5話 正統派美人さんで、逆にこじらせを感じる
「そうと決まれば早速取りかかるぞ! 広間を開放だ!」
Dr.ヒラガ普段は物置みたいな五畳間に引きこもって発明をしているのですが、今回のように大がかりな物は広間を使います。
どの部屋も怪しげな薬品や部品、工具やらで散らかっちゃってますからねぇ。まあ、ボクはふかふかの座布団さえ置いといてくれれば文句はないのです。
ご主人様であるDr.ヒラガが変質者なせいで、今日も今日とてストレス発散のグルーミングが止まらないネコ型ホムンクルスの『助手』です。
おかげで自慢の毛並みはいつでもツヤツヤなんですけども。
「はははは、待っていろ地球人!! 天才の天才による天才的な破壊を見せてやる!!」
ボクは今まで一度もお屋敷の外へ出たことがないので、人工脳のデータベースに保管されている以上の知識はありません。だからニンゲンについても、ドクターと近所の人くらいしか知らないのですが──
「破壊だ、世界は破壊でできているのだ!!!!」
このテンションを保っているアラサーなんて他にいるのでしょうか。
多分、いない気がします。
***
広間に篭もること、三日三晩。
Dr.ヒラガの新発明品・最強の破壊兵器が完成しました。
助手のボクもちゃんとお手伝いしましたよ。ドクターのクレイジーな発言にツッコミは欠かしませんでしたとも。
「どうだ、これが天才の最高傑作……! AIによる学習機能搭載、最強の美女型破壊兵器・Type-KJ001号だ!!」
散らかった畳の上でマネキンのように立っているのは、背にジェット機のような翼がついた人型の兵器。寝るとき邪魔そうですね。
それを除けば、見た目は普通のニンゲンと変わりません。20歳前後のお嬢さんって感じの金髪美女です。なぜ西洋人風なのかボクにはわかりませんが。
「外装のデザインはどうだ?」
「はあ、いいんじゃないでしょうか」
感想を簡略化しましたけど、いつも時代錯誤な和服を着た日本文化かぶれのくせに女性の好みは金髪碧眼巨乳なところが欲望に忠実な感じでいいんじゃないでしょうか。
「ちなみに、けーじぇーという型番にはどういう意味が?」
早くも3桁番号を設定しているところも気になりますが、あえて触れないでおきましょう。100体造るとか言い出しかねません。
「我が偉大なる先祖、平賀源内の恋人だったとされる役者・瀬川菊之丞にちなんでだ」
ああ、なるほど。キクノジョーでKJなんですね。
ボクのデータベースによると、瀬川菊之丞は女形の歌舞伎役者だそうです。平賀源内は男色家というウワサがあって、生涯独身だったとか。
って、それを知ってて直系の子孫を自称してたんですか、この人は。メンタル強いですね。
もちろんデータベースでも直系は存在しないことになってます。絶対に『たまたま苗字が一緒だったから名乗ってみたあるいは思い込んじゃった人』じゃないですか。
まあいいか。自称だし。Dr.ヒラガの言うことだし。
それにしても──
「意外と正統派の美人が好きなんですね。ドクターが極端なロリコンとか、ぶっ飛んだフェチとかじゃなくてなんとなく安心しました」
まだ起動していないので目を開いたまま停止している状態ですが、KJ001号は100人いたら90人は『優』と判定しそうな良い雰囲気の美人さんです。
地味すぎず、派手すぎず。おとなしすぎず、気が強すぎず。大人っぽくてしっかりしてるけどときどき抜けたところもあるみたいな。
わ、それって逆にモテない男の妄想の塊なんじゃないですか。しかも本気出して考えてみた系のリアルな願望ですよ。
でもKJ001号に罪はありませんし、忘れましょう。本人が気づかないことを祈るのみです。
「私の好みのタイプは幼少時から変わらず、隣に住む年上で大学生のお姉さんだ」
「ドクターはとっくの昔に大学を卒業してますよね? もちろん世の中には社会人学生もいますけど絶対そういうことじゃないですよね? 世界は刻一刻と進んでるんですよ。時計のねじをちゃんと巻いてください、ついでに頭のねじも」
なんていうんでしたっけね、こういうの。
そうそう、『概念上のおねえさん』です。わりに余計な情報入ってますね、ボクのデータベース。
だいたい隣のおねえさんはなんで金髪碧眼なんですか。ホームステイでもしてるんですか。それはそれで設定が細かくて怖いですが。
まあでも、こういうのは深くつっこまないようにしましょう。配慮あるツッコミ役を目指すボクの気遣いです。
さあ、ついにKJ001号を起動させますよ!
これが終わったらニャオちゅ~るをもらえる約束してますからね。ゴロゴロ。