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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第11話 会ってたかもしれませんね

 キッチンに立った俺は、まず料理の工程を頭に浮かべる。


 母さんがいたころから俺の料理は、手が込んだものよりもできるだけ素早く作ることを目標としている。

 そのためには狭い台所をフルに活用したマルチタスクを、料理開始の前にしっかり計画するのが重要なのだ。


 切るものは初めにすべて切っておく。

 火の通りにくいものから火を通す。

 二つのコンロで何を同時進行しながら使うか考える。


「さて……と。はじめるか」


 俺は美智子さんからもらった総菜をレンジで温めている間、小鍋に水をはり、そこへもやしと乾燥わかめを放り込み、鶏がらスープの素を入れてコンロで温める。

 ベーコン、玉ねぎ、トマトを切り、トマトだけを避けてから、冷凍していた自家製きのこミックスと一緒にフライパンに入れ、もう片方のコンロを使いバターで炒める。

 この辺りでもやしとわかめのスープが出来上がるので、ゴマ油を少したらし、火を止めていったん置いておく。

 フライパンの具材に火が通ったら、そこへ水、めんつゆ、みりんを加える。

 沸騰するまでに盛り付け用の皿を出しておき、まな板と包丁の出番はもうないので洗っておく。

 フライパンの水が沸騰したところへ二つ折りした二人分のパスタを放り込んで蓋をして、規定の茹で時間でタイマースタート。

 その間に洗ったレタスを手でちぎり、オイルを切ったツナと先ほど避けてあったトマトと一緒に、塩と粗びき黒コショウとオリーブオイルをかけてサラダにした。

 タイマーが鳴るまでまだ時間があるので、この間に追加の洗い物を済ませておく。

 スープを温め直し、カップにわけて冷凍の小ねぎを散らす。

 タイマーが鳴ったらフライパンの蓋を取り、かき混ぜながら残った水分を飛ばす。

 そして出来上がったパスタと、温め終わった総菜を皿に盛った。


「はい、お待たせ」


 今日のメニューはキノコとベーコンの和風パスタにツナサラダ、もやしとわかめの中華スープ、それに美智子さん特製デミグラスソースハンバーグだ。


「もうできたんですか? 手際よすぎません?」


「ランチレベルの簡単なパスタとサラダだからな。ハンバーグは貰い物だし」


 矢作の言葉に応えつつ、ナイフとフォークとスプーンを矢作に渡す。

 時間も遅いので、手の込んだ料理よりもスピードを重視した簡易メニューだ。



 いただきます、と言って矢作が恐る恐るパスタを口に運ぶ。


「美味しい!」


 口許を抑えながら、矢作が驚きの声を上げた。


「よかった。味が足りなければサラダにはレモン汁を、スープは黒コショウをかけてくれ。あと、ハンバーグもウマいぞ。そっちは俺が作ったんじゃないけど」


「はい、いただきます!」


 ナイフで小さく切ったハンバーグを口に入れた矢作が、目を閉じて可愛く悶える。


「えー! 何、これ⁉ お店で食べるハンバーグより美味しい!」


「だろ? 美智子(大家)さんの料理は絶品だからな」


 俺はまるで自分が褒められたように胸を張った。



 21時をとっくに回って二人ともお腹が空いていたこともあり、俺たちはその後、大した会話もなく食事を続ける。


 それでも俺の家に向かうときの無言の時間のような気まずさがないのは、美味しい食事があったおかげだろうか。

 それとも、矢作も俺もお互いの壁のようなものを少し低く出来たのだろうか。


 俺は、人に自分の料理を食べてもらうどころか、自分の分以外の皿を出したのも久しぶりだな、などと思いながらパスタを啜った。



「あ、そうだ。アタシ、デザートにシュークリーム買ったんです。このあとで一緒に食べません?」


 口の中のパスタを飲みこんだあと、矢作が俺に言った。


「シュークリーム?」


 そういえば俺がスーパーで買い物を済ませたあと、


「ごめんなさい! 個人的な買い物を忘れたので待っててください」


急に矢作が言い出し、俺を外に待たせたまま一人でスーパーに戻り買い足してきたものがあった。

 どうやらその時に買ってあったらしい。


 食事が済んだら早く家に帰すつもりだったが、俺の中での矢作に対する印象もだいぶ変わっていたのでデザートぐらいはいいかと思い、


「じゃ、コーヒーでも煎れるよ」


俺は答えた。



◇ ◇ ◇



「公園の向こうに、ごはんの美味しい喫茶店があるんです。今日はもともと、そこに行くつもりで」


 矢作がシュークリームを小さな口に入れながら言う。

 俺はそれを見ながら、人気モデルをやってる割には結構しっかり食べるんだなと感心した。

 それでこのスタイルは驚きだ。


「――ん? それって『飛行艇』のことか?」


 違うことを考えていたため、矢作の話に少し遅れて反応した俺がバイト先の名を挙げると、


「そうです! マスターと奥さんの二人でやってるお店で! 富士さんも知ってるんですか?」


矢作が声を上げた。


「知ってるもなにも俺、先月から『飛行艇』でバイトしてるんだ」


「ホントですか!?」


「マスターの奥さんが里帰り出産している半年ほどの間、夕方に接客と仕込み作業の簡単な手伝いだけどね」


「小学生のころ、マ……母の仕事が忙しくなってきて食事の準備ができなかったような日に、両親と三人でよく行ってたお店なんです。ここ数年行ってなかったから、久しぶりに行こうと思って」


「そうなんだ。俺も昔、母さんと『飛行艇』にはよく行ったよ」


「わー、ホントにビックリ! じゃあ今日、アタシが公園でおもちちゃんと遊んでなければ『飛行艇』で会ってたかもしれませんね」


「そうかもな」


 矢作の無邪気な言葉に俺は相槌を打ったが、実際にそうなっていたら、今みたいに矢作と親しく話す機会は絶対訪れていなかっただろうなとも思った。


 もしそうなっていたら、『飛行艇』店内でお互いに気まずい時間を過ごしたあと、矢作は再び『飛行艇』から足が遠のき、俺は


「やっぱり矢作みたいな陽キャとは合わない」


と毒づき、またクラスで会話もしない関係に戻るだけだっただろう。



 やはり、猫が繋いだ縁は尊い。


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