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15.おうちをどうぞ

「よおし、ゴブリンたちー。全員集合だ」


 食事をしながら、ラウラとスレイプニルにゴブリンたちのことを伝え終わった頃、ぞろぞろとゴ・ザーを先頭にゴブリンたちが高層ビルの前まで到着する。

 全員を見渡せるよう、大理石の台座を作りラウラと横並びになった。

 彼女は耳と尻尾をピンと立て、緊張した面持ちで下を向いたり俺の横顔をチラリと見たりと落ち着かない様子だ。

 でも、決して彼女はゴブリンたちと目を合わせようとはしない。

 

「大丈夫だから。噛みついたりはしないさ」

「う、ううん。そういうことじゃなくて……こんなに大勢の前だと」

「あれは獣人でも人間でもない。俺だってぼっちだったから、人前……ましてや大勢の前で注目を浴びるなんてゾッとするって」

「で、でしょ。さっきからもう膝が」


 うつむいたまま小刻みに首を縦に振るラウラにそっと微笑みかけ、彼女の手をギュッと握る。

 一方の彼女は顔をあげ、じっと俺の顔を見つめてきた。その瞳はやはり不安気で長いまつ毛も揺れていた。

 

「あれはゴブリン。なんか違う生物だと思えばいい。そうだな。カエルの群れみたいなもんだ。げーこげこってな」

「カ、カエルとは違うじゃないの……だって喋るし……」

「動物的ではあるが、あれでもなかなか仲間思いの種族なんだって。ここに来たのも非戦闘員を慮ってのことなんだ」


 な、っと片目を閉じ、今度はゴブリンたちの方へ顔を向ける。

 

「ゴ・ザー。全員揃ったか?」

『揃っているごぶ。近くで見ると魔王ビルは首が疲れるごぶ』

「確かに。上まで見るのは止めておいた方がいいな」


 未だ半数ほどは、わちゃわちゃビルを指して叫んでいた。たまに上を見過ぎてひっくり返っているゴブリンもいる……。

 どんだけ集中して見上げてるいるんだって話だよ。


「最初に俺の仲間を紹介するよ。こちらはラウラ。農業のことをゴブたちに教えてくれるありがたい人だ」

「ラ、ラウラです……」


 消え入りそうな声で自己紹介したラウラであったが、ちゃんと前を向いてゴブリンたちと目を合わせていた。


『農業!』

『お食事!』

『食べ物!』

『姉御―!』

『姉御万歳!』


 農業という言葉に過剰なまでに反応したゴブリンたちが喝采をあげる。

 叫び過ぎて倒れる者までいる始末……。こ、こいつら、よくこんな感じで今まで生き残ってこれたな。


「あ、姉御って……」

「まあいいじゃないか。あいつらなりに親しみを込めてるんだって」

「そ、そうかな……」

「そうだって」


 そうだと思うしかないだろ!

 なんて正直な感想は飲み込み、落ち着くよう両手をあげ彼らが静まるのを待つ。


「挨拶が済んだところで、まずは約束の頑丈な住居からだ。そうだな。西棟の一階にしようか。手狭なようだったら、二階も開放する。説明をするから、ゴ・ザーだけついて来てくれ」

『分かったごぶ』 


 食べ物じゃないからか、反応が薄い。衣食住というだろ。どれも欠けてはいけない要素なんだぞ。

 同じくらい叫んでくれとは……いや、この方がいいや。

 耳が痛くなくていい。鼓膜にびんびんくるからな……あいつらの声って。

 

 ◇◇◇

 

 ロの字型に建つビルの西側へゴ・ザーを連れて入る。

 ちなみに俺の住むビルは南側だ。どうせ住むなら南向きってね。いや、たまたま南側だっただけなんだけどさ。

 ゴ・ザーを中に入れる前に内部を少し改造しておいた。

 エレベーター部分を塞ぎ、階段の扉を壁に変更したんだよ。余計なところを探索されないようにするために。

 泥だらけになるだけでなく、中で迷子になってりしたら事だ。興味本位で進むと広いからな、高層ビルは。

 300人程度なら、一階部分だけでも十分過ぎる広さがあるから問題ないだろう。

 むしろ広すぎるかもしれない……でも、狭いよりはよいさ。うんうん。

 

