4話 美女×兵器はロマンらしいです
「絶対に壊せない破壊兵器を造るのだ!!」
それだけ聞くと、何も壊せない役立たずの破壊兵器みたいですけど。
Dr.ヒラガは特殊な性癖を……。いや、病気……かな? とにかく人間性において重篤な疾患を抱えていまして。前にも説明したように場の空気、カップル、飲み会、はては地球そのものなどなど、なんでも壊さないと気が済まないタチなのです。
つまり、壊せない破壊兵器とは──
ドクターが持病の『破壊衝動』を遂行して壊そうとしても、絶対に壊れない最強の破壊兵器という意味です。
最初から壊さなきゃ、そんなややこしい物造らなくて済むと思うんですけどね?
まあ、なにが原因で患ったのか事情は知りませんが、もしかすると過去にトラウマでもあるのかもしれないねぇ。
正直あまり繊細なタイプには見えないので、ボクの中では思春期に芽生えてしまったただのアブノーマルな性癖説が濃厚です。
そんなボクは何者かというと。
変質者のドクターを健気に見守る、ネコ型ホムンクルスの『助手』なのです。
脳にはあらゆるデータベースが保管され、毛色は白黒茶の三毛、趣味はひなたぼっこ、好きなオヤツはニャオちゅ~る。どうぞよろしく。
***
「壊せないって、爆弾のボディをめちゃくちゃ硬くするとか? どんなに丈夫な兵器を造っても、ドクターの無駄に高い解体技術があれば一瞬で解体できちゃうじゃないですか」
「無駄は余計だ。私の天才的技術に無駄などあるものか」
それは失礼。失言でした。
地球と人類をドクターから守るために、必要不可欠な技術でしたね。
「要は、私の技術を上回る防御力があればいいのだ。だが、私の知能をフルに発揮して造ったところで自身は超えられん。構造を知り尽くしているから単純に硬ければいいというものでもないしな。そこで、だ──」
と、ドヤ顔で仁王立ちするドクター。
あ、目やについてる。この話よりも最後にいつお風呂入ったかのほうが気になる。
おっといけない。いつもの戯言だと思って真面目に聞いてませんでした。ゴロゴロ。
そこで?
「絶対防御システムとともに、人工知能を搭載する! 自動的に学習し、成長する兵器というわけだ! 私の知能と技術を上回る史上最強の破壊兵器が誕生するぞ!!」
「むむっ!? 人工知能!?」
聞き捨てならないですね。
それってつまり……。
「ホムンクルスのボクと立ち位置が被っちゃうじゃないですかー!! もしかして、ボクはお役御免ですか!? フーッ」
「待て。落ち着け、助手よ。まったく被っていないだろうが」
「だってその兵器、AI搭載ってことは喋ったりするんでしょう! 二匹目の助手じゃないんですか!?」
「次は猫にするつもりはない。小動物ならばカップルやパリピ集団に近づきやすくていいかと思ったが、実際はあまり役に立たなかったからな」
なんだとこの野郎! 変態野郎!
人の苦労も知らないで!
「毎日健気にもドクターに癒しとツッコミを提供しているボクは役立たずですか! 心的外傷後ストレス障害で労災請求しますからね!! フーッ」
「落ち着けというのに。今回はそうだな、人型にしようと思っている。しかも女だ。美女×最強兵器のコラボレーション!! ロマンに溢れるだろう!?」
ああ、そういうあれですか……。
ボクとはちょっと方向性の違う癒やしってヤツですか。
「ドクター、いくらモテないからって。アンドロイドは美少女フィギュアじゃないんですよ?」
「おかしな同情の目線を向けるな!」
うーん、でも、もしかして……。
ドクター、じつは寂しいんでしょうか?
恋人はもちろんのこと、家族や友達がいる話も今まで聞いたことがありません。
この広い日本家屋にずっとひとりきりですし、人との触れ合いに飢えているのかも。
『破壊衝動』は寂しさの現れで、カップルやパリピの人たちを妬んで爆破しようとするのも、それが理由だったりするのかもしれませんよね……。
ちょっとかわいそうになってきました。ネコ型が役立たずと言った問題発言は水に流してあげましょう。これ以上仕事が増えてひなたぼっこの時間が減っても困りますし。
と、ボクがしんみりしていたというのに。
「まあ、べつにゴリラでもバケモノでも構わんがな。地球を壊せればなんでもいい。美形のほうが醜いよりかえって造形するのが楽だというだけで」
前言撤回。
ただの危険人物でした。こんな変質者がご主人でボクは本当に大丈夫でしょうか。
同情して損しました。ドクターの『破壊衝動』はやっぱり思春期に芽生えてしまったただのアブノーマルな性癖説が濃厚ですね。
グルーミングしなきゃ。ペロペロ。