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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第3話 ひさしぶり

 その日の昼休み。

 四時間目が終わったあと、俺は担任の多摩たま 美郷みさと先生に呼ばれて職員室に来ていた。


 女子サッカー部の顧問をしている英語の先生なのだが、自身も女子サッカー部出身というだけあってポニーテールに日焼けして化粧気のない顔と、パッと見は地味な先生だ。

 しかし、運動で発達した大胸筋のおかげかスーツの胸の部分がはちきれそうな巨乳になっていて、クラスでも先生の英語の授業だけは寝ないという男子生徒が多い。

 まあ、そんなことを抜きにしても生徒思いのいい先生だ。



「――じゃあ、そういうことでいいのね?」


 多摩先生からの問いかけに、


「はい、お願いします」


俺が答える。


「わかった。それじゃ、私もそういうつもりでいるわね。――でも、大丈夫? ムリをしてない?」


「いえ、大丈夫です」


「そう。じゃ、教室に戻っていいわよ。お昼休みにごめんね」


「はい、失礼します」


 多摩先生との会話を終えた俺は、職員室から教室に戻り、昨日の晩飯の残り物と冷食を詰めた弁当を机の上に広げた。

 昼休み開始から十五分ほど経っていたから、すでに他のクラスメートの半分は弁当を食べ終えている。

 もちろん、ぼっちの俺には待たせていた友人などいない。


「いただきます」


 小さな声で一人、手を合わせて弁当に手をつけようとしたところへ――


「あのぅ……」


クラスメートの女子が、俺に声をかけてきた。


 授業中に先生の指示で、というならまだしも、休み時間にクラスメートが俺に声をかけるなんて、このクラスに入ってから一度もなかったことだ。

 驚いた俺は弁当から顔を上げ、声をかけてきた女の子を見る。



 この子の名前は、たしか矢作やはぎ 梨華りか

 クラスカーストでもトップの、いわゆる「リア充」グループの一員だ。

 グループの方を見ると、全員が固唾をのんでこちらの様子を見守っている。



 なんだ、この無駄な緊張感。

 俺は珍獣か。



 ふたたび矢作に目を向けた。

 たしか東欧系のお祖母さんを持つクオーターだそうで、高身長に長い手足と目鼻立ちが整った顔をしていて、制服からでもスタイルがいいのがわかる。

 ロングの薄い茶髪で、目立たない程度のメイクもしているようだ。

 化粧気のない多摩先生と話した後だから、余計目につく。

 読者モデルをしているって自慢気に話しているのもよく聞くが、こうやって近くで見ると納得の美貌だな。



「富士……さん、でいいんですよね?」



【悲報】ぼっちの俺、このクラスで一か月経つのにクラスメートに名前憶えられてない【だが知ってた】



「うん。そうだけど」


「なんか、呼び出してくれって言ってる人が来てるんですけど……」



 クラスメートに丁寧語を使われるのもどうかと思うが、気持ちはわかるので何も言わない。



「俺を?」


 確認すると、矢作が頷いて教室の入り口を黙って指差した。

 矢作のグループはいつも、その辺りで固まって弁当を食べたりデカい声で喋ってたりするから、訪問者からの呼び出しに使われてしまったのだろう。


「わかった、ありがとう」


 礼を言って俺は弁当を広げたまま席を立つ。

 教室の入り口に向かう途中、矢作が自分のグループに、


「ヤッバい、初めて声聞いたよ」


笑いながら小声で報告しているのが聞こえた。



 だから、どいつもこいつも人のことを珍獣扱いするな!



 俺は少し憮然とした気持ちで教室の戸の外を覗いてみる。


「ひさしぶり」


 そこにいたのは黒髪ロングの、いま、俺を呼んだ矢作とはベクトルが違うタイプの美少女だ。

 八頭身の小さな顔に、整ったパーツが見事に配置されている。

 矢作がギャル代表なら、コイツは清楚系の代表ってとこか。


「ひさしぶり……?」



 そういえば最後に会ったのは死神騒ぎの前だから、ちょうどひと月ぶりぐらいか。

 ひと月も会わないなんて初めてだったけど、相変わらず睫毛長いし目が大きくてキレイだな。



「なんだ? 普通科こんなとこまでわざわざ来て」


 目力に吸い寄せられそうになる自分を抑えるため、少し無愛想に尋ねた。


「もう、お弁当食べた?」


 だが、彼女は俺の問いには答えず、逆に質問してくる。


「……いや、まだ。ちょっと職員室に行ってたから」


「え、ごめん! この時間だから、もう済ませたと思って来ちゃった」


「クラスが違えば知る由がないんだから仕方ないじゃん。わざわざ謝るなよ」


「でも……」



 やれやれ。

 どれだけ気を使うつもりだ。

 ハゲるぞ。



「あー、じゃあ五分、どこかで待っててくれるか? すぐ弁当済ませるから」


「う、うん、わかった! じゃ、中庭のベンチで待ってるね!」


 焦らなくていいからゆっくり来てね、と言いながら小走りで立ち去る後姿を見送る。

 俺は席に戻ると、大急ぎで弁当を胃に詰め込む作業を始めた。

 さっき話しかけてきた矢作が率いるグループは、ぼっちの俺に来客というレアイベントで大盛り上がりだ。



 ……やれやれ。

 ヒマだな、あいつら。



「おい! いま、この教室に特進科のマドンナ、来てなかったか?」


 俺が弁当と格闘していると、教室の入り口でうちのクラスではない生徒が声を上げた。

 合同体育の授業で見たことがあるから、隣の五組の生徒か。

 名前は知らないが、一時期、矢作に猛烈アタックをかけていたので覚えている。

 そういえば、最近来なくなったがフラれたのだろうか?

 伸びきってない髪を無理やりセットしているヘアスタイルが特徴的だ。


「特進科のマドンナ?」


 生徒の友人らしい男が尋ねる。

 成績上位者が集まる特進科と、ここ普通科は被る授業もないし、校舎さえ別だからあまり接点がない。


「特進科二年一組の先輩だよ。頭がよくて美人でおしとやか。まさに才色兼備。『枳高校カラコーの至宝』って言われてるんだぜ」


 それを聞いて、俺は思わず吹き出しかけた。



 カ、『カラコーの至宝』!?

 アイツ、すげぇあだ名つけられてるんだな。

 ダッセー(笑)



「へえ、そんな有名人が特進科にいるのか。なんて名前なんだ?」


「たしか……」



 大井 美幸。


 俺は、二人の会話に心の中で答える。



 彼女は、俺がいま一人暮らししているアパートの大家である大井 美智子みちこさんの娘だ。

 母さんが離婚して、親子でアパートの部屋に住み始めた小三の頃から小・中・高とずっと同じ学校に通っている。

 簡単に言えば、俺の幼なじみってヤツだ。

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