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ぼっちの俺が死神からもらった催眠能力でやりたい放題!! ……してないのにモテるようになった  作者: 太伴公達
第2章  『操作』、アルバイト、そして昔話
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第1話 ぼっちだからね

 人助けをして死に、死神やその遣い魔に怒られた挙げ句、変な能力をもらって生き返ったあの奇妙な一日から一か月ほどが過ぎた。



 このひと月の間、俺は『操作』の能力を使ってさぞかし好き放題していたのだろうと思われるかもしれない。



 だが俺は死ぬ前と何一つ変わることなく、ぼっちのまま静かな日々を過ごしていた。

 毎日、クラスの誰とも喋らず、人と目も合わせず、学校が終わったら一目散に帰る生活をあれから一か月、変わらずに続けている。




 GWも明けて、定期テストが押し迫った五月中旬。


 授業中、俺は急に身体が宙に浮くような感覚に陥った。

 最初、自分が居眠りをしているのかと思ったが、気付けば俺は自分の身体を教室の天井近くから俯瞰ふかんで見ていた。

 俺は何の予兆もなく、サラッと幽体離脱していた。



「コレは、ひょっとして……」


「やあ、久しぶり♪」


 宙に浮いた俺に、同じように宙に浮いた人影が声をかけた。


「やっぱりリリィか。遣い魔ってのは、そんなに気楽に現世こっちへ来ていて大丈夫なのか?」


 ひと月前の初対面と変わらず、ツルペタのマイクロビキニ姿で現れたリリィに訊ねる。


「あー! また人のことをツルペタってバカにして!」

 

 だが、俺の問いかけを無視して頭の中を読んだリリィが怒りかけたので、


「別に俺はバカにしてツルペタって言ってるんじゃない。リリィの場合はスタイルが良く見えて、とても似合ってるって意味で言ってるんだよ」


正直な気持ちを言うと、


「……ぼっちのクセに、そういうキザなセリフを吐くんじゃない」


リリィは顔を赤くした。



 ありゃ、怒らせちゃったか。

 別にキザなつもりで言ったんじゃない。

 リリィや死神に隠し事したってムダじゃん。

 それなら思ったことを正直に言った方がいい。



「――て、アレ? この間、俺が霊体になったときはリリィって声だけだったよな? なんで今日はリリィの姿まで見えてるんだ?」



『操作』でおかしくなったくるみに貞操を奪われそうになって(ま、俺の自業自得なのだが)幽体離脱したときは、リリィの声しか聴こえなかったはずだけど……。



「それについては後で説明するよ。……ねえ、そんなことよりさ。せっかく死神さまからもらった『操作』の力、なんで使わないの? 一か月前のあのときから、まったく使ってないでしょ」


「よく知ってるな。まさか俺のこと、三途の川からいつも監視してるってんじゃないだろうな?」


 俺は笑いながらリリィに言う。


「……」


「してるの⁉」


 知りたくなかった。


「いや、監視カメラみたいなものをつけて、キミがいつでも見えるようにしただけ! この間みたく知らずにダメな使い方しちゃうことがあるかも、と思って! たまにだよ!? ホント、たまーーーに!」


「まあ、たまにっていうならいいけどさ。たしかにあのときは忠告に来てくれて助かったし」



 あれで三途の川永久放浪決定なんて冗談じゃないからな。



「そう、そういうこと! べ、別にキミが気になって見てるワケではなくて、遣い魔の仕事の一環としてってことだから勘違いしないでよね!」


「いや、全然、そんなこと思わないよ」



 リリィだって死のスケジュール管理に忙しいんだ。

 こんな俺のことを気にかけてるヒマなんてないだろう。



「……ホントに思ってないみたいね。ちょっとは深読みしなさいよ」


「なにか言ったか?」


「なんでもない!」


 リリィがむくれて言った。



 あれ? リリィのやつ、また怒ってるのか?

 なんだか、俺が現世こっちに帰ってきてからリリィは不機嫌になることが多くて困る。



「本気でわかってないからタチが悪いのよね……。で、話は戻るけど、カメラにはキミが『操作』を使ったとき、ボクに通知が来る機能もつけてあるの。でも、あれ以来一度も通知が来ないから様子を見に来たんだ。ひょっとして通知機能がうまく働いていないのかと心配になったからね」


「大丈夫だったろ?」


「うん。通知機能は正常に作動してた」



 そりゃそうだ。

 実際、俺は課長クズに『操作』をかけて以来、能力を一度も使っていないんだから。

 おかげで『操作』の使い方も忘れかけていたほどだ。



「いや、言わせてもらうとさ、使いどころなくない? この能力」


 俺は正直な気持ちをリリィに言った。


「えー、そう? たとえば定番でお金ぐらい集めたら? 銀行行って行員に『操作』でお金振り込ませたりとか」


「死神の遣い魔がそんなこと提案していいの?」


「死神さまとボクの仕事は、魂を回収して輪廻の輪を崩さないようにすること。罪を裁くのはボクたちの仕事じゃないからね。それに、今回の生き返りのケースはボクたちにも初めてだからさ。こういうときに人間がどう行動するのか観察したいんだよね」



 俺は珍獣か。



「まあいいや。で、その金は俺の口座に振り込んでもらうの? お金の不正な流れが判明した瞬間、真っ先に口座名義人の俺が疑われるじゃん」


「だったら、記録に残らないように手渡しで現金を貰えばいいでしょ」


「金庫管理が一人だったらいいんだろうけど、そんなワケはないだろ? 何人も同時に『操作』をかけるのは、掛け方から言っても難しいと思うよ。いちいち目を合わせなくてはいけないってのがネックだね」


「あ、言い忘れたけど、目を合わせるのは全員同時じゃなくて大丈夫。十分以内に『操作』をかけたい複数人一人ずつと目を合わせておけば、あとは音を同時に聞かせるだけで、みんな同じ催眠状態になるよ」


「あ、そうなんだ」


 複数人を『操作』にかけたことがないから試したこともなかった。


「でもさ、宝石店なんかでも同じだけど、多額の現金や高価なものには監視カメラが付き物じゃん。持ち出したのが誰かっていうのは記録に残るだろ。運よく警察の捜査が俺にたどり着かなかったとしても『操作』にかかった人が逮捕されちゃうよ」



 そうすれば、その人が催眠状態にかかっていたことがバレるかもしれない。

 能力がバレれば結局、この力も俺もおしまいだ。



「じゃあ、お金持ちの人から本人も気づかない程度の少額のお金を何度か貰ったら?」


「たかだか数万ずつのために、知らない金持ちと目を合わせて『操作』をかける労力を費やすぐらいならやらない方がマシだよ」


「ぼっちだからねぇ、キミ……。人間関係の構築とか苦手そうだし」



 うるせえよ。



 リリィの憐みの目に、俺は毒づくことでしか抵抗できないのだった。

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