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夜明けの前  作者: 夜来鳥
2/3

02. 〔執筆:HATA〕



 -02-




 大男は毛布を被りながら、今度は軽装で焚き火のそばに座り込む。

 誰かと居れば饒舌になる男だったが、一人では話し相手など星ぐらいなもので。

 そんな虚しい会話にはもう飽きていた。

 

 自身のことは何故か今は考えたくなくて、結局は今の相棒のことを想い浮かべる。

 最初、出会った頃は、刹那的というか享楽的というか、そう深く物事を考えない方の人間に見えていた。

 しかし、彼の胸には若く熱い思いが宿っていて、運命や、人の圧政には拳と声を上げて立ち向かった。

 「アンタを放っておけない」と言って、終着点の見えない旅に共に来てくれる度量の深さもあって、大男は彼を友と親しみながらも尊敬していた。

 

 しかし、だからこそこれで良かったのだろうかとも思う。

 自身に力が無く、頼り甲斐が無いばかりに、この様な途方もない旅に付き合わせている。

 そんな不安を打ち明けたことも既にあったが、

 「アンタだけの問題じゃないんだから気にすんな」「それに、アンタとの旅は結構楽しいよ」、と。

 そう言われてしまえば、渦巻く不安も一時的には掻き消えた。

 しかし、考えずにはいられないのだ。

 旅に出たのが、自身よりも強い何者かであれば。

 いや、自身が誰かに頼ろうとさえ思わなければ。

 ……しかしそれは、今の自分には酷く難しい事に思える。


 

 口が立たず、力だけが取り柄の大男は、だからこそ自分に言い訳をするのが苦手だった。


 ――――自分があの時気付いていれば、彼女は死ななかったのに、


 今更、どうしようもないことが今夜も、頭を巡る。


 寂しい、

 寂しい、

 誰のせいだ、

 誰のせいでも無い、

 相棒がいるじゃないか、

 相棒には苦労を掛けているなぁ…、


 そんな益体もないことばかりが頭を占めて――、

 

 

 

 ふと、後ろから青年の声がし、暖かいものが頬に当たった。

 直ぐに起きてしまったから、夜食を作って来たという。

 気付けばまた、悩んで時間が過ぎてしまっていた。

 

 夜明けが近いので、せっかくだからと2人で話をした。

 努めて楽しい話題を選んでいたはずだが、どうしてだろうか、気付くと青年は大男を心配そうに見つめていた。

 自分はそんなに心を隠すことが下手なのだろうか、と驚きながら、同じ事を打ち明けても仕方ないし、さてどうしたものかと思う。

 そしてふと、心に浮かんだ言葉を口に出した。


 「寒い」 と。


 相手は「そうだなぁ、寒い」と同意して、纏った毛布を梟の様に膨らます。

 それが暖かそうに見えたからなのかは分からないが、言ってしまったのだ。


 「もっと近くに来ないか?」 と。

 

 その言葉が持っていた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、相棒は「良いぞ」と笑って答えた。



 相手も大きいが自身はそれより大きいので、胡坐をかいた大男の膝に青年を座らせる形になった。

 肌を寄せ合い、上から毛布を巻いて寒さを凌ぐ。

 短い金色の髪に顎を載せると、柔らかく猫っ毛であることが分かった。

 彼は猫科の獣人であるから当然といえば当然だ。だが、初めて知った。


 相手も背中を預けてくる。

 抱き締めると、部屋の中にいたからか自身よりずっと暖かく、そしてそれ以上に、誰かとの触れ合いが心に空いた穴を埋めるようだった。

 そして、大男の裡に疑問が浮かび上がった。

 

 ふとした偶然で得てしまった温もりを、いつか、自分は何事も無かったかのように手放すことは出来るだろうか、と。

 

 

 

 夜がまだ明けなければいいのにと願いながら。

 

 

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