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第13話 すごく不思議な話

「そう言うくるみさんは、変わった気がしますね」


「そう? 変わったかな?」



 俺がくるみの前から姿を消したあと、クズ課長がどうなったかは先日、リリィから、


「職場で自分の局部を何度も殴るという異常行動が見られたため、1ヶ月の入院後に単身赴任で倉庫管理課へトバされたよ」


と聞いている。


 もちろん、クズ課長がそんな異常行動を引き起こしたのは、俺のかけた『操作』がきっかけだ。

 そして、その『操作』により間接的にではあるが、俺はクズ課長の寿命を短くしてしまった。

 それが俺の三途の川での裁きに繋がるのだが……。



「くるみさんは変わりましたね」


「え、そう?」


「あの頃より明るくなった感じがします」


 あの頃のくるみは課長とのこともあったからだろうが、終始オドオドとしていた覚えがあった。

 しかし今のくるみは、表情も声もハキハキしている。


 俺の言葉に、


「ありがとう! 実は最近、よく言われるの。元気になったねって」


くるみはガッツポーズをして笑った。



 ――ああ、そうか。


 笑顔のくるみを見て、俺の中で一つ確信できたことがあった。



 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。



 くるみと出会ったあの日、くるみは死んでもいいつもりでトラックへ飛び出した。

 課長と話し合っていたときも、自殺を仄めかす言葉で課長の怒りを買い、その身を危うくしていた。

 つまり俺が『操作』をかけ、くるみと課長の縁を断ち切らない限り、くるみは課長の呪縛から逃げられなかった。


 親父に対して寿命を縮める『操作』を掛けたときもそうだ。

 俺が親父に『操作』をかけたのは、いくら血が繋がっていないとはいえ仮にも自分の娘に身体を売らせようとし、果ては自ら抱こうとまでしたからだ。

 たしかに『操作』の内容は重いものだったかもしれない。

 それでも俺は、奈那を守るために『操作』をかけた。



 どちらも決して、私利私欲で『操作』をかけた訳ではない。

 彼女たちを守るために『操作』をかけていたことを思い出せた。



 俺は一年前の火事で、母さんや健太郎さんを救えなくて悔しい思いをしている。

 無力な自分が、目の前で大事な人たちを死なせてしまった辛さを思う存分味わっている。



 ならば今、自分に人を救う力というものがあるのなら。

 どんな方法でも、人を救えるのなら。


 俺は何度だって『操作』を使う。

 くるみや奈那を救うために、躊躇いなく『操作』を使うだろう。




 ――結果、俺の寿命が尽きるとしても。




「……翔悟くん、なんか嬉しそうね?」


 隣のくるみが俺の顔を覗き込んでいる。

 知らず俺は、笑みを浮かべていたらしい。


「ああ……最近、ちょっと悩んでたんですけど、くるみさんに会って吹っ切れることができました」



 他に方法はなかったのか。

 本当に自分でなくてはいけなかったのか。

 三途の川の裁きのために自分が死ぬことがわかってから、俺は自分がした『操作』について悩んでいた。



 でも、悩む必要などなかった。

 たとえ目の前に「死」があったとしても、俺は同じように『操作』をかけていた。

 それを確信することができたから。



 今思えば、俺はリリィにも伝えていたのだ。


「これから先も、もし同じような状況になったら、やっぱり俺は『操作』を使って人助けをしたいと思ってしまうんじゃないかな」


 リリィから、このまま人助けで『操作』を使い続けるとマズいと聞いたとき、俺は迷いながらもそう答えていたはずなのに。


 三途の川の裁きの話を聞いて迷ってしまった。

 リリィと会えなくなってから、その決心が揺らいでいた。



 たしかに死ぬことは怖い。

 いま、この瞬間もできれば死にたくないとは思う。


 いや。

 死に対しての恐怖もそうだが、この世に生まれて何も成し遂げられないまま死んでいく虚しさもあった。

 実際、医者になって人を死のスケジュールから救いたいという夢は、裁きに呼ばれることで叶えられなくなった。



 でも、俺の死は決して無意味な死ではない。

 くるみに再会して、この笑顔を見られたお陰でそれを認識できた。

 たかだか十七年の人生だったけど、誰かの役に立って死ねたのならそれで充分な気がする。



「んー、なんかわかんないけど、私が翔悟くんの助けになれたのならよかったわ」


「はい。すごく助けになりました」


「ふふっ。変なの」


 くるみが微笑む。

 

「でも、翔悟くんも私の助けになってくれたでしょ。だったら、これでおあいこよ」


「え……俺は別に何もしていませんよ」


 俺はとりあえずお茶を濁すように言う。

 しかし、直後に、


「そんなことない」


意外と強い口調で、俺の言葉はくるみに否定された。



 そのまま、俺たちはしばらく無言となった。

 俺の方から何か言えば墓穴を掘ってしまう気がした。

 しかし、くるみにはすでに、俺に対して聞きたいことがあるようだった。

 おそらくそれは、今のようなヘタな誤魔化しでは取り繕えないほど、確信に満ちた問いのような空気だった。



 やがて沈黙の長さに耐えきれず、一か八か俺が笑って話を変えようとしたとき、


「――ねぇ、翔悟くん。すごく不思議な話だし、自分でも未だに信じられないところもあるの」


意を決したかのようにくるみが話し始め、俺の企ては遮られてしまった。



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