3話 じゃあ、壊せなければいいって?
あたたかい太陽。縁側でひなたぼっこ。
毎日変質者のご主人様に付き合わされて、ネコながらに胃が痛くなりそうな日々を送っているわけですが──
ひなたぼっことニャオちゅ~るがあれば、少しくらいの苦労はなんのその。
そう、少しくらいの苦労は……
「助手、今すぐそこから離れろ!! 我が家はあと6.38秒で爆発する! さらばだ偉大なる先祖、平賀源内の遺産!」
少しじゃなかった。
爆発から逃げると同時に、ズサーっと労働基準監督署にでも駆け込むとしましょうか。紙袋に突っ込むくらいの勢いで。
あれで遊ぶの好きなんですよね、ボク。
***
「ふうむ、残念ながら不発だ。破壊衝動が止まらず、発明した新型兵器が今まさに爆発するという直前でつい壊してしまった。軽量化しながらも町内まるごと吹き飛ばす威力の超小型爆弾だったんだぞ、すごいだろう!?」
「町内まるごとって、それ、爆発してたら6.38秒以内に逃げられました? 走った意味ありました?」
運動不足の体でぜえぜえ息を切らしているのは、変人発明家のDr.ヒラガ。
そのボサボサ頭にしがみついているボクは、ネコ型ホムンクルスの『助手』です。といっても、とくに発明の手伝いをしているわけじゃないのですが。
しいていうなら、癒し役でしょうか?
イタリアの刑務所ではアニマルセラピーで受刑者の情緒安定に絶大な効果をもたらした実績があるそうです。
『破壊衝動』という危険極まりない性質を持ってしまったDr.ヒラガの情緒は、ボクの可愛さによってかろうじて均衡が保たれているに違いないのです。
ほとんど世界平和を守っているようなものですよね。
「今日はいったい何ヶ月分の食費をムダにしたんですか。ドクターが変な発明ばっかりして働かないから、ウチはいつも貯蓄切り崩しの火の車なんですよ。最後の砦、定期預金を解約しますよ。ボーナスのニャオちゅ~るがなくなったら転職しますからね!」
「次は中野まで届くくらいの巨大な弾道型ミサイルもいいな。壊すより先に素早く起爆するよう、スラッパー起爆式雷管の金属ワイヤーを光ファイバーに変えた改良型で造ってみるか」
ぜんぜん聞いてない。ネコキックしてやろうか。
髪の毛に蜘蛛の巣を張りつけて一日雨に打たれたあと乾かしたみたいなそのボサボサ頭にネコキックしてやろうか!
おっといけない。Dr.ヒラガを相手に怒ってもキリがないのです。グルーミングで気を鎮めましょう。無駄な怒りを溜め込まないのも処世術というやつです。
上司にイラっとしたときは毛づくろいがオススメです。ペロペロ。
「で、今度は何を破壊しようとしてるんです?」
「中野で行われる予定の街コンだ」
「またですか。合コンやら街コンを潰すために、どれだけの広範囲を爆破する気ですか。だいたい渋谷とかじゃなくて中野って、お仲間の陰キャが幸せになるのが嫌で足を引っ張りたいだけじゃないですか~」
「まあ聞け。さっき造った超小型を使ってだな、黒ひげ危機一発に爆弾を仕込む実験をするのはどうだ? もちろん剣を刺して黒ひげが飛び出したら爆発する仕組みだ。二次会で『今夜はキミの差込口も危機一発!』などと盛り上がっている若い男女をまとめて木っ端みじんというわけだ!」
わぁ、ひどいな発言がいろいろと。
変人でも安心感のある面白さならいいですけど、Dr.ヒラガってナチュラルにドン引きされるタイプの変質者ですよね。
「今時、二次会で黒ひげ危機一発を始める若い男女がいればいいですねえ……」
王様を引いたら爆発する王様ゲームのほうがまだ可能性はありますね。あとはカラオケで音程をはずしたら爆発するマイクとかよくないです?
でも、ドクターに教えたらほんとに造りかねないので黙っておきましょう。
「なんにせよ、ドクターは完成した瞬間に壊しちゃうので意味ないですね~」
「む、今の言葉で気づきを得たぞ。さすがは助手だ」
「いやぁそれほどでも。で、どんな余計な気づきを得てしまったんですか?」
「余計は余計だ」
ふふふ、と胡散臭い片眼鏡を反射させ、怪しく笑いだすDr.ヒラガ。
羽織の裾をばーんとひるがえし、ふんぞり返ってドヤ顔をキメました。
「完成してしまえば、どうしたって壊したくなるからな。そこで発想の転換だ。絶対に壊せない破壊兵器を造ればいい!」
「絶対に壊せない……?」
「そうだ、それならば私に壊されることもなく、私が破壊したいすべてを破壊し尽くしてくれることだろう! 最終目標は地球の爆破だ! 待っていろ地球人!!」
いったいあんたはどこに住んでる何星人なんですか。
癒しと並ぶ助手の大事な業務とはいえ、ツッコミも結構心労が絶えないんですよ。
気を鎮めるには毛づくろい。ペロペロ。
あとでハロワにオンライン登録しよう。あ、その前に労基か。
ネコ型ホムンクルスでも受け入れてもらえますかねぇ。