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第25話 ホントだよ

「ボクが遣い魔をやめるから、欠員が二名になるんだ」


 リリィの言葉に、俺は愕然とした。



「なんで⁉ なんでリリィまで遣い魔をやめるんだよ⁉」


 思わず声を荒げてしまう。


「なんでって……こんな死神や遣い魔全体を敵に回すようなことをしたら、そりゃそうなるよ」


 俺の勢いとは逆に、リリィはあっけらかんと笑った。

 リリィの中ではとっくに納得いっているようだ。


 だが、俺はまったく納得いかない。


「だ、だってリリィは間違ってないだろ? なのにリリィがそんなことになるなんておかしいじゃないか!」


 リリィがやったことは、死神がその役割を逸脱して好き放題に命を奪うことに警鐘を鳴らしたことだ。

 賞賛されるならわかるが、なんでリリィが遣い魔をやめるなんてことになるんだ。



「ん~、まあ、そうなんだけどね。どこの世界でも理想を貫こうとすれば、どこかに歪みが出るもんだよ」


「そ、そんな……」



 リリィまで、ワルダのようにあの悍ましく暗い穴に飲み込まれなければいけないのか?

 三途の川も、あまりに世知辛いではないか。

 救いはないのか。



「あぁ、違う違う。ワルダと違ってボクは、遣い魔を()()()()()()()んじゃなくて()()()()()んだよ?」


「ん……? それはどういうこと?」


 リリィが妙な言い回しをしてきて、俺は再び混乱する。

 そんな俺の問いに答えたのは死神だった。


「君も知っての通り、私のような死神や、リリィのような遣い魔は死のスケジュールの遂行が任務だ。そして遣い魔には、一定数のスケジュールをこなすと現世に生まれ変わる権利が与えられる」



 へぇ。

 遣い魔って、ずっと遣い魔として生きていくワケじゃないんだ。


 え⁉ てことは――⁉



「リリィ、現世に生まれ変わるの!?」


「うん。ボクは今回、現世に転生することを選んで遣い魔を辞めるんだ。だから心配しなくていいよ」


 リリィが微笑む。


「翔悟のご両親ならボクも安心して後を任せられる。ワルダがいなくなって、死を大事に出来る遣い魔が補充されるってことだからね」


「んん、それなら……いや、でも、なんだかなぁ……」



 まず、ワルダのように罰としてどこかへ送られてしまうワケではないということはわかった。

 つまり、遣い魔を辞めさせられるのではなく、リリィの意志で辞めるってことも確認できた。


 だが、やはり納得いかない。

 結局、リリィが責任を被って遣い魔をやめるってことには違わないんじゃないか。

 そんな俺の思いをリリィは「読心」したらしい。



「実は、転生する権利はだいぶ前にもらっていたんだよ。こう見えてもボクは成績優秀だからね」


 冗談めかして笑いながらリリィが言う。

 俺も釣られて思わず笑った。


「……そうだな。もともとそう聞いていたもんな」


「でしょ? その割にキミはボクに対する感謝が足りなかったけど」



 間違いない。

 リリィが俺に協力的なことをいいことに、ずいぶんと雑用を押し付けてしまった。



「ホントだよ。ボクの長い遣い魔歴の中で、これほど色々させられたことはなかったもん。死神さまよりコキ使われたよ」


 急なリリィからの悪口ディスに、死神が肩をすくめた。


「大変だったけど遣い魔の仕事はやり甲斐があったし、他の死神チームが命を浪費するのも許せなかったからさ。つい転生する権利を行使もせずに長く遣い魔を続けていたんだけど……」


 これまでを思い出すように胸の前でそっと自分の手を重ね、リリィは言葉を続けた。


「……偶然、出会った人間に影響されたみたい。ソイツは悲しい出来事があったのに、あることをきっかけに、もがいたり、悩んだり、生きることに必死になって。そんな誰かさんを見てると、なんとなく人間が愛おしくなってきて」


「……」


「ボクも、一度生きるってことに必死になってみようかなって思えたんだよね」


 そう言い切ったリリィの顔は、とても綺麗だった。

 あまりに綺麗で、俺はリリィの顔をまともに見れなくなり、つい下を向いた。



 そのまま、しばらくリリィの決心を自分の中で噛み締めてみる。

 やがて――


「そうか……。リリィがそう決めたんだったら、いいか……」


納得いっていなかった気持ちを抑え、リリィの決心を後押しする気持ちができた。


 ただ、まだリリィの顔を真正面から見れない俺は、あえて話題を変えようと、


「と、ところで、リリィにそこまでの決心をさせた人って誰なんだい? これまでリリィが死のスケジュールで関わってきた人なのかな? 俺に教えてよ」


何の気無しに尋ねる。



 ――するとどういうことだろう。


 リリィだけでなく、タブレット越しの母さんや健太郎さん、果ては目のない死神までが、俺を冷たい目で見るではないか。



「……いや、キミらしいっちゃらしいけどさ……」


「リリィさん、すいません……。こんな鈍感な子にしたのは私の責任です」


「翔悟くん。僕でもそれはない」


「ないわー。自分、ないわー」


 この場にいる全員から何故か怒られた。

 死神に至っては口調まで変わっていた。


「え、え? なに? 俺、なんか変なこと言った?」


「別にいいよ。キミが知る必要はないし」


 俺の問いに、リリィが呆れた顔で笑うのだった。

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