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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第15話 初恋だと思いますけど

「あと4、5か月でクラス替えだし、私がガマンすればいいの。だから、いいの……」


 自分に言い聞かせるように美幸が呟いた。



 だが言葉とは裏腹に、美幸の目には涙がにじんで見えた。

 初めて自分の気持ちを俺という他人に話して、美幸の中で張り詰めていたものが切れたのかもしれない。


 涙がたまった美幸の瞳には真っ赤な夕日が映っていた。


 ふと、美幸の方からとてもいい香りがした。

 母さんに以前教えてもらった、金木犀きんもくせいの香りだった。

 金木犀の香りをまとった秋風に、美幸の黒髪が優しくなびいた。

 どこかの家で、俺たちと同い年ぐらいの子供の笑い声が聞こえた。



 ――あんなに楽しそうに笑っている子もいるっていうのに。



 俺は思う。


 それなのに一方で美幸は、こんな道端で自分の気持ちを押し殺し声も上げずに泣いている。


 子ども心に俺は、それがとても理不尽で不公平なことのように思えた。



「美幸ちゃん」


 俺は無意識のうちに美幸の手を取っていた。


 指が細く、そしてとても冷たい手だった。


 美幸が俺に握られた手を他人事のように見たあと、涙で潤んだ瞳を俺に向ける。


 目が合った。


 息が止まるほど、美幸は美しかった。




「これからは僕が一緒にいるよ」


 俺は美幸の目を見つめたまま、無意識のうちに言った。




「翔悟くん……」


 美幸も俺から目を逸らすことはなかった。



「心配しなくていいよ、とか言えなくてごめんね」


 転校してきたばかりの俺に、クラスでの発言権などない。

 俺が美幸のためにできることなど何もない。



 ただ美幸がこの悲しみを抱えたまま一人で我慢しつづけるというのなら、俺はせめて、その美幸の悲しみを隣で共感してあげなくてはと思った。

 誰かがそうしてあげなければ、美幸が壊れてしまうと感じた。



「ありがとう、翔悟くん……」


 美幸は相変わらず涙を流していたが、俺の手を握る美幸の手がほんのりと温かくなったのを感じた。

 受け入れてもらえたと思った。





 この日から俺と美幸は、どれほど周りにからかわれようと二人で一緒に行動した。


 学校では、教室の授業はもちろん体育の授業も隣同士でいた。

 二人の距離が離れるのは、お互いのトイレのときぐらいのものだった。

 学校が終われば美幸の家か俺の家に集まり、親が帰ってくるまで二人で時間を過ごした。



「美幸。分数の足し算、教えてもらっていい?」


「しょうちゃん、分数、苦手なの?」



 この頃には初めに比べ、美幸も俺にはだいぶ緊張せずに話してくれるようになった。

 あと、美智子さんが俺たちのことを「美幸」「しょうちゃん」と呼ぶのにあわせて、俺たちもお互いを美智子さんと同じ呼び方で呼ぶようになっていた。

 もちろん学校以外で、の話だけど。


「ちょうど引っ越しのこととか決まりかけたころだったから、前の学校でちゃんと授業を聞けなかったんだよね。美幸、得意でしょ?」


「うん、私でわかるところだったら教えてあげる。みせて」


 家にいる間、俺たちは学校の宿題や予習・復習、それが終わったら読書をしていた。

 美幸はクラスで一番成績がよかったので、勉強が苦手だった俺はよく勉強を教えてもらった。

 いま俺が勉強を得意にしているのは、間違いなくこの頃の勉強漬けの日々のおかげだと思う。

 


 クラスの男子生徒たちは、抵抗しない俺たちを一層ムキになってバカにしてくるようになった。

 担任の目を盗み、それこそ朝から晩まで俺たちはいじられ続けていた。



 だが、俺たちは決して抵抗しなかった。

 美幸が無抵抗を選んだのだから、俺はそれに従うまでだった。

 大人びて見られることが多かった俺も、当時はまだ小三だ。

 できることなど、本当に何もなかった。



 俺たちはクラスでのイジメについて、あの日から一度も話していない。

 もしその話題になれば、お互い「辛い」と泣き出しそうで怖かったからだ。


 俺たちは厳しい寒さに耐えるかのように二人で身を寄せ合い、この時間が過ぎるのをただひたすら待った。

 もともと友達をつくることが苦手だった俺は、めっきりぼっち体質になった。



 ともすれば折れそうだった当時の俺を支えてくれたのは美幸と、そして母さんだけだった。



◇ ◇ ◇



「今日の昼休みに富士さんを呼び出した女子って……」


 矢作が口を挟んだ。


「ああ、矢作が呼んでくれたんだったな。そう、あれが美幸。特進科で『カラコーの至宝』とか呼ばれているらしいけど」


 思い出して、再び笑ってしまう。


「ひょっとして美幸さんが富士さんの初恋ですか?」


 上目遣いで笑いながら、矢作が聞いてくる。

 いきなりの踏み込んだ質問と矢作の仕草の可愛さに、俺は思わず笑いを引っ込めてしまった。



 ……さすが人気モデル。

 可愛い過ぎるんだよ、チクショー。



「一時はそうも思ってたけど……」


 俺はさり気なく矢作から目を離しつつ答えた。


「けど?」


「初恋にしては、スタートがいびつ過ぎたと思うんだよな。好きだって気持ちより、あれはただの同情だったのかもしれないって」



 初恋って、もっと切ない気持ちになったりとか、そういうものなんじゃないか?


 あの頃の俺たちは身体を寄せ合い、ただひたすら耐えていただけだった。

 ともすれば最悪の選択をしかねない状況で、必死に生き残ろうとお互いにしがみつきあっていただけだった。


 もしそこに何かの想いが生まれていたというなら、それはただの錯覚でしかない。

 そう思って俺は美幸と距離を取ってきた。



「でも美幸さんの方は好きなんじゃないかな~」


 矢作がしつこく追及してくる。


「それも一時期、ちょっとは期待したよ。恥ずかしいけど」


 俺は正直に認める。


 しかし――


「美幸は美幸で、俺への感謝の気持ちと愛情を思い違いしてたんじゃないかな。異性として俺を好きってよりも、アイツの場合は身内や親戚に対する親愛と同じだと思う」



 お互い、一人っ子同士で兄弟もいないしな。

 俺たちの間に、それ以上の関係はない。

 そうでなくてはならない。



「えー。絶対、初恋だと思いますけど」


 矢作が抗議してくるが、


「もういいだろ。話の続きだ」


俺は切り上げて再び昔話に戻った。

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