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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第20話 翔悟くん

 ――次に気付いたとき、俺は病院のベットで寝ていた。



 あのマンション火災からはすでに二日が経っていた。

 火の粉による火傷の処置のために俺の髪はすべて刈られ、右目を覆うように包帯が巻かれている。

 ベッドの枕元には美智子さん夫婦と美幸が立っていた。


「しょうちゃん! よかった、気がついて!」


 美幸が泣きながら叫ぶ。

 俺は茫然としつつも美智子さんに、


「……母さんは?」


と尋ねた。


 しかし、


「残念だけど、ゆきさんも健太郎さんも――」


涙を流しながら美智子さんが答えた。



 ふたりの遺体の確認は、美智子さんと旦那さんが済ませてくれていた。

 他部屋の火の不始末によるガス爆発が原因での火災らしく、あっという間にマンション全体へ燃え広がったという。

 母さんと健太郎さんは現場の中で救助活動をしていたそうで、二人に助けてもらったという人も実際にいた。


 俺の火傷は、素早く適切に処置してもらえたおかげで命に関わるような怪我にはならなかったが、ケロイド状の火傷の痕は一生残ると言われた。



 しかし、美智子さんの説明は俺の頭の奥でカラカラと転げるように響くだけで、俺はその意味をなかなか理解できずにいた。



「二人に助けられたって方がしょうちゃんに御礼を言いたいって来てるんだけど……どうする?」


 美智子さんが静かに尋ねる。


「え…………?」



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だって?



「すいません……。断ってください……」



 俺はこの日、16歳の誕生日を迎えていた。



◇ ◇ ◇



 数日後、入院中の俺のもとへ弁護士と名乗る人が現れた。



「富士 健太郎さんから遺言書を預かっています」



 そこには、健太郎さんと母さんに何かあったとき、健太郎さんの遺産を()()()俺に相続するという旨が書かれていた。

 弁護士は遺言書の説明をしながら言う。


「本来、遺産を血のつながらないお子さん、いわゆる連れ子に相続させる場合、養子縁組をしていることが必要です。ですが、健太郎さんとゆきさんの入籍時、翔悟さんはすでに15歳を超えていました。そうすると養子縁組には翔悟さん本人の了承が必要となります」


 弁護士の話を俺はボンヤリと聞いていた。

 美智子さんに付き添ってもらっていなければ、まったく理解していなかったに違いない。


「健太郎さんは翔悟さんの気持ちをおもんばかり、入籍後すぐの養子縁組をあえて避けられました。ですが、もし自分たちに何かあったとき翔悟さんが困らないようにと、この遺言書を作成し、私を遺言執行者に任命しました」


 俺は弁護士から渡された、遺言書と一緒に預かったという健太郎さんからの手紙を読んだ。



 ――この遺言書が無駄になることが一番いいのだけれど、人生、何が起こるかわからないので最善の方法として遺言書を残します。


 翔悟くん。

 僕と初めて会った日、複雑な表情をしていた君の顔を、僕は絶対に忘れません。

 僕も両親とは決して仲がいいとは言えない人生を歩んできたから、ゆきさんを失ったと感じた君の気持ちがよくわかりました。

 僕からの慰めの言葉など、翔悟くんには煩わしく感じるだろうから、こういう形でしか君の寂しさを埋めてあげられない僕を許してください。

 

 翔悟くん。

 君は僕の誇りです。

 誰が何と言おうと、法律上どうだろうと、君は僕の息子です。

 せめて将来の心配はないよう、僕の息子のために僕が出来ることをさせてほしい。

 どうか、幸せになってください――

 



 俺は手紙を読みながら泣いた。


「ごめんなさい、健太郎さん……」


 あれほど自ら遠ざけた人が、これほど俺のことを大事にしてくれていたのかと知って絶望した。


 いくら健太郎さんに謝りたくても、二度と謝ることが出来ないのだ。

 親不孝の自分を呪った。



◇ ◇ ◇



 退院後も、俺はしばらく家から出ることが出来なかった。


 右の額に大きく残った火傷の跡を隠すほどに髪が伸びても、なかなか学校へ行くことができずにいた。



 三学期も数日が過ぎたころ、特進科の担任が家庭訪問に来た。



「興津。このような話をするのも気が引けるんだが、出席日数不足でお前の留年が決まった。また、クラスも普通科に異動になる。一年も勉学にブランクが空いたあと、特進科一年の授業についてくるのは大変だからな」


 留年と普通科への転科に関しては覚悟していた。

 退学処置にならなかっただけありがたい結果だった。


「そのかわり、学園長の温情もあって学費免除は一年延長できた。来年一年も学費は払わなくていいから学校には来い。そして、できれば再び特進科へ戻ってこい」


 担任は俺の肩に手を乗せて力強く言った。


「ありがとうございます。――あの、一つ、お願いしたいことがあるんですが」


「なんだ?」


「普通科一年になったときから、名前を変えさせてもらえますか」



 俺は少し間を空けて言う。



「これからは、父さんの名字の富士 翔悟を名乗りたいんです」


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