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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第10話 別に大丈夫ですよ

「で、なんで富士さんは一人暮らししているんですか?」


 矢作が再び尋ねる。

 ああ、その話か。

 忘れてた。


「親父は俺が小三のとき外に女を作って出て行った。一緒に住んでいた母さんは去年死んだ。だから、今は一人暮らしなんだ」


 俺は矢作にざっくりと説明する。

 あまり重く受け止められないようわざと軽く言ってみたのだが、矢作には十分ヘビーな内容だったらしく、


「え……、なんかすいません……。変なこと聞いちゃって……」


なんだか謝られてしまった。

 矢作はだいぶ気にしているようだ。



「いや、別に。だから隠してる訳でもないし、気にしなくていいって」



 ま、どんな言い方をしてもこういう反応が返ってくるのが分かっているから、自分から言わないんだけど。



 案の定、矢作はなかなか元気が出なかったが、やがて重い口を開き――


「ご、ごシューショー……? さま、です……」


恐る恐る、いかにも言い慣れていないといった言い方でお悔やみの言葉を呟いた。



「……プッ! な、なんだって?」


 俺は彼女のあまりの自信なさげな言い方に、思わず吹き出してしまう。



「いや、だから! その、ご……ご愁傷さま? でいいんですよね、こういうとき!? よくわかんないんですけど!」


 矢作が真っ赤になって俺に言い訳をする。


「ああ、間違いないけどさ――ククッ。どんだけ言い慣れてないんだよ」



 あの日から。

 それこそ、聞き飽きるほど聞いた「ご愁傷様(ことば)」だった。


「ご愁傷様でした」


「大変だったね、ご愁傷様」 


 その中に、矢作ほどたどたどしい言い方の人はいなかった。

 でも、それがイヤという訳ではなく、


「ああ、本心で言ってくれてるんだな」


ということが逆にとても伝わってきて、俺の心臓はキュッと縮まった。



「もう! あんまり笑わないでください!」


 矢作が小さな頬を膨らませて言った。


「……そうだな。たしかに悪かった」


 俺は笑いを堪えながら頭を下げる。


 クラスでのパリピっぽい雰囲気で一方的に判断していたけど、猫のことにしろ、今の言葉にしろ、矢作のことを意外と悪いヤツじゃないかもしれないと俺は思い始めていた。




 さて、矢作を背にして家の鍵を開ける段になって俺はある重大なことに気づく。



「あ、しまった! 矢作、男の一人暮らしの部屋に一人で上がるのはイヤだったか? それなら、今から人を呼ぶけど」



 考えてみると俺の家に同級生、しかも女子の同級生が一人で来るなんて、一人暮らしになってから美幸をのぞいて初めてのことではないか。

 その美幸とも、母さんが生きてる頃は二人きりになることもあったが、母さんが死んでからはこの家で二人で会うことはほぼなくなっていた。

 留年してからは一度もない。


 先月のくるみとの件で女性と部屋で二人きりの状況に慣れてしまったのか、気楽に矢作を家まで連れてきてしまった。



 ――なんてことだ。

 こんなのぼっちらしくない。


 ドレッドとタトゥーの二人組から守るためだったし、もちろん矢作に何かするつもりなんてないが、矢作が不安になるのは当然だ。

 いざとなれば美幸にでも同伴してもらうか。



 俺はそこまで考えた。

 しかし――



「別に大丈夫ですよ」


 矢作はケロッとしている。


「だってアタシとどうこうするのが目当てなら、助けてくれたタイミングで言ってくるでしょう?」


「まあ、そりゃそうか。……でも、ホントに大丈夫か?」


 今日までほぼ接点のなかった俺を矢作が信用してくれていることに、俺はちょっと喜びつつも、逆に心配になってしまった。


「大丈夫ですよ。それとも、アタシとどうこうしたいんですか?」


 矢作が悪戯っぽく笑う。


「いいや、そんなつもりはない」



 うそ。

 ホントのホントはしたい。

 だって、矢作はこんなに美人だし。

 モデル体型だし。

 ギャルっぽくて俺と合わないと思ってたけど、意外とイイ奴だったし。


 でも、『操作』で無理に俺のことを好きにさせたり、助けたことを恩に着せたりして仲良くなっても、俺はきっと相手とうまくできない。

 それが自分でわかってるから矢作に手を出さない、と自信を持って言えるのだ。

 これもくるみとの経験のおかげだ。


 ……いや、経験はしてないけど。



「それに」


 矢作が言う。


「それに?」


「猫好きに悪い人はいませんから」


「なるほど」



 その判断基準は俺も同意するわ。

 猫好きに悪い人はいない。



「ところで富士さん、なんかノブに掛かってますよ」


 矢作がドアノブに掛けられていたビニール手提げを指さした。


「ああ。大家さんからの差し入れ。コレのために早く帰ってきたんだ。矢作にもご馳走するよ」


 ドアノブにかかっていたのはパックに入ったお総菜だった。

 美幸が俺の不在を確認してノブに掛けていったのだろう。

 俺は心の中で美智子さんに礼を言うと総菜の入ったビニールを手に持ちドアの鍵を開け、先に中に入った。


「どうぞ。適当に座って待っててくれ。すぐに作るから」


 俺は買ってきた材料を玄関脇の台所のシンクへ置きながら声をかける。


「お邪魔しま~す。へぇ、男子一人暮らしの割には結構、片付いてますね」


 矢作が言いつつ、白のスニーカーを脱いだ。


 俺の家はキッチンに、リビング代わりの洋間と寝室兼勉強部屋が一室ずつの2DK。

 高校生の一人暮らしには過ぎたる広さだが、母と二人で住んでいた部屋をそのまま使っているというだけだ。

 家賃は美智子さんの厚意で、かなり安くしてもらっている。


「今更ですけど、富士さんて料理できるんですか?」


 矢作の問いに、


「小学校からやってる」


手を洗いながら俺が答える。


 小三で母さんと二人暮らしを始めてから、俺は積極的に料理の手伝いをした。

 野菜を洗うことから始めて、ピーラーで皮を剥く、包丁で切る、煮る、焼く。

 母さんに少しずつ基礎を習い、小五の頃には一人でキッチンに立てるようになった。

 そのタイミングで看護士だった母さんは勤務時間を延長し、晩飯の支度は俺の仕事になった。


「あまり期待されても困るけどな。家庭料理しか作れないし」


 エプロンをしながら洋室のカーペットに座る矢作に声をかけた。

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