第12話 すぐわかったわ
「……久しぶりです」
俺の言葉へ、
「……やっと会えたね」
口元にエクボを浮かばせて、狩野 くるみが微笑んだ。
五ヶ月ぶりに会う狩野 くるみは、肩までだったゆるい巻き髪が鎖骨の辺りまで伸びていた。
だが幼い顔立ちと、白のロンTにジーンズという大学生のような格好のため、相変わらず社会人という雰囲気を感じさせない。
しかし、一度彼女の裸体を見ている俺は気付いていた。
たわわに実ったおっぱいによってTシャツが持ち上がり過ぎて、裾からおへそが見えそうになっていることを。
もともと女神のような抜群のスタイルをしたくるみだったが、ますます磨きがかかったようだ。
こんな格好で、こんな人気のない場所に来たら危ないっての、この人は……。
やっぱり危機感の薄い人だ。
ああ、でも俺はあのロンTに包まれたおっぱいを揉――んでない、手を添えたんだなぁ……。
――などと考えていたら、
「ねぇ、翔悟くん! 聞いてるの!?」
どうやら先ほどからくるみに呼ばれていたことに気付かなかった。
「あ、はい! す、すいません、なんでしょう?」
「もう……。そこ、座ってもいい?」
くるみはベンチを指差す。
「あ、ど、どうぞ。汚いところですが」
「ふふっ。なぁに、それ?」
くるみが笑いながら俺の座っていた場所の隣へ腰掛けた。
風呂上がりで来たのだろうか、俺の隣りを通るとき、長い髪からシャンプーのいい香りがした。
ここでまさか「じゃ、俺は帰ります」という訳には行かない。
俺も再びベンチへと座った。
「あー……お久しぶりです」
何か話さなくてはと思い、俺は改めて頭を下げる。
「ホント、久しぶりよね。翔悟くんと会ったのって四月だったもん」
「ああ、そっか。もう五ヶ月ですか、早いなぁ……」
くるみとは、あのクズ課長騒動で会った訳だが、アレは留年の高校一年生が始まったばかりの頃だ。
あれから色んなことが起こりすぎて、本当にあっという間の五ヶ月だった。
「ずいぶん捜したのよ、翔悟くんのこと」
「え、そうなんですか?」
「そうよ。急にいなくなっちゃって、そこから音沙汰なしなんだもの」
たしかにくるみが気を失っている間にお暇してから会っていない。
「あの大通りも通らなくなっちゃったでしょ」
「ああ……ちょっと帰り道が変わったんで」
正直なところを言うと、『操作』のことを突っ込まれると答えにくかったから避けていた。
まあ、『飛行艇』でのバイトが始まって本当に帰り道が変わった日もあるんだけど。
「じゃあ、今日はどこかで俺が公園へ入るのが見えたから来たんですか?」
この公園へ夜に来る用事など普通の人ならないはずだ。
偶然、この公園で俺を見かけたというなら驚きの確率だが……。
「それがね、聞いて。最近、私、ちょっと太っちゃって」
「太……?」
え? なんの話?
「そう。ほら見て? ここのお腹のとこ」
言いながらくるみはTシャツを捲り上げて自分のお腹を自分の手で摘まむ。
いや、疑ってるワケじゃねぇから。
ていうか、Tシャツを捲り上げるのやめて。
ホント無防備すぎるの、アナタ。
『操作』にかかってたから覚えてないのかもしれないけど、俺だってエロいことしないワケじゃないんだからね!?
「で、ちょっと痩せなきゃって思って、ここ最近ダイエットのために夜のお散歩をしてるワケ」
「なるほど。だからそんな動きやすい格好なんですか」
そうは言いつつ、くるみから目を逸らしながら俺が言う。
見てたら危うく反応しちまう。
「そうしたら今日、ここの近くを歩いてたとき、目の前を茶の縞猫が通ったの」
「猫」
俺はバカみたいに一単語だけ繰り返した。
「その子がね、なんか私の方を何度も振り返るの。まるで自分の後をついてこいって言うみたいに」
「はぁ」
「で、その子の後をついてきたら、翔悟くんがいたってワケ」
「猫の後をついてきたんですか?」
「うん。あ、でもたかだか500メートルぐらいよ!」
俺の呆れた表情に、くるみは慌てて付け足したが距離の問題じゃねぇ。
いい大人が夜の9時過ぎに猫の後をフラフラと追いかけちゃダメでしょ。
まあ、たしかに公園に入ってくるとき、くるみの前を茶の縞猫が歩いていた覚えはある。
「なんだか見覚えがある猫だったのよね」
「そうですか?」
……そう言われてみれば、何となく見覚えがある猫だった。
そのまま、おもちちゃんと消えていったけど……なぜ俺のところへ?
「翔悟くん、あまり変わってないわね。すぐわかったわ」
「え……? 変わりない、ですか?」
「うん。前髪のせいかもしれないんだけど、他人を寄せ付けない感じが、ね」
ああ、そうか。
くるみと会ったのは、まだ梨華たちと仲良くなる前。
俺が一番ぼっちだった頃だ。
だからくるみにとっては、再びぼっちになっている今の俺の方が印象に近いワケか。
最近は、変わったとか言われる事が多かったから、変わってないと言われるとなんだか逆に安心するな。
「ありがとうございます」
思わず礼を言ってしまう。
「え、なんでお礼言われてるの、私?」
くるみは口元に手を当てて小さく笑った。




