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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第24話 矢作梨華の独白②

「おはよう!」


 翌々日の月曜日。

 アタシは普段よりも30分ほど早く学校にたどり着き、普段はしない朝の挨拶なんかしながら教室に入った。



「え? 梨華、もう来たの? 今日はずいぶん早いのね」


 いつもクラスで一緒にいる友達の長尾ながお 裕子ゆうこが驚きの声を上げた。


「うん、ちょっとね」


 アタシは鞄を席に置くと、目当ての席を見る。



 ――あれ? いない。

 いつもは誰よりも早く教室に来てるって聞いてるのに。



「おい、梨華。そんなところでボーッと立って何してんだ?」


 アタシの後ろから少し遅れて登校してきた、これもいつも一緒に遊んでいる男子の渡良瀬わたらせ 信士しんじが声をかけてきた。


「ま、まさか……俺を待っててくれたのか?」


「えー? そんな訳ないじゃん! 朝から冗談ばっかり!」


「う……そ、そうか……」


 アタシは信士のいつもの冗談をスルーしながら彼をさがす。



 あ、来た!


 トイレにでも行ってたのかな?

 しかも、席に着いたらすぐに参考書を開いて読み始めたし。

 あれで「自分から壁を作ってるつもりはない」とか言ってるんだから信じられない。



「おはようございます! 富士さん」


 アタシは彼の前の、まだ登校していない生徒の席に座りながら挨拶をした。

 彼は、なぜか驚いた顔をしている。


「お、おはよう」


「金曜日はありがとうございました!」


 アタシは、改めてお礼を言った。


「別にいいよ……。朝からずいぶん元気だな」


 富士さんはアタシの顔色を少し伺って言ってから、ふたたび参考書に目を落とした。


「しっかり朝ごはん食べてきましたから! で、富士さんに聞きたいことがあるんです。アタシ、パ……両親に電話するとき、泣いてました?」


 アタシが尋ねると、彼はあからさまにビクッとした。

 しかし、参考書からは目を上げない。


「気付かなかったけどな……。何かあったのか?」


「あの翌朝、両親が二人とも家にいたんです。ウチの土曜の朝なんて、仕事場に泊ってまだ帰っていないか、もしくは朝イチから商談で会社に行っちゃってるかで、最低でもどちらかがいないもんなんですけど」



 富士さんの家から帰った翌朝、リビングに入るアタシを迎えてくれたのは焼き立てのトーストの香りだった。

 ママは久しぶりにアタシが大好きなチーズ入りオムレツまで作ってアタシが起きるのを待ってくれていた。


 土曜の朝に三人揃って朝食を食べたのなんて、今年に入って何度あっただろうか。

 アタシはとても幸せな気持ちで朝食を食べた。



「そのあと、二人に聞いたんです。今日は仕事はないのかって」


 富士さんは参考書から目を上げてくれないので、アタシの話を聞いてるのか聞いてないのかわからなかったがとりあえず話を続ける。


「そしたら金曜の夜、二人に迎えに来てもらう電話のとき、アタシが『家に一人でいるのが寂しいから外出していた』って泣いたと言うんです」



 パパからそう聞いて、アタシは本当に驚いた。

 いくら酔っぱらっていたとはいえ、そこまで正直にパパたちに言っているとは!



「梨華が何も言わないのをいいことに、パパもママも家庭をおろそかにして梨華に寂しい思いをさせていたことに気付けなかった。本当にすまない」


 パパはそう言ってママと二人でアタシに深々と頭を下げた。



「これからは出来るだけ家に帰るし、最低でもママかパパ、どちらかが家にいるようにするわ。梨華ちゃんに寂しい想いはさせないからね」


 ママもそう約束してくれた。



 その言葉通り、今朝もママが朝ごはんを用意してアタシを起こしてくれた。

 おかげで、家に一人の時はギリギリまで寝て朝ごはんも簡単に済ませるか食べずに遅刻寸前で登校していたのに、今日はいつもよりも早く学校に来れたのだ。


「そうか。それはよかったな」


 富士さんが言う。



 顔を下にしているのであまり表情は見えないけど、なんとなく嬉しそうなのは気のせいかしら?



「たしかに良かったんですけど、アタシ、本当にそんなこと言ってました? ぜんぜん覚えてないんです」


 富士さんに訊ねると、


「人の電話を横から聞き耳立てるのもよくないと思って、俺は席を外していたからちょっとわからない」


富士さんは間髪入れずにそう答えた。

 まるで何て聞かれるか分かってて、何て答えるか決めていたみたい。



 ……って、まあ、そんなワケないんだけど。

 富士さん、頭の回転も早いからな。



「おい、梨華。何を話してるんだ? 早くこっちで皆と話そうぜ」


 いつまで経ってもグループに合流しないアタシに、信士が再び声をかけてきた。


「……いいのか? 友達が呼んでるぞ」


 富士さんは参考書から目を離さずに言った。



 う~ん、まだ富士さんと話したいことがあるんだけど、外野が騒がしくなってきちゃったな。



「すいません、富士さん。まだ時間大丈夫ですか? よかったら教室を出てお話を……」


 アタシは富士さんを教室の外に誘ってみる。

 富士さんはそこでようやく顔を上げてくれた。



 来てくれるかな……?



 富士さんは少し考えたあと、教室の時計をみた。

 始業まで、あと15分はある。


「……いいよ。どこへいく?」



 ――やった!



「あ、じゃあ廊下の端の物理準備室前で」


 そこなら登校してくる生徒も用事がない限りは通らない。

 人の目を気にする富士さんでも、ゆっくり話ができるはずだ。


「じゃ、先に行ってるな」


 富士さんが参考書を閉じて教室を出る。

 アタシもその後を追おうとしたとき、信士がアタシの腕を取り、


「お、おい、梨華。なんであんな留年ダブり野郎と話してんだよ」


と声をかけてきた。


 

 富士さんに、アタシたちが壁を作って彼を遠ざけていると言われ、そんなことはないとアタシは言った。

 けど、今の信士の言葉を聞き、金曜日まではアタシもこんな言い方をしていたんだなと反省する。

 その場の雰囲気で、悪気もなく人を下に見て笑っていた自分が恥ずかしい。


「クラスメートに話しかけるのが何かおかしいの?」


 アタシは信士の腕を外して言う。


「え……。なんだよ、この間までは梨華だって初めて声聞いたとか言ってたじゃねぇか」


「そう。だからアタシは、もうそういうのやめたの。別に信士にも同じようにしてなんて言わないから安心して。じゃ、待たせてるから行くね」


 信士の呼び止める声がまだ聞こえたが、アタシはそれを無視して廊下に出たのだった。

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