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第27話 すぐ気付くんだね

「私たちのことなど全て忘れるべきなのだよ」


 リリィたちとのことを忘れてしまうという衝撃の事実を通告され、思わず声を荒げてしまった俺に応えたのは死神だった。



「人は『死を想え(メメント・モリ)』などと言うがな。たしかに、死について考えるのは悪いことではない」


 死神は骨のみの腕を自身の茶のコートの前で組みながら言葉を続ける。


「だが現世に生きる人は生きるだけで精一杯であるべきだ。何時も死に縛られていては人生を楽しむこともできないだろう? ……半年前のどこかの誰かのように」



 ……死神にそう言われると俺は何も言えなくなる。

 死神が言っているのが、今年の春、くるみの代わりに死んでココへやってきた俺のことであるのは考えるまでもなかった。



「そういうことはすぐ気付くんだね」


「ん? なにか言ったか、リリィ」


「別にィ」


「――あの頃、君は身内の死に縛られ現世への未練が全くない状態だった。生き返ることにも意欲がなかった」



 そうだった。

 転生先がないなら、このまま死んだままでもいいと俺は言っていた。

 そんな心根をリリィに叩き直されて、ようやく現世へ戻る気になったんだよな。



「死を想うことと、死に縛られることは全く違う。死を想うことによって日々、文字通り()()に生きる。それこそが現世の人間の一番美しい姿だと私は思う」


「……」


「そのためにも『忘れる』ことは人間の最強の防御力なのだよ。忘れることができなければ、人はいつまでも下と後ろしか見なくなることだろう」


「いや、それでも、忘れてはいけないことは忘れるべきではないと思うんですが」


 俺が問い返すと、


「いいのよ、忘れても」


俺が最も忘れるべきでない存在である母さんに、それを否定された。



「翔悟も、私たちのことを忘れていいのよ。もちろん、思い出すなとは言わないわ。それは私たちだって寂しいし」


 笑いながら母さんは言う。


「でも、私や健太郎さんの死にいつまでも縛られるべきではないわ。翔悟の人生は翔悟の好きなように生きなさい。翔悟が私たちを忘れても、私たちはちゃんと見守っているから」


「で、でも俺は、健太郎さんに生前、ヒドい態度を取っていて、しかもそのまま死に別れて……」


「――僕に取っていた態度のことで、僕たちの死後、翔悟くんがとても後悔しているっていうのも、リリィさんから聞いたよ」


 健太郎さんの言葉に、俺は目を合わせることも出来ずに下を向く。


「こんな機会はないから言っておくけど、遺言書にも書いた通り、僕は何も嫌な思いはしてない。愛する由紀さんが育てた、とても良くできた息子を自分の子供として迎えられる。当時も今も、その喜びしか僕にはない」


「健太郎さん……」


「さあ、顔を上げて。自慢の息子の顔をしっかり見届けさせてくれないか」


「私たちが苦しんでいるように思わないで。元気で過ごしていると思って忘れてくれていいのよ」



 二人の言葉に俺はなんとか顔を上げたが、今度は俺が泣けてきてしまい視界がぼやけてくる。

 霊体でも深呼吸できるから当然かもしれないが、霊体でも泣けるんだな。



「……ね。大丈夫でしょ? だから忘れて生きていっていいんだよ!」


 リリィが、その特徴的なよく通る高い声で言う。


「で、でも『操作』もリリィもいなくて、これから現世の俺に何が出来るのか……」


 俺はリリィに不安をぶつける。


『操作』のおかげで、こんな俺でも人のために何か出来るかもしれないという自信を得ることができた。

『操作』を失い、しかも全てを忘れてしまったら、その自信まで失ってしまう不安があった。



「――やれやれ。現世にはキミのことを好きとか言ってくれる女の子たちが沢山いるじゃない」


 リリィが小指をピンと立てた。


「彼女たちがいれば大丈夫だよ」


「いや、梨華たちだって『操作』の力で仲良くなっただけだよ。人助けの力がなくなった俺と、これからも一緒にいてくれる理由がないだろ?」


「『操作』を使わずに仲良くなった子もいるでしょ?」


「美幸のことか……?」


「そう。だから、キミだってもともと人に愛される人間だったんだよ。『操作』はただのキッカケ。矢作 梨華や吉野 涼子、巴 詩織たちとの今の繋がりは『操作』と無関係だよ」


「『操作』で解決した問題もあるじゃないか」


「みんなはキミが『操作』で悩みを解決したことなんて知らないよ」


「で、でも……」


「ああ、もうウジウジしてるんじゃない!!」


「は、はい!」


 リリィの大きな声に、俺は思わず背筋を伸ばして直立した。



 ひさしぶりにリリィがキレた。

 怖ぇ。



「富士 翔悟! キミは『操作』なんかなくても立派にやっていける! ずっと見ていたボクが保証する!」


 腰に手をあて、ない胸を張ってリリィが自信満々でそう言った。


「ない胸って考えるな!」



 あああ、しまった。



「あまり情けない顔をするんじゃない! さあ、しっかり前を向いて胸を張りなさい!」


「う、うん……」


 リリィに促されて、俺はオロオロと胸を張る。


 そこで急にリリィが俺に近寄ってきた。



 な、何をする気だ?

 猪木のように闘魂注入ビンタでもされるのか?



 不測の事態に備えて身構えていると、リリィは俺の左頬に自分の顔を近づける。



 ――え?

 まさかキスされる?



 しかし、リリィは顔を近づけただけで俺から離れていった。


「な、なに?」


 リリィの行動の意味がわからず、俺は後ずさりながら尋ねた。

 心なしか、リリィの顔が赤くなってるような……。


「景気づけにキスでもしてやろうと思ったんだけどね。三途の川の者が現世の人間に触れる訳にはいかないからフリだけしたの」


「な、何だよ、それ!?」


「別にいいでしょ、それぐらい! グズグズ言ってないで生き返るよ! いいね!」


 俺のツッコミに怒ったのか、リリィは顔を赤くしてそう言い出した。


「お、おい! 何だか無理やりだな!」


「うるさい、うるさい! さぁ、覚悟しなさい! 辛くも楽しい現世が待ってるよ!」


「翔悟、じゃあね!」


「翔悟くん、勉強頑張って!」


「事故には気をつけたまえ」



 いろんな声に送り出され、幽体の俺はいつも通り、背後へ力強く引っ張られる感覚とともに現世へと戻っていったのだった。


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