に入ってコンタクトにしたのかと思ったけど……。昨日はメガネ外していただけだったんだよ」


「え~、そうかなぁ~? やっぱり無視しただけなんじゃない?」


 わざとらしくそう答える俺はもちろん、吉野さんが普段は眼鏡で、コンタクトにはしていないことを知っている。

 そして眼鏡のない吉野さんは、目の前にいても『操作』にかからないほど目が悪いことも知っている。

 図書委員が座る貸出カウンターから、俺たちの席にいた梨華に気付いていなかったのは間違いないだろう。



 しかし俺は、敢えて梨華を煽って挑発した。

 果たして――



「絶対、そうよ! リカのこと無視するなんて涼子ちゃんらしくないもん! 涼子ちゃんのこと、そんなにヒドく言わないで!」


「じゃあ、今日の放課後、図書室で聞いてきたらどうだ? 今週いっぱいは図書委員で毎日いるらしいぞ」


「わかった! 涼子ちゃんがリカのこと忘れるワケないもん!」


「ついでに眼鏡も掛けるように言った方がいいんじゃないか? 幼なじみの顔もわからないんじゃ困るだろ」


「それもそうね! メガネがなくてリカの顔もわからないようじゃ涼子ちゃんも困るだろうし!」


 梨華のその言葉に、俺は心の中でガッツポーズをした。



 こんなにシミュレーション通りに事が運んでいいのだろうか?

 これで梨華と吉野さんの交友が復活すれば、あの洋書の貸し出しが容易になるかもしれない。

 最悪、吉野さんが眼鏡をかけてくれれば、『操作』で洋書の持ち出しも可能になる。

 


「俺は今日、『飛行艇』のバイトで図書室いけないからよろしくな。明日、話は聞くよ」


「いいもん! 裕子と信士に来てもらって証人になってもらうから!」


 梨華は仁王立ちになって俺に言った。



 ……なんだかめっきり俺が敵役のような図式だが、結果良ければすべて良し。

 洋書は俺の手元に届くし、梨華は幼なじみと仲違いが解消できて一石二鳥。

 みんなハッピーではないか。



 ――と思っていたのだが。




◇ ◇ ◇




 翌日の朝。



 俺がクラスの入口扉を開けて教室に入った途端、


「あ! 翔悟、おはよう!」


と梨華が声をかけてきた。

 梨華たちの普段のたまり場は教室入り口近くの席だ。

 今朝はすでに長尾も渡良瀬も集合している。


「おはよう。昨日の吉野さんの話はどうだった?」


 内心の期待を顔に出さないよう、俺が尋ねると、


「うん、そのことで作戦会議中!」


梨華が元気に答えた。



 ……作戦会議?

 なんか、俺のシミュレーションにはなかった言葉が出てきたけど?



「翔悟も手伝ってね!」


「はあ?」



 俺が調子に乗るとやはりロクなことがない。

 どうやら、物事はシミュレーション通りにはいかないようだ。

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