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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第3章 図書室、メガネ、そしてサッカー部
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第8話 何でもない

「あぁ、イヤだイヤだ。非モテがちょっと美人に告白されたからって、学校の女はみんな俺のことを意識してるとか勘違いして。だから童貞こじらせたぼっちってヤツは……」



 リリィの怒りがなかなか収まらなくて俺ってばブルー。

 そんなに言わないでよ……。



 俺の落ち込んだ感情を読んだのか、リリィがようやく少し落ち着いてきた。


「……まあ、とにかく。気になる相手に髪型なり服装なり、いつもと変わった自分を見てもらいたいって気持ちは女の子だったら誰でもあるんじゃない? 吉野って子の相手が誰かはわかんないけど」



 そんなもんか。



「そりゃそうよ。好きな相手がいつもと違う自分に気付くかな、どう思うかなっていうのは気になるものよ。逆に男性側は、そこで女性の変化に気付かないようじゃダメだけど」


 リリィが頷きながら答える。



 じゃ、リリィのビキニが変わったことに気付けた俺は、少しは女性に気を配れるようになったってコトかな?



「ちょっ……ちょっと! 変化に気付いたのは褒めてあげるけど、別にボクはキミに気づいて欲しくてピンクのビキニに変えてきた訳じゃないからね! また調子に乗ってるんじゃないの⁉」


「ああ、それは大丈夫。リリィが俺に気がある訳ないのは分かってるからな!」



 さっきは自意識過剰で大恥かいたしな。

 もうあんな調子には乗らないぞ。



「……そんなに素直に聞くな!」


「ん? どうした、リリィ?」


「何でもない!!」


 リリィが不機嫌に返事する。



 さっき調子乗ったこと、まだ怒ってるのかな……。

 ホントに気をつけよう。



「――さて、問題を整理するか」


 俺は深呼吸をして気持ちを切り替える。



 そういえば、実体を持たない三途の川や今みたいな霊体状態でも、深呼吸で気持ちが落ち着くのは変わらないな。



「キミの深呼吸って肉体的なものと精神的なものの融合だからね。現世の人でそこまでの域に到達してるのって結構スゴいんだよ」


「へぇ、そうなんだ」


「ぼっちの間、そんなことばかり練習してたんだね」



 なんか、さっきから当たりが強くない?

 俺、泣くよ?



「えー、まず大前提として正攻法であの洋書を読むとなると、放課後を三日は使わないと足りない」


 バイトや土日を含めたら、読み終わるのは来週頭になってしまう。

 期末テストは来週の木曜日からスタートだ。

 あまりに英語の、しかも長文にだけかける時間が長すぎる。


「それを避けるためには、なんとしても俺はメガネをかけた吉野さんに『操作』をかけて図書室の洋書を借りなければならない」


 今週いっぱいは図書委員の当番に変更はないと吉野さん(本人)から聞いている。

 つまり、吉野さんから本を借りるしか俺に手はないのだ。


「うわ、面倒メンドくさっ。図書室の本なんて黙って持ってっちゃえばいいんじゃないの?」


 リリィがしかめっ面をしながら言った。


「いや、面倒くさいって。こう言っちゃなんだけど、リリィって死神の遣い魔のクセに結構、倫理観ないこと言うよな」


 以前から感じていたことをリリィにぶつける。


「あのね。何度も言うけど死神チーム(ボクたち)の仕事は魂の回収であって罪を裁くことではないの。それに、キミには免罪符が出てるから『操作』で行ったことはあの世で罪には問われないよ?」


「いや、あの世で罪に問われないのはいいけど」



 だからって現世で罪に問われちゃったら意味ないっての。



「俺がその本を借りようとしていたことはもう吉野さんに知られてるからな。もしその本がないって気付かれたら真っ先にオレが疑われちゃうよ」



 来年の授業料免除のためにも、今年は特に校則に抵触するような違法イリーガルなことはしたくない。

 ()()()()な生徒で一年間、通さなければ。



「品行方正な高校生は不倫中のOLのおっぱいなんて揉まないけどね」


「揉んでねぇよ」



 正確に言えば、揉めなくて手を添えただけだ。

 ……いまだに感触はハッキリと覚えてるけど。



「エッチ。そんなこと考えてるからムッツリって言われるのよ」


「面と向かって俺にムッツリって言ってるのリリィだけだからね⁉」


「面と向かって言ってくれるような友人を作ってからそういうセリフは言いなさいよ」


「すいませんでした」



 ムッツリです。

 認めます。



「それで? じゃあ、吉野さん(この子)がキチンとメガネを掛けてる日中に『操作』をかけるしかないんじゃないの?」


 リリィがタブレットに映し出された吉野さんのメガネ姿の写真を見ながら話を戻した。


「それなんだけどなぁ……」


「なによ。今度は何を気にしてるの?」


 悩む俺にリリィが尋ねる。



「じゃあ、リリィに聞くけどさ。たかだか一度、図書室で会っただけの女子の先輩を二年の教室から呼び出して、二人きりになれる場所まで誘導した挙句、目を合わせて手を叩く音を聞かせるとか、この俺に出来ると思う?」


「あー、それはムリだね」


「だよね」


 リリィの即答に対して腹も立たない。

 どう考えても俺にはハードルが高すぎるミッションとしか思えん。

 多摩先生の話ではないが、|マサチューセッツ工科大《MIT》を受ける方がよっぽど気が楽だ(受かる受からないではなく、受けるだけの話だけど)。

 俺の力でどうこうできる問題ではない。



「んー、まいったな。どうしよう」


 最悪、長文は諦めて英語のテストを受ければいい。

 本来ならそんなヒントはないままでテストを受けるんだし。


 だが、せっかく多摩先生は俺に期待して洋書のことを教えてくれた。

 俺はぼっちで他人と接点を持つことは苦手な人間だが、人から期待されたり何かを頼まれたりすれば人並にそれに応えたいと思う。

 だから、できれば洋書を使って万全に勉強したい。



「キミの力でムリだったら、人の力を借りれば?」


 悩む俺の後ろでリリィが言った。


「ん? どういうことだ?」


「いや、吉野さんって、この子が友達らしいよ」


 リリィが再びタブレットを見せてくる。


「え。そうなの?」


 そこには、俺の見知った女性の顔が写っていた。





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