02. 〔執筆:HATA〕
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大男は毛布を被りながら、今度は軽装で焚き火のそばに座り込む。
誰かと居れば饒舌になる男だったが、一人では話し相手など星ぐらいなもので。
そんな虚しい会話にはもう飽きていた。
自身のことは何故か今は考えたくなくて、結局は今の相棒のことを想い浮かべる。
最初、出会った頃は、刹那的というか享楽的というか、そう深く物事を考えない方の人間に見えていた。
しかし、彼の胸には若く熱い思いが宿っていて、運命や、人の圧政には拳と声を上げて立ち向かった。
「アンタを放っておけない」と言って、終着点の見えない旅に共に来てくれる度量の深さもあって、大男は彼を友と親しみながらも尊敬していた。
しかし、だからこそこれで良かったのだろうかとも思う。
自身に力が無く、頼り甲斐が無いばかりに、この様な途方もない旅に付き合わせている。
そんな不安を打ち明けたことも既にあったが、
「アンタだけの問題じゃないんだから気にすんな」「それに、アンタとの旅は結構楽しいよ」、と。
そう言われてしまえば、渦巻く不安も一時的には掻き消えた。
しかし、考えずにはいられないのだ。
旅に出たのが、自身よりも強い何者かであれば。
いや、自身が誰かに頼ろうとさえ思わなければ。
……しかしそれは、今の自分には酷く難しい事に思える。
口が立たず、力だけが取り柄の大男は、だからこそ自分に言い訳をするのが苦手だった。
――――自分があの時気付いていれば、彼女は死ななかったのに、
今更、どうしようもないことが今夜も、頭を巡る。
寂しい、
寂しい、
誰のせいだ、
誰のせいでも無い、
相棒がいるじゃないか、
相棒には苦労を掛けているなぁ…、
そんな益体もないことばかりが頭を占めて――、
ふと、後ろから青年の声がし、暖かいものが頬に当たった。
直ぐに起きてしまったから、夜食を作って来たという。
気付けばまた、悩んで時間が過ぎてしまっていた。
夜明けが近いので、せっかくだからと2人で話をした。
努めて楽しい話題を選んでいたはずだが、どうしてだろうか、気付くと青年は大男を心配そうに見つめていた。
自分はそんなに心を隠すことが下手なのだろうか、と驚きながら、同じ事を打ち明けても仕方ないし、さてどうしたものかと思う。
そしてふと、心に浮かんだ言葉を口に出した。
「寒い」 と。
相手は「そうだなぁ、寒い」と同意して、纏った毛布を梟の様に膨らます。
それが暖かそうに見えたからなのかは分からないが、言ってしまったのだ。
「もっと近くに来ないか?」 と。
その言葉が持っていた、友人という間柄では起こらない心理的接近を、相棒は「良いぞ」と笑って答えた。
相手も大きいが自身はそれより大きいので、胡坐をかいた大男の膝に青年を座らせる形になった。
肌を寄せ合い、上から毛布を巻いて寒さを凌ぐ。
短い金色の髪に顎を載せると、柔らかく猫っ毛であることが分かった。
彼は猫科の獣人であるから当然といえば当然だ。だが、初めて知った。
相手も背中を預けてくる。
抱き締めると、部屋の中にいたからか自身よりずっと暖かく、そしてそれ以上に、誰かとの触れ合いが心に空いた穴を埋めるようだった。
そして、大男の裡に疑問が浮かび上がった。
ふとした偶然で得てしまった温もりを、いつか、自分は何事も無かったかのように手放すことは出来るだろうか、と。
夜がまだ明けなければいいのにと願いながら。