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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第21話 してないもん

「――まあ、こうして俺の一回目の高校一年生は幕を閉じる訳だけど……」



 俺の長い昔話が終わったとき、矢作は下を向いて動かなかった。



「寝ちゃったか?」


 気付けば時刻はすでに23時を回っている。



 やべぇ。

 矢作がイイ感じで相槌を打ったりするから、調子に乗って喋りすぎた。

 聞き上手だな、矢作って。



 それにしても――

 自分は無口な方だと思っていたが、母さんと一緒だったときは学校で誰とも喋らない分、家ではよく喋っていたことを思い出した。

 母さんとの昔話をしていたら、あの頃の俺に戻ったかのように喋り過ぎてしまった。

 調子に乗ってしまって、なんだか恥ずかしい。 



「矢作、起きろ。もうこんな時間だから家まで送ってやる」


 俺は照れ隠しに、動かない矢作へぶっきらぼうに声をかける。



 すると俯いたままの矢作の口から、


「ううううううぅぅぅぅ……」


妙な音が聞こえてきた。



 ……なんだ?

 コイツ、うなされてるのか?

 変な夢でも見ているのだろうか。



「おい、矢作! 大丈夫か⁉」


 俺はなかなか起きない矢作に向けて、もう一度強く声をかける。

 ホントは肩でも掴んで揺さぶった方がいいのかもしれないが、さすがに同級生女子を本人の許可もなく触るのはちょっと気が引けた。



「ええええええぇぇぇぇぇ……」


 矢作の口からは一層、変な唸り声が聞こえる。



「お、おい、ホントに大丈夫か?」


 体調でも悪くしてしまったのかと思ったそのとき、矢作が急に顔を上げた。



「ぶぇえええええええぅええええええええええんんんん‼‼‼」


 顔を上げた矢作の顔は、涙と鼻水でグッチョグチョになっていた。

 人気モデルとは思えないほどのブサイクな泣き顔だった。



「な、なんだ⁉ 体調が悪いんじゃなくて、泣いてたのかよ! それより、おまえ、寝てたんじゃねぇのかよ!」


 俺が慌てて矢作に尋ねると、


「なっ……泣いてたんですぅぅうう……。ふっ……富士っ……さんが……可哀そうぅうぅうぅうぅぉでぇぇええ……」


しゃくりあげながら矢作は答える。


「は? しかも俺のことでそんなに泣いてるのか⁉」


「だぁってぇえええぇえ……富士さんの話を聞いてたら、が……がなじくなっぢゃってぇぇえぇえうぇええぇぇえんん」


 感極まったのか、矢作は天井を見上げながら本格的に泣き始めた。

 絵に描いたような見事なギャン泣きである。



 なぁに?

 この間のくるみといい、矢作といい、最近の女性は人目もはばからずに泣くのが流行ってるの?

 健太郎さんの手紙を読んだ時でさえ、俺はここまで泣かなかったぞ。



「や、矢作。落ち着いてくれ。俺もようやくあの事故を吹っ切れて元気になったし、今は復学して勉強頑張ろうって思ってる。だから、そんなに泣かなくていい。ありがとう、大丈夫だぞ」


 俺は矢作にティッシュを数枚渡しつつ、とりあえず慰めてみる。

 まあ、先日一度死ぬまでは、いつ死んでもいいとは思っていたんだけど、それは黙っておく。



「う゛う゛う゛う゛う゛……ぐぇ……元気ぐぇんきになれて……よかったでずねぇえええええ……富士さぁぁあああん……」


 しかし、矢作はティッシュを掴んで目に押し当てながら、再び泣き出してしまった。



 いや、可哀そうでなくても泣くんかい。



 しかし、まいったな……。

 さっきまでは、俺の一つ下とは思えないほど大人びた雰囲気が出まくっていたのに、どうしてこんな感情剥き出しになってるんだろう。



 どうしたらいいかわからなくてオロオロしていたとき、俺はカーペットの上にペタンと座った矢作の膝の辺りに転がっているものに気づいた。



「あ! 矢作! おまえ、酒飲んだな⁉」


 矢作の足元には、レモンチューハイの空き缶が一本、転がっているではないか。



 俺が調子に乗ってベラベラと、浸って喋っているときにこっそり飲んでたのか。

 矢作が酒を飲んでいることさえ気づかなかったとか、どれだけ話すのに夢中になっていたんだ、俺。

 でも、うちにはこんなもの置いてなかったはずなのに、どうして矢作は酒なんて……。



「ははあ。スーパーでシュークリームを買ったときに、一緒に買って来たのか」


 制服姿だった俺と一緒だとレジの年齢確認で引っかかると思って、俺の会計終了後にわざわざ戻って買い直してきたって訳か。

 矢作は私服姿だし、これほど大人びた外見だ。

 うまく年齢確認されずにレジを済ますことができたのだろう。

 


「お、怒っ……ない……でください……うぇえええん」


 矢作がしゃくりあげながら言う。



 今度は怒られて泣くんかい。



「やれやれ。……まあ、別にいいけどさ」



 矢作だって、酒の一本ぐらい飲みたいこともあるのだろう。

 少し酔っぱらってイヤなことを忘れるぐらいの権利、俺たち子どもにだってあったっていいさ。



「富士さん……やざじいですねぇぇぇえ」


 矢作が言いながら机をバンバン叩く。



 いや、待て。

 俺は「少し」と言ったんだぞ?

 こんなに酔っていいとは言ってないぞ?



「……かといって、酔っぱらいに何言ってもムダか」


 俺はため息をつく。



 とりあえずは送っていくしかないか。

 今晩は矢作の家にご両親がいないって言ったな。



 逆に助かった。

 こんな酔っぱらった矢作をご両親や学校関係者に見られたら、下手すると俺の奨学金が切られちまう。


「優しいって褒めてくれてありがとうな。さあ、矢作。ご両親も心配するし、そろそろ家に帰ろう。送っていくから」


 何度目かわからないセリフを言ったとき、


「心配なんか、してないもん‼」


急に矢作が声を上げたので俺はビックリした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ストーリーはとても面白いですが今のご時世未成年飲酒を描写するのはいろいろとリスク負いすぎかと感じました。 どうしても必要な描写ならOKです!
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