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第15話 予定されていた運命

「話したいっていうより、忠告って言った方がイイかな」


 そう言ったリリィの顔はいつになく真剣だった。



「……忠告?」


 なんとなくその言葉にイヤな響きを感じ、俺は恐る恐る尋ねる。



「うん。回りくどく言ってもアレだから単刀直入に言うね。キミの『操作』の使用について、ちょっと問題視してる死神たちがいるんだ」


「『操作』? でも俺って『操作』をそんなに悪いことに使った覚えないけど」



 初めての『操作』を加納 くるみに掛けたときは我ながらアレだったけど、それ以外はそんな変なことに使ってないはずだぞ?



「ああ、そういうことじゃないの。言ったでしょ? 『操作』を使って現世で何をしても死後に罪に問われることはないって」


 リリィが手のひらを左右に振って俺の考えを否定する。


「そうじゃなくてね。キミの『操作』の影響で他の死神チームの仕事に影響が出てるんだ」


「死神チームの仕事?」



 死神チームの仕事といえば死んだ後の魂の回収のことだろう。

 つまり俺が『操作』を使って人の生死に関わることをしたと思われてるってことか?



 ――いやいや。

 くるみの自殺は止めたけど、あれは死神やリリィと出会う前だから『操作』を使っていない。

 それ以外に死神チームの仕事に影響が出るような『操作』なんてしてないはずだけど……?



「もちろん直接的じゃないよ? でも死のスケジュールって数年単位で組まれることもあるって言ったよね。だから、ちょっとしたズレが大きく影響することもあるの」


 リリィは再びタブレットを操作して目的のページを開く。


「まず矢作 梨華」


「梨華? 梨華がどうした?」


「キミが『操作』を使って、夜の公園で彼女にちょっかいをかけていた男たちを追い払ったよね?」


「ああ、そうだな」


 俺は5月、当時はまだ接点のなかった梨華を、ドレッドとタトゥーの二人組のナンパから『操作』を使って救っている。

 それをキッカケに梨華と仲良くなったわけだけど……。



「あのとき梨華ってコが猫を抱いていたでしょ? ホントはその猫を探しに来た最上 元太が、あの二人から彼女を救うはずだったの」


「……え?」



 たしかにあのとき、梨華は元太さんの猫、おもちちゃんを抱いていた。

 てことは俺があの夜、あの二人組に何もしなければ元太さんが梨華を救っていたってことか?



「その後のことも教えるね。今から伝えるのは、()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()ってことだから」


「待って。俺の『操作』が二人の出会いを変えたってだけでなく他にもあるのか?」


「むしろココからが重要」


「え?」


 俺を置いたままリリィはタブレットをスワイプする。


「危ないところを助けてもらった梨華と元太は、お互いが猫好きということもあって意気投合し交際に発展。だけどそれが原因でドレッドとタトゥーの二人組から逆恨みされる。二人は元所属していたチームの者を引き連れて梨華と元太が二人きりの所を襲いに行く」


「え、え?」


「元太は必死に彼女を逃がそうとするが人数で有利な相手方に敵わず、梨華は拉致される。満身創痍の元太も自身の暴走族のメンバーを連れて梨華を救いに向かう」


「元太さんて暴走族のリーダーなの⁉」


「キミの町では最大派閥の暴走族のボスだよ。普段はバイクで走るだけのおとなしいチームだけどね」



 そういえば元太さん、おもちちゃんを探すとき、


「後輩たちもヘルプに呼んでるんスけど金曜の夜で全然捕まんなくて……」


と言ってたな。

 アレって暴走族の後輩たちってことだったのか。


 たしかに元太さんはガタイいいしヤンチャそうなイメージもあった。

 けど、おもちちゃんの話をするときの顔を思い浮かべると、どうしてもそんなイメージが湧かない。



「負傷者を多数出す争いの末、梨華は見つかるんだけど、彼女はすでに相手チームの男たちに散々嬲りものにされた後だった。怒りに我を失った元太はドレッドを捕まえて意識不明の重体になるほど暴行を加える。そのとき、背後からやってきたタトゥーに、隠し持っていたバタフライナイフで刺されて元太は失血死する」


「……」


 俺は言葉が出ない。


「梨華も、自分の操と大事な彼氏の両方を失ったことにより精神を病んでしまい、元太の死から一年後、身体を壊して死んでしまう。――コレがホントは予定されていた運命」


 リリィがタブレットから顔を上げる。



「なんだ、そのヤンキーマンガみたいな展開!」


 思わず俺は叫んでしまう。


「そんな運命、回避できて良かったじゃん!」



 元太さんも梨華もそんなクソみたいな運命を辿る予定だったのか、危なかった。

 俺が出てきて良かったじゃないか。



「それは運命が変わって梨華と接点を持った今だからこそ言える言葉だよ。じゃあ、もし梨華と接点のないまま、彼女が精神を病んだって話を聞いていたらキミはどう思ってた?」


「それは……」



 梨華を救う直前までの俺なら。

 本当の梨華を知らないままの俺だったら――と想像してみる。



「夜遊びしていた梨華の自業自得と思ってたかもしれないってことか」


「わからないけどね」


「いや……多分、そうだったと思う。あの頃の俺なら……」



 実際、おもちちゃんのことがなければ、あのとき俺は梨華を救おうとしていなかった。

 梨華を救ったあとも、タトゥーとドレッドの二人を避け、梨華をこの家に連れてきている。


 それがなければ再び一人で街中に梨華を歩かせていたかもしれないし、そうすればタトゥーとドレッドに再び見つかっていたのかもしれない。



「キミの『操作』と行動で二人の死のスケジュールが変わったってことだね。――次に巴 詩織」


「しぃちゃんも!?」



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