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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第3章 図書室、メガネ、そしてサッカー部
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第4話 見てくれたね

「いい加減にしてください! 退室処分にしますよ!」


 再び図書委員の子の声が静かな図書室に響き渡った。



「す、すいません……」


 俺は、図書委員が座るカウンターの方へ向けて謝る。

 しかし先ほどと同様、返事はない。



 やべぇ、怒ってるなぁ……。

 退室処分は困るから、今度こそ静かにしないと。



 それにしても参った。

 我ながら梨華の挑発的な発言に振り回されすぎだ。

 こんなことでは今度の期末テストも思いやられるぞ。



 俺がそんなことを考えていると、


『偉そうに。退室処分てなによ』


梨華が言い出した。


 梨華が他人に対して強めの言葉を使うのは最近珍しい。

 俺は驚きつつも図書委員をフォローした。


『いやいや。図書委員なんだから、うるさい生徒がいたら注意するのは当たり前だよ。図書室では静かにしているものだ』



 図書委員でそういう注意ができない人もいるからな。

 逆にちゃんと注意してきてエラいよ、あの人。

 ぼっちが一人でいても不自然にならないためにも、図書室の静寂は守られなければいかん。



『でも私たち以外に図書室ここ、生徒なんていないじゃん』


『……ま、まあな』


 梨華の的確過ぎる指摘に、俺は苦虫をつぶしたような顔をしながら図書室を見渡す。


 梨華が言う通り、いま図書室には俺と梨華と図書委員の三人しかいない。

 この図書室はA校舎の中でも奥まった場所にあるから人が来にくいのだろうか。



『……それでも図書室や図書館では静かにしているのがマナーだ』


 あまりの人気ひとけのなさに、俺のフォローも空しく響く。



『なんで、こんなに人いないんだろ? 蔵書も多いし掃除も行き届いていて、いい図書室なんだけどな』


 特進科にいた昨年は、特進科があるB校舎から図書室があるA校舎へ移動するのが面倒で図書室は利用したことがなかった。

 だが今日、多摩先生に言われて初めて来てみて、こんなにいい図書室だったら早く来ておけばよかったと後悔したほどだ。

 これからはバイトがない日はガンガン使っていこう。

 教室の机は辞書や参考書広げて勉強するには狭いから、図書室の長机は勉強にもってこいだ。 


『だってネットカフェ(ネカフェ)の方がマンガも読めるしカラオケもできるし楽しいもん。みんなも図書室なんて使ったことないって言ってたよ』


 梨華はいまだに図書室に否定的だ。


 たしかに長尾や渡良瀬も図書室ここまでは梨華に付いてこないで、教室でまだお喋りしているはずである。


『ネカフェもいいけどさ、図書室や図書館はネカフェとは利用目的が違うだろ? 勉強したり、本読んだり、デートしたり』


『えー⁉ 図書館でデート⁉ ありえなくない?』


 梨華が速攻で否定する。

 まあ、梨華は図書館デートとかは興味ないんだろうな。

 あまり読書するタイプには見えないし。


『そんなことないだろ。図書館でデートもいいんじゃないか? したことないけど』



 俺は結構いいと思うけどな、図書館デート。

 図書館周りって大きな公園が近くにあることが多いし、本に飽きたら二人で散歩したり、歩きながら読んだ本の感想を言い合ったりできるし。



 梨華もしばらく図書館デートのイメージを頭でしていたようだが、そのうちに頭を振った。


『やっぱりないよ。だって図書館だと二人っきりになれないじゃん。ネカフェだったらカップルシートとかで仲良く隣でくっついてマンガとか読めるよ? 図書室ここだと翔悟、リカの顔もまともに見てくれないんだもん。楽しくないよー』


 いや、梨華の顔を見ないのは図書室だからじゃなく、真正面から梨華の顔を見てたら赤くなりそうだから本を読んで下を向いてるだけだ。

 コイツ、自分がどれだけ可愛いかわかって言ってるからタチ悪い。

 俺が正面から梨華の顔を見たらすぐ照れると思ってるからな。



 一瞬、梨華とネカフェで隣になった妄想をしかけて、俺は気を引き締める。


『とにかく、俺は今日は閉校時間の5時までは図書室ココにいるぞ。明日はバイトで来れないしな』


『もうっ! いいわよ。じゃあ今日は諦めて帰ろうかな。まだ裕子たちも教室にいるだろうから声かけにいこ』


『おう、図書室付き合ってくれてありがとう。気をつけて帰れよ』


 俺は本から視線を上げずに右手を振った。



 さっきの言葉でもわかったが、梨華も梨華で俺がムリにぼっちになろうとしていることを感じて、ムリヤリ付いてきているのだ。

 それに関しては感謝しないといけない。

 俺なんかのためにそこまでしてくれるのはホントにありがたいからな。



 俺の言葉を聞いた梨華は一言、


『翔悟って、たまにそういう優しい言い方するよね。だから好きだよ』


と言った。


 俺が梨華の言葉に驚いて視線を上げた瞬間、


『やっと顔を見てくれたね』


梨華は、本の上に置いていた俺の左手に自分の右手を重ね、顔を近づけてそう言った。

 それはほぼ、キスの距離だった。


『おっ、おまっ……! 何してんだよ⁉ 図書委員に見られたらどうするんだ』


『フフッ、大丈夫、大丈夫。じゃあね、翔悟』


 俺の慌てた声を背中で聞きながら、梨華は図書室を後にした。



 クソ……。

 完全にもてあそばれてるな、俺。

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