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6話 じつは家と交番が近いのでヒヤヒヤしてます

「では、起動する! 私が破壊するに値する兵器であることを願うぞ!」



 だから、壊しちゃダメでしょうが。



「ふふふふふ、この完璧な装甲を破るのはかなり骨が折れるだろうな……!」



 わぁ、すごいニヤニヤしてる。これは胸の底から破壊衝動が湧きあがって、大興奮してるときのDr.ヒラガです。

 ニヤつきながらも一生懸命かっこいい表情を保とうとしているせいで、かえってこめかみの血管がピクピク動いてる相当ヤバイ人になってますよ。


 ボクのご主人様は、基本的にナルシストでかっこつけなのです。あからさまにニヤニヤしても、我慢してニヤニヤしても、どちらにしても変質者にしか見えないんですけど。


 そうだ、変質者で思い出しました。KJ001号を起動する前に、重要なことを伝えないと。

 ドクターはこういう繊細な問題、気が回らないんですよねぇ。


 ここはやはり、脳にあらゆるデータベースを備えた優秀な『助手』であり、ネコ型ホムンクルスのボクが、変態のご主人様に一般常識を教えてあげるべきでしょうね。



 ***



 広間は部品やら設計図で散らかり放題です。ドクターは片づけないし、ボクも最大で六角ボルトくらいしか運べませんからね。

 Dr.ヒラガいわく、平賀源内が隠れ家にしていたという由緒あるお屋敷なのに、もう半分以上が『物理的に開かずの間』になっちゃってますよ。


 さて、そんな散らかった部屋の中心に置かれている最強兵器の金髪美人さんは、まだ起動前でコードが何本も繋がっています。

 あらためて眺めると、背中のいかつい翼以外はどう見ても本物のニンゲンですね。


「どうだ、この人工スキンの質感を見てみろ。私の技術と知識の結晶だ! 主翼を取り外せばそこらを歩いている女と変わらないだろう!?」

「さすがです、ドクター!」


 こんなに近未来っぽいものが造れるなんて、人間性に重篤な欠陥があるとはいえ、天才を自称しているだけあります。

 でも、そこらに金髪碧眼巨乳美女歩いてますかね? もしここが北欧あたりなら、漠然と存在していてもおかしくないですが。とりあえず隣に住んでる大学生のおねえさんではない気がします。


 まあボクはお屋敷の外に出たことないですし、都会にはいろんな人が住んでいるらしいので、ピンク髪とかネコ耳とか合金じゃないだけ自然だと思いましょう。


「よーし、では起動を……」


 あ、そうだ。あれを教えてあげないと。ごく一般的な感覚に基づいた気遣いを教えてあげて、コミュ障のドクターを導いてあげないと。


「ドクター、待ってください。先に服を着せてあげたほうがよくないですか? ボクのときと同じで、すでに知識や自我をプログラムされた状態なんでしょう? ましてや女性型ですし」

「む、造ったのは私だぞ。いったい何を気遣う必要がある。だいたい兵器に恥も外聞もないだろうが」


 ダメですねぇ、これだから無神経男は。

 ドクターは女性の気質なんてまったく理解してないどころか、他人全般への共感力がゼロなのです。

 自我があるってことは、ボクのようにちゃんと考えたり感じたりするのですよ。


 目覚めた途端、交番に駆け込まれたり近所の人に目撃されたりしたら外聞が悪いじゃないですか。ドクターの外聞が。

 今更なのでこれ以上悪くなりようがない気もしますが。


「とにかく、ついに逮捕されては困ります。念のため着せましょう」

「ついには余計だ。まあ、助手がそう言うなら構わんが、我が邸宅にある女物の服は一着だけだ」


 ドクターが和ダンスから出してきたのは……。

 ほほう、落ち着いた色合いの着物ですね。お出かけ用じゃなくて普段着っぽいやつ。

 あとは白いエプロン……?

 いや、割烹着だこれ。ボクのデータベースによると、フネさんが着てるやつだ。


「あのう、この方、どう見ても西洋系のお顔立ちですけど、和服なんですか? しかも割烹着って。性癖に走りすぎでは?」

「なにを言う。和服が西洋人に似合わないなど、日本人のちんけなプライドと幻想だ。勘違いも甚だしい。顔とスタイルがよけりゃ大抵似合う!」

「過激な発言はやめてくださいよ~」


 最近はそういうの良くないって、ボク知ってるんですからね。


 おや? ドクターが着物一式を握りしめて、なにやら深刻な表情をしています。どうしたのでしょうか。

 

「じつはこの割烹着はな、大事に取っておいた物なのだ」


 あっもしかして……。

 割烹着といえば、その昔日本の母親が着ていたものですよね。まさかお母さんの形見とか、でしょうか。

 やはりドクターは、寂しさから盛大にこじらせてしまったんじゃ──


「何年か前、うちに遊びに来たいと言い出した女がいてな。これを事前に買っておいたんだが、着てくれと頼んだら帰ってしまった。女というのはよくわからん」


 ただの性癖じゃないですか!!


 そりゃドン引きですよ。交際相手でもドン引きなのに、「まあ家に遊びに行くくらいならいいかな」くらいの気軽さで来ちゃった女の人なら尚更、割烹着出されたら即帰宅を決意しますよ。して正解です。

 家に来たい人が現れたこと自体、最初で最後の奇跡だったんじゃないですか?

 そのまま交番に駆け込まれなくてよかったですね!

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