 ゴ・ザーと言えば、最初はキョロキョロしていたけど見通しが良すぎる内部にすぐに興味を失ったようだった。


「どうだ? ここなら雨風も凌げるだろ」

『こんな巨大な部屋を見たことがないごぶ。人間の城より大きいごぶ』

「そうだろうな……一つだけ注意点がある。必ず守ってくれ」

『ごぶ?』

「いいか、用を足す時は必ずトイレで用を足せ。トイレはここだ」


 トイレは四か所に作ってある。

 場所はだだっぴろい広間の四隅にしておいた。

 個人用のトイレではなく、商業施設にあるような複数人が入ることができるものだ。

 男女別で5人同時まで使用可能になっている。

 

 ゴ・ザーに説明しつつ、ついでにお掃除グッズも紹介しておいた。

 

「いいか。なるべく清潔に使うように。あまりに不潔になり過ぎると食糧が腐ったりするぞ」

『わ、わかったごぶ。ちゃんと綺麗にするごぶ!』


 食糧を絡めると途端にしおらしくなるゴ・ザー。

 ふふ、こいつらの行動原理はこの短い間でほぼ理解したからな。

 一緒にたんまりと食糧を確保していこうじゃないか。これもそのための一環……ではないかもしれないけど、余りに汚くなり病気が蔓延したりするとよろしくないからな。

 

 綺麗に綺麗にとブツブツ呟くゴ・ザーと共に外へ出て元の場所へ戻る。

 

「住処の説明が終わったところで、さっそく本日と明日の朝の食糧確保に向かいたいと思う!」

『食べ物ごぶー!』

『食べ物ごぶー!』


 異口同音に壊れたスピーカのように同じ言葉を繰り返すゴブリンたち。

 だ、大丈夫か心配になってきた。何度目だよこれ。

 単純……朴訥であることは悪いことではない。腹の中で何を考えているのか分からない連中より、はるかに良い。


「ゴブリンさんたちって、少し可愛いかも」


 隣に立つラウラがそんなことをのたまった。

 か、可愛いかな……こいつら。

 見た目はいかつい感じなんだけどなあ。ずんぐりとしていて大きな口から牙が生え、ぎょろりとした目をしている。

 

『どうするごぶ?』


 キラキラと子供のように目を輝かせたゴ・ザーは期待に満ち溢れている様子。

 

「二つに分けよう。精鋭の半分は俺と一緒に森へ入る。残りは作業をしてもらおうか」

『分かったごぶ!』

「よっし。俺とついて来る者はこっちに並んで。残りは高層ビルの周囲を清掃だ」

『清掃?』

「うん。そこら中に木々が転がっているから、集めたら薪にしたりできるだろ? 木を切る手間は省けるはずだ」

『火は煮炊きに必要ごぶ! 切っておいてくれたんだごぶ?』

「あ、ま、まあ、そんなところだ」


 信じて疑わないゴ・ザーの純真さに目が泳いでしまう。

 高層ビルを建てた時に多量の木々を吹き飛ばしてしまったからさ。

 周囲が倒れた木やら何やらで、そのうち掃除をしようと思っていた。だけど、俺とラウラだけだと狩りや畑などやることがあり過ぎて手が回らない。

 なので、浮いているゴブリンたちに手伝ってもらおうってわけなのだ。

 

「トロッコ、ナタなど、必要な道具は全部出す。それから、精鋭ゴブリンたちにもショートソードか手斧くらいなら作る」


 彼らの大きさに合わせたものを準備しなきゃ。人間サイズだと彼らには大きすぎて扱い辛いだろうから。

 いろいろあったが、ようやく本日の狩りがはじまる。

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もふもふは全てに優先する物語

・タイトル

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。いまさら後悔しても、もう遅い~

・あらすじ

ペット大好きな青年が捨てられたワイルドウルフを育ててもふもふ楽しーなおはなしです!

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