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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第18話 本気なの?

「ところで、翔悟。あなた、一人でアパートに残るって本気なの?」


 母さんが、飲んでいたコーヒーのカップを置いて俺に問いかける。



 俺は母さんと健太郎さんの新婚生活に合流せず、今のアパートから枳高校カラコーへ通うことにしていた。

 母さんと健太郎さんは、健太郎さんが住んでいる分譲マンションに母さんが同居する形で新婚生活を始める。



「母さんだって、結婚して最初ぐらいは子供のいない新婚気分を味わいたいだろ? アパート代や生活費はかかっちゃうけど、俺はアパートで一人暮らしさせてもらうよ」


 俺が答えると、健太郎さんは顔をしかめる。


「翔悟くん。何度も言っているが、いくらなんでも気を使いすぎだよ。僕は最初から三人で生活するつもりでいたのに」



 ――その「三人での生活」を避けたいんだっての。



「健太郎さんの今の部屋マンションでは、三人で住むには少し狭いでしょ?」


「それを気にしていたのかい? もちろん翔悟くんが一緒に住むなら引っ越すつもりだったよ! それに高校生で一人暮らしは大変だろう?」


 健太郎さんが質問してくる。


「いえ。健太郎さんのマンションよりもここの方が学校も近いから通学も楽ですし。それに家事は僕の方が母さんよりも得意ですから」


「家事に関しては、たしかにそうだと思うけど……」


 俺の言葉にのんきに同意してしまう健太郎さん。


「ちょっと、健太郎さん!?」


「ハハハ。じょ、冗談です」


 案の定、すぐに母さんに怒られて訂正した。



「でも、僕は一緒に住むのは大歓迎なんだからね。本当に気にしないで」


「……はい、ありがとうございます」



 気にしないで、と言われれば気にする。

 俺は、そういうタイプの人間だ。



◇ ◇ ◇



「――反対でしたか? お母さんの再婚」


 あの日の母さんと同じように、空になったコーヒーカップを置いた矢作が静かに尋ねる。



 矢作に言われて、俺は当時の自分の気持ちを紐解くように思い直し、そして首を横に振った。


「いや、再婚は全然かまわなかった。母さんには苦労かけた分、幸せになってほしかったから」


「その割には、ちょっと態度が子供じみていたようですけど」



 手厳しいな。



「そう……だな。俺もそんな態度をとってしまう自分がイヤだったよ。もちろん一人暮らしには憧れていたし学校が近いのも本当だったけど、あそこまで頑なに健太郎さんを拒否するべきじゃなかった」



 しかも、健太郎さんは()()()イイ人だったのだ。


 あの人は表面上だけでなく、本心で俺に寄り添おうとしてくれていた。

 それを拒絶したのは、母さんの幸せを祈る気持ちと矛盾する、俺の中のガキっぽい嫉妬に他ならなかった。



「寂しかったですか、やっぱり」


 矢作の言葉が、さっきと違い急に優しく響いた。

 言い当てられた俺は、恥ずかしくて矢作の顔を見られないまま静かに頷く。


「母さんのことも美幸のことも、本当はすごく寂しかった。無条件で俺のそばにいてくれると思っていた二人が、同時期に離れていったからショックだった」


 俺は少し言葉を止め、一呼吸おいたあとに呟く。


「でも……」



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 再び矢作が俺の言葉を言い当てる。

 驚いた俺は矢作の方を見た。



「わかるのか?」


 俺の肯定の意味を込めた問いに、今度は矢作の方が俺から視線を外して、下を見ながら頷いた。


「親とか周りの大人ってそうですよね。大人っぽいとか物分かりがイイとか、ほめ言葉として使いますけど」


 矢作が言葉を続ける。


「でも、アタシたちが背伸びをしてでも大人にならなければいけなかった事情には、誰も何一つ気付いてくれないんですよね。寂しいって悲鳴を押し殺すことに慣れている子供なんているはずがないのに」


 矢作は、コーヒーカップの縁を指でなぞりながら言った。



 そう、矢作の言う通りだった。



 美智子さんに、母さんへ健太郎さんを紹介したことを怒りたかった。

 それを黙っていられたことにもっと抗議したかった。

 でも、言わなかった。


 美幸と中二で同じクラスになれたことを、俺は恐らく美幸よりも喜んでいた。

 本当は、もっと一緒に美幸と帰りたかった。

 だが、美幸のためと割り切って距離を開けた。


 母さんの再婚だって本当に嬉しかったが、俺に嘘をついて健太郎さんと会っていた事実をどうしても自分の中でうまく消化できずにいた。

 でも、そんな子供じみた気持ちを母さんにぶつける訳にはいかなかった。



 すべて、()()()()()()()()()()()

 俺は、()()()()()()()()()()()()



 笑顔で物わかりのいい息子を演じるのが、俺の役割だと思った。

 ひたすら、その演技を続けるしかなかった。



 そうしていれば、すべてがうまく回るというのなら――



 誰が、それを拒否できたというのだろう。




 そして俺は、()()()を迎える。





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