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第9話 知りませんか?

「初めまして。お兄ちゃん」


 安倍 奈那と名乗った美少女がそう言った。



()()、ね……。それで『お兄ちゃん』か」



 なるほど。

 苗字を聞いて、彼女の大体の素性については理解ができた。



「はい……。急に来てしまってすいません。今日は折り入ってお願いがあって来ました」


 彼女も大まかなことは伝わったと分かったのか、用件と共にその場で頭を下げる。


「お願い?」


 彼女の言葉に俺は思わず顔をしかめた。



 ――さて、どうしたものか。


 普通の男性なら、こんな美少女からお願いと言われれば内容も確認せずに安請け合いしてしまうことだろう。


 だが彼女の素性がわかっている俺としては正直なところ、あまり関わりたくない因縁がある。


 かといって既に俺の家まで来ているからには邪険に扱えないのも事実。


 こういうとき母さんの「女性には優しくしろ」という言葉は、まるで俺への呪いのように作用してしまう。

 自ら厄介ごとに首を突っ込むことになるかもしれないが……やれやれ、仕方ない。



「あー、話が長くなりそうだし、とりあえず上がる? 今は俺だけじゃなくて他に女性もいるから安心して」


「ありがとうございます。それじゃお邪魔します」


 抜群のプロポーションの身体に乗った小さな頭を再び下げると、彼女は真っ白のスポーツシューズを脱いだ。

 玄関先に置いた彼女の荷物に違和感を感じつつ、俺は続けて尋ねる。


「俺をお兄ちゃんと呼ぶってことは、俺より年下なのかな?」


「はい、いま中三です」


「中三!?」


 俺は素っ頓狂な声を上げて、思わずもう一度、奈那の身体を上下へ見直す。

 170センチ近い長身に、九頭身はあろうかという小さな頭。

 中学制服には不釣り合いな大きい胸に、少し短めのスカートから伸びる細い脚。

 メイクをせずともハッキリとした目鼻立ちに、色白の顔が映えるまっすぐで綺麗な黒髪。

 間違いなく、俺がこれまで出会った女性の中で断トツトップの美貌の女性と言ってよいと思う。

 梨華や美幸も綺麗だと思うが、この子はちょっとステージが違う。


「これで中三か……」


「? なんですか?」


「いや、何でもない」



 何でもなくはない。

 一体、なに食ったらこんなキレイで色っぽい中学生が出来上がるんだよ。

 俺と同じ人間と思えねぇよ。



「お兄ちゃんは今年、高二ですよね?」


 しかも、こんな美少女からお兄ちゃんと呼ばれるとか、俺はどれだけ前世で徳を積んだのやら。


「あ、ああ。本来なら高二の年なんだけど事情があって二度目の高一をしてる」


「事情?」


 小首を傾げる仕草も可愛い。


「その辺のことについてはあまり深く聞かないでくれ……。あと安倍って名前を呼ぶのは()()だから、奈那さんて呼んでいいかな?」


「あ、それもそうですね。でも、さん付けじゃなくて奈那と呼んでもらっていいです。……あの、ところでお兄ちゃんは私のことって知りませんか?」


 奈那が俺の顔を見て訊く。


「ん、どういうこと? 俺たち、どこかで会ったことあったかな?」


 たしかに玄関で顔を見たとき、奈那の顔に見覚えがある気がした。

 しかしさっき、当の本人が『初めまして』と言ったから気のせいだと思ってたんだけど……。


「いや、たしかに私たち直接会ったことはないです」


「……? なにを言ってるんだ?」


 会ったことがないのに私のこと知らないのかと言われても、知らないとしか答えようがない。



 そんな意志疎通がイマイチ出来ていない会話を俺たちがしていると、


「あれ、ナナリン!? なんでココに?」


ちゃぶ台から俺と奈那を見上げた梨華が声を上げた。


「矢作さん!? なんで矢作さんがお兄ちゃんの家にいるんですか!?」


 ナナリンと呼ばれた奈那が目をみはる。


「お、お兄ちゃん!? なに言ってるの、ナナリン!?」


 質問に答えることなく、お互いがお互いへ質問を飛ばす。

 ここも会話が成り立ってるようで成り立ってない。


 ていうかその前に梨華と奈那は知り合いだってことか?



「わ! ホントにナナリンやん!」


 続けてしぃちゃんが驚き、


「顔、小っちゃい……。キレイ……」


吉野さんは半分口を開けたまま息を飲んだ。


「ちょっ、ちょっと待って。梨華だけじゃなくて、しぃちゃんも吉野さんもこの子のこと知ってるの?」


 キョトンとした俺の質問に、


「うそやん!? しょうちゃん、ナナリン知らんの!」


しぃちゃんが人を非国民扱いした言い方をする。


「え、そんなに……?」


 どうやら俺の知らないところで、俺の妹を名乗るこの美少女はずいぶんと有名らしい。


「私は多分、詩織ちゃんほど詳しくはないけど知ってるわ」


 吉野さんまでそう言う。


「アタシはモデルの撮影とかで一緒になることが多いかな」


 最後に梨華が答える。



「わかった! 梨華の撮影で一緒になるってことは、奈那はモデルでもやってるのか?」


 俺は奈那の方を見て尋ねる。

 このスタイルと美貌ならモデルと言われても納得だ。



「違うねん。モデル()()やないねん」


 奈那ではなく、しぃちゃんが人差し指を立てて左右にチッチッと振りつつ答える。



 え? しぃちゃんのことじゃなくて奈那の話だよ?

 なんでしぃちゃんがちょっと偉そうなの?



「ね、ね、ナナリン。今ちょうど立ってるんだから、そのままでいつもの挨拶見せてや!」


「え! ココで……ですか?」


 奈那が慌てる。

 挨拶って何のことだ?


「アタシも生で見たことないから見たいかも」


「や、矢作さんまで……」


「その方がしょうちゃんにもわかりやすいって! じゃ、梨華ちゃんも涼子ちゃんもご一緒に! せーーの!」



「「「ナーナリーーン!」」」




